東京女子医科大が、2021年度以降の入学者の学費を6年間で計1200万円値上げすることが報じられ、ネット上で波紋が広がっている。大幅値上げにより、同大は私立医大のうち全国で2番目に学費が高くなる見通しだ。医学部受験に詳しい予備校代表は、値上げの動きが他大学にも広がる恐れを指摘する。
ボーナス「不支給」騒動も
東京女子医科大を巡っては、同大傘下の東京女子医科大病院が、コロナによる経営悪化などを理由に一時、夏のボーナスの不支給を決めた。ボーナスゼロや、多数の看護師が一斉に退職する意向であることが報じられ、国会でも取り上げられるなど話題に。病院側はその後、ボーナスの原資の目処が立ったとして支給に転じた。同病院では2014年に2件の死亡事故が発生。そのうちの1件では、病院側に賠償金の支払いを命じた一審判決が確定している。
受験あきらめる学生
大幅値上げの決定は、すでに受験生に影響を与えている。
医学部予備校ACE Academy代表の高梨裕介さんは、8月初旬、東京女子医科大の公式サイトで、学費が大幅に増額されていることに気づいた。同大が公開する医学部の入試案内によると、6年間の学費総額は4621万4000円。前年度比で1200万円の値上げになる。
「私たちの予備校に通う生徒で、東京女子医科大を受ける予定だった生徒のうち、半分以上が学費の値上げを理由に受験を諦めました。お金が無ければそもそも受けられないし、受かったとしても学費の安い別の大学も受かれば、わざわざ高い方を選びません」(高梨さん)
偏差値と学費、関連は
高梨さんによると、値上げの影響は学生の経済的な負担が増えることにとどまらない。「例外はあるものの、学費が上がれば偏差値は低下する傾向があります」
河合塾が公式サイトで公表している全国の私立大学医学部の学費ランキング(2020年7月掲載)と偏差値は以下の通りだ。
河合塾のデータによると、学費3500万円以上の13大学のうち3大学が偏差値62.5。学費が最も高い大学の偏差値は最も低い。一方で、学費2000万円台までの10大学のうち、9大学が偏差値67.5以上となっている。東京女子医科大は値上げ前の2020年度までは学費が3400万円台で、全国の私立大医学部の中でも平均的だった。
「『学費が群を抜いて高く、偏差値は低い大学』というイメージが付けば、在学生や卒業生に与える影響は大きいです」(高梨さん)
値上げ「追随」の懸念
コロナ禍で全国の病院の経営悪化が問題になっている。一方で、高梨さんによると、私立医大のうち、コロナによる経営難を理由に来年度の学費の値上げを決めた大学は他にないという。東京女子医科大は値上げの詳しい理由を公表していない。
高梨さんは、「東京女子医科大の経営悪化はコロナが本当の原因とはいえず、医療事故などの不祥事や経営能力に問題があるように思います。大学側は値上げの理由を在学生や受験生に向けてきちんと説明していません」と批判。「今回の学費増を受け、他の大学でもコロナを理由にして大幅値上げに追随する動きが出てきてしまうのではないかと懸念しています」