大坂なおみが語った「スポンサー企業失う恐怖」 企業側はどう答えた?【14社調査】

大坂選手の優勝と、大会を通じて黒人への人種差別や暴力に抗議するメッセージを発信していたことや内容について、各社にコメントを求めた。
|
Open Image Modal
全米オープンの大坂なおみ選手
USA Today Sports / Reuters

大坂なおみ選手は、テニスを通じて黒人への人種差別や警察による暴力に立ち向かう裏で、スポンサーを失うかもしれない不安とも闘っていた。

全米オープンの前には、TIME誌の対談記事で「アスリートは発言をする度にスポンサーを失うことを恐れています。私がまさにそうでした。スポンサーのほとんどが日本の企業だから」と語っていた。

それでも毎試合、犠牲者の名を記したマスクをつけて臨み、用意した7枚全て披露し、優勝した。

リスクを抱えながら自分を貫いた大坂選手の行為を、スポンサーやパートナー関係などにある企業はどう捉え、受け止めたのか。

大坂選手の優勝と、大会を通じて黒人への人種差別や暴力に抗議するメッセージを発信していたことや内容について、ハフポスト日本版は大坂選手のスポンサーやパートナーなどの関係にある14社にコメントを求めた。

大坂選手の行動に対して踏み込んだ見解を示したのは、ヨネックスだけだった。

メールで回答を求め、9月28日までにコメントがあったのはそのうち7社。それぞれの見解を紹介する。

日清食品

▽優勝について

大坂なおみ選手の2018年に続く全米オープン優勝・グランドスラム3勝目は、弊社スローガン『HUNGRY to WIN 世界に、食ってかかれ。』のスピリットを体現するもので、非常に喜ばしく思います。今後のグランドスラム、また来夏のオリンピックでの活躍を願うとともに、引き続き全社を挙げて応援してまいります。


▽人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

大坂なおみ選手個人の言動に関しましては、コメントする立場にございませんので、コメントは差し控えさせていただきます。

ANA

▽優勝について

無観客となった前代未聞の今大会で、高い技術と強い精神力を発揮し、苦しみながらも逆境を跳ね返したプレーは、コロナ禍と戦う世界中の人々に勇気と感動を与えてくれました。2度目の全米オープンチャンピオン、本当におめでとうございます。


▽人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

弊社としては、引き続き大坂選手を応援していくとともに、世界中で活躍できる環境づくりをサポートしてまいります。

ヨネックス(YONEX)

▽優勝について

2008年から長きにわたりサポートする大坂なおみ選手が、新潟自社工場製の当社ラケット・ストリングで、グランドスラム3タイトル目を獲得したことを大変喜ばしく思います。

 

▽人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

当社は「独創の技術と最高の製品で世界に貢献する。」を経営理念とし、「ヨネックスの国籍は世界」としております。スポーツに国境や人種差別はあってはならず、わたしたちは世界中のスポーツをするすべての方に楽しんでいただきたいという願いの中で企業活動を行っています。大坂選手の行動はわたしたちの基本姿勢と通ずるものであると考えており、当社はその行動を尊重します。

シチズン(CITIZEN)

▽優勝について

大坂選手が優勝したことを大変嬉しく思っています。

▽人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

大坂選手個人の活動に対して、スポンサー企業として発言する立場ではありませんが、彼女の勇気ある行動を尊重しています。

Mastercard

▽優勝について

大坂なおみ選手。Pricelessな勝利、おめでとうございます。あなたの魅力と勇気ある行動はコートの中でも外でも私たちの心を捉えてやみません

 

▽人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

Mastercardはダイバーシティやインクルージョンに関して、真剣に取り組んでおります。6月25日にMastercard CEOアジェイ・バンガとプレジデント マイケル・ミーバックがMastercard全社員に向けて発信したメッセージを公開しています。こちらにはMastercardの人種差別などに対する姿勢や考え方が示されております。

 

「連帯:人種差別に立ち向かい、全ての人への平等な機会を促進する」

In solidarity: Standing against racism and advancing equal opportunity for all》(タイトル原文) 

森永製菓

▽優勝、人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

全米オープンテニスの優勝おめでとうございます。たゆまぬ努力を重ねすばらしい結果を出されたことに、心から敬意を表します。 世界全体がコロナ禍の中、この明るいニュースに私たちも勇気と元気のパワーをいただきました。私たちはこれからも、大坂選手の考えを尊重しつつ一層のご活躍へ応援を継続してまいります

WOWOW

▽優勝について

フィジカルもメンタルも著しい進化を遂げた大坂選手が、数々の接戦を勝ち抜き全米オープン2度目の優勝を成し遂げた事、その瞬間を日本の視聴者にお伝え出来た事をうれしく思います。全仏オープンの欠場は残念ではありますが、世界が注目する大坂選手の活躍を引き続きお届けしていきます。(番組プロデューサー:須川 賢一)

▽人種差別や暴力に抗議するメッセージの発信や内容について

あくまでも弊社はテニスを放送している媒体なので、見解は特にございません。

その他のスポンサー・パートナー関係にある各社は、コメントを控えるという回答や、回答なしだった。

ハフポスト日本版では9月中旬、大坂選手の公式サイトに記載されている15企業のうち、現在もスポンサーやパートナー関係にある14社にコメントを求めた。

コメントがあった7社のうち、大坂選手の行動に対する明確な見解を示したのはヨネックスだけだった。「スポーツに国境や人種差別はあってはならず」と踏み込んで言及し、大坂選手の行動と同社の姿勢を重ねた。

その他の企業は、大坂選手の行動に対して「コメントする立場にない」「見解はない」など、人種差別などに関してコメントすることに躊躇する様子がうかがえた。

その中でも、シチズンは「彼女の勇気ある行動を尊重しています」という立場を示している。

またアメリカ企業のMastercardのように、BLM運動の高まりを受けて、人種差別に対して打ち出した姿勢を紹介する企業もあった。

消費者の賛否、企業に何ができるのか

消費者に支えられている企業にとって、消費者の中で賛否が分かれる事柄に対して、どう態度を表明することができるのか。

ハフポスト日本版の取材に対して、エデルマンジャパンのメイゲン・バーストウ社長と、スポーツエンターテイメントを専門とするエージェンシー「ユナイテッド エンターテイメント グループ」のメアリー・スコット社長が連名で回答した。

大坂選手のような世の中に問いかけるアスリートをめぐる企業発信について、「企業スポンサーがそれぞれの立場を明確にし、対話に参加し、変化を進めるための意味ある行動をとるということに、ますます期待が高まっている」と語る。

「企業にとって重要なことは、自社の戦略を考慮した際に、アスリート、ブランド(企業)、そしてそのステークホルダーのそれぞれの価値が交差するところはどこなのか、を見極めることです」

エデルマンが過去20年続けてきた信頼度調査によると、世界8カ国(約1万6000人)の81%の人々が、企業に対する信頼は、消費者の購買判断を決定づける要因になると回答。日本でも70%の人々が同様に答えているという。

アスリートやスポーツチームをスポンサーする企業は、社会問題に対するそれぞれ自社のスタンスや行動、歴史や貢献に基づいてコミュニケーションのあり方を決定するべきなのです。その上で、信頼という文脈の中で、文化的、社会的に期待されること、またその状況を尊重することが重要です」