新しい命の誕生を家族で迎えるーー。そんな当たり前のことが難しい時代になった。
コロナ禍の出産で、産後の入院中にパートナーや家族との面会を希望しても叶わなかったケースが8割にのぼった。
NPO法人ファザーリング・ジャパンとスリールが行ったコロナ前後の妊娠・出産、子育てについての実態調査。コロナ前後で妊婦や出産を経験した女性とその配偶者、また子育て中の男女計558人の回答からは、withコロナ時代の妊娠・出産と子育ての実態が浮き彫りになった。
アンケートは8月11〜23日、インターネットで実施。2020年2月までに出産したケースを「コロナ前出産」、3月以降に妊娠・出産したケースを「コロナ禍出産」と分類して分析した。(コロナ禍出産は166件、コロナ前出産は392件のサンプルが集まった)
出産後の面会希望、実現したのは 91% → 20%
アンケートによると、出産後にパートナーや家族の面会を希望した人のうち、実現できたのはわずか2割。コロナ前出産では、希望者の9割が面会できていた。
「立ち合いも面会も何もかも中止になり、悲しくて悲しくて思わず泣いてしまいました」
「隔離されていることで安心感もあります。ただ、一生に一度きりの誕生を共に喜べない悲しみは拭うことはできないと思います」
<アンケート自由記述より>
立ち会い出産の希望、実現は 87% → 40%
「立ち会い出産」はコロナ前後で希望の割合は変わらなかったが、実現率は47ポイント低下した。
また、妊婦検診へのパートナーや家族の同伴も、コロナ禍前後で「希望」にほとんど差はないが、「コロナ前出産」では87%が実現しているのに対
して、「コロナ禍出産」では32%しか実現していなかった。
「コロナ禍で妊娠後期に入り緊急事態宣言下で出産しました。立ち合い出産も入院中の面会も一切禁止、一人で分娩室へ入った時はとても心細かったです。コロナ禍での妊娠中に精神的に最も辛かったのは、毎日テレビや新聞で見聞きするニュースがコロナ関連一色だったことです」
「妊婦検診に上の子を連れていけないこと。誰にも預ける人がいない」
<アンケート自由記述より>
「オンライン立ち会い出産」期待の声も
一方、立ち会い出産には懸念の声も上がった。
「立会出産は大切ではありますが、医療従事者の負担を増やす恐れが気になります」
「個人的には、立ち会い出産は手段であって目的ではないので、コロナ禍で立ち会い出産の方法を支援するよりは、夫が産後の妻をケアする心構えの啓蒙に力を入れた方が有意義だと思います」
<アンケート自由記述より>
「新しい生活様式」下での出産のあり方として、オンラインの活用を期待する声も多数寄せられた。
アンケートには、「出産に伴う手続きをオンラインで簡易に行えるようにしてほしい」「オンライン立ち会い出産を予定している」という声も。「友人は出産時にLINE電話を繋げながら出産した」と友人のエピソードを紹介する人もいた。
産前産後の両親学級や産後のエクササイズなどのケア・サポートでは、すでにオンラインを活用している事例もあり、選択の幅は今後も広がる可能性がある。
里帰り出産、産後のサポートも低下。孤立深まる産後育児
産後育児で母子が孤立している可能性も浮き彫りになった。
里帰り出産を希望する人の割合はコロナ前後で18ポイント低下。感染リスクを避けるため、最初から里帰りを諦めた人が多そうだ。
親族などによる出産後の産後ケアサポートを希望する割合もコロナ前後で8ポイント減ったが、実現率は「コロナ前出産」が84%だったのに対し、「コロナ禍出産」では52%にとどまった。
ただでも母子が孤立しがちな産後育児。妊娠・出産前後にパートナーや家族との接触が制限され、産後も実家などの協力を得られないまま子育てがスタートする中で、コロナ禍が母親の不安や孤独感を強めたケースも少なくない。
「不安ばかり」「とても苦しい」悲痛な声も
アンケートからは、産後育児の孤独な実態も浮かんだ。自由記述の一部を紹介する。
「まったくバースプラン通りではない出産で、入院直前に面会も立ち合いもできないことが決まり、ショックで数日泣いて過ごしていました。
予定帝王切開でしたが、その時の大変さを夫と共有できなかったことは産後の夫婦関係にも影響していると思います(術後に痛みなどでとても大変なことだったということが、夫がその場にいなかったことで伝わらないので...)。
夫に入院中接触することが禁止されていたので、出生届も入院中出すことが病院で禁止されました。
産後は自治体や病院での産後ケアに関する講座やセミナーが軒並み中止で、家族以外話す機会もなく家にこもりきりなので精神的にも辛いです」
「6月に出産して、何も分からない最初の1ヶ月、赤ちゃんを外にも出せないのに親に手伝いに来てもらうこともできなくて、両親学級もなかったので分からないことだらけで、とにかく不安ばかりで毎日泣いてました。。」
「夫の理解が得られる機会があまりになく、ママ友などの共通の話題で話せる人とも会えず、気分転換に外出することもままならず、正直とても苦しい」
「激務の夫も積極的に育児に参加してくれますが、限界があります。
ママ友もおらず、産後のちょっとした不安を共有することもできません。
赤ちゃんは、まだ義母にしか会えておらず、義父や実母、その他親族に会わせたいけど、東京と地方の往来はコロナ感染拡大のリスクがあり躊躇しています。寝不足でボロボロ、赤ちゃんが可愛くないわけではありませんが、無の境地です」
コロナで絆が深まるケースも
「コロナ禍出産」の希望実現率が「コロナ前出産」を唯一上回ったのが、父親の育休取得だった。
「コロナ前出産」では希望通りに育休を取得できたのは58%だったが、「コロナ禍出産」では67%まで上昇。
「男性育休」についての議論が進んだことに加え、新型コロナの影響でテレワークや外出自粛などが進み、結果的に育児に関わる時間が増えたケースも少なくない。
「コロナ禍で在宅ワークが進んだり、事業が減るなどして、逆に主人が休暇を取得しやすい雰囲気だった」
「新生児期間は、夫が完全に在宅勤務だったため、ある意味ラッキーで、夫は授乳以外の育児は完全にマスター」
<アンケート自由記述より>
「夫がリモートワークで家で過ごす日々が多くなったので、退院後の家事を担ってくれたり、赤ちゃんを順番であやしたり(そのおかげで睡眠を確保できた)、帰宅時間など気にぜずに、毎日夕方頃に赤ちゃんをお風呂に一緒に入れたりと、家にいるからこそ、慣れない子育てを一番大変な数週間、数カ月、一緒に力を合わせて子育てできる時間を作る事ができた」
「在宅勤務が当たり前となり、特に悪阻中などほとんどの家事を夫がやってくれたことは非常に助かった。自分も悪阻中でもほぼ休まず働けたのはテレワークのおかげだし、残業も通勤もせず規則正しい生活と疲れない生活で順調な経過を送ることができた。自分の場合コロナによるメリットの方が大きかった」
<アンケート自由記述より>
「産後うつ」どうなくす?
コロナ禍の影響で母親の孤立が深まったケースとパートナーとの協力体制が充実できたケースと二分化された可能性も浮き彫りにした、今回のアンケート。
厚生労働省の研究班の調査によると、産後1年以内の妊産婦の死亡理由で最も多いのは「自殺」となっている。「産後うつ」などメンタルヘルスの悪化によるケースが多く、父親のリスクも指摘されている。