韓国で、卒業写真で顔に黒塗りメイクをした高校生の仮装写真が論争を呼んでいる。黒人タレントの批判に対して高校側は「人種差別の意図はなかった」と釈明したが、ネットではタレント側と連帯する動きが始まっている。
どんな写真だったのか
議論になった写真をあげたのは、議政府高等学校。毎年、学生たちがユニークな仮装をし、卒業写真を撮ることで有名だ。学生たちはそれぞれ「レジェンド」に扮しており、これは10年を超える伝統になっている。
高校の学生自治会は8月3日、Facebookで卒業写真を公開した。韓国の芸能人や映画「パラサイト」のポン・ジュノ監督など、話題となった有名人や独立運動家の服装をした姿などが注目された。
一方、議論を呼んだ写真もあった。学生たちが、顔を黒く塗り、棺を持っている写真だ。ガーナのある葬儀場で、棺を持ったまま踊る担ぎ手たちの姿に扮したものだ。
棺を持ったまま踊るガーナの担ぎ手は、撮影された動画が韓国のYouTube上で人気になり、「ミーム」(ネタとしてネット上で拡散される動画や画像)としても流行した。ネット上では、人気アーティストの「防弾少年団」になぞらえて「棺桶少年団」という名前がつけられ話題になっていた。
卒業写真の中、学生たちが扮したのがこの「棺桶少年団」だったが、顔を黒く塗るメイクをした姿に、人種差別だという指摘が出ていた。
この卒業写真に対して、韓国で活躍するガーナ共和国出身のタレント、サム・オキア氏は、「残念で悲しい」と表明した。
オキア氏は8月6日、自身のインスタグラムを通じて「黒人の立場からとても不快な行動だ。お願いだからやめてもらいたい」と指摘した。(現在は削除されている)
続いてオキア氏は、学生の仮装写真をアップロードし「文化を真似するのはわかるけれども、顔まで色を塗らなければならなかったのか。韓国でこのような行動がなくなるといい」とも批判した。そして、「お互いの文化を尊重することが一番大切だ。そして機会があれば一度一緒に話をしたい」と伝えた。
議論に対する学校の反応は
オキア氏による「人種差別ではないか」という指摘に対して、学校側は公式見解を明らかにした。
学校側はOSENのインタビューで「YouTubeの映像をパロディにしただけであり、人種差別の意図は全くなかった」と説明した。
学校側はまた、該当写真が人種差別論争にまで火がついたことについて、当惑しているとし、悪意がなかっただけに、行き過ぎた拡大解釈は自制してもらいたいとお願いした。
しかし、オキア氏による公開批判で議論が広がり、学校側は内部の論議を経て該当写真の取り扱いを検討する予定だとも述べている。
サム・オキア氏が謝罪。過去に東洋人を卑下するポーズをしていたと批判も
一方で、卒業写真を批判していたオキア氏が謝罪に追い込まれる事態にもなっている。
謝罪の背景には、ネット上で、オキア氏による黒塗りメイクが「ブラックフェイス」にあたるという指摘が過度であるという意見が多かったことにある。
また、「黒人差別」を訴え不快感を示していたオキア氏が、過去にJTBC「非正常会談」の放送で、両目を指で細くするポーズをしていた場面が発掘され、非難も巻き起こった。このポーズは、典型的な東洋人を差別するジェスチャーだからだ。
オキア氏は8月7日、インスタグラムにアップロードした謝罪文で「私があげた写真と文により、物議を起こした点について申し訳ない」、「学生たちを卑下する意図は全くなく、私の意見を表現しようとした。しかし一線を超え、学生たちの許可なしに写真を上げて申し訳ない」と、学生たちの顔が写っている仮装写真を自分のインスタグラムにアップロードしたことに対し謝罪した。
そして「韓国教育が正しくないということではない」とも述べた。
また、文と一緒にKPOPの裏話、ゴシップを意味する「#teakpop(tea+kpop)」を使用したことに対し、「teakpopハッシュタグがKPOPに対する良くない話をする内容ということを知らなかった」という内容も付け加えた。
「#teakpop」ハッシュタグを利用し、KPOPに関心がある外国人に対して韓国内の人種差別問題を知らせようとしたのではないかという指摘に対する答えである。
オキア氏は最後に、「韓国で長い間、愛をたくさん受けていたのに、今回のことは軽率だったようだ」と記した。
議論に対するネットでの反応
これに対して、オキア氏に対する非難が過度であるという反応も出ている。
こうした人々は学生が知らずに「ブラックフェイス」をしてしまう可能性はあるが、擁護するのではなく、正しく捉えなければならないと訴える。また、オキア氏が過去に東洋人差別をしたからといって、韓国人の黒人仮装が黒人差別でないと言えないという指摘だ。
自分たちの差別問題に向き合うことなく「韓国人対外国人」という構造で理解し反発することへの批判である。
Twitter、Instagramなどソーシャルメディアで登場したのが「#私は_サム_オキアと_連帯する」「#I_Stand_with_Sam_Okeyre 」ハッシュタグだ。
このハッシュタグには、「無知はこれ以上言い訳にならない」「人種差別主義者たちの国に住むのは恥ずかしい」などの内容があがっている。
「ブラックフェイス」はアメリカ南部でまだ奴隷制が合法だった時代に、白人コメディ俳優が白人観客に向けたコント演技をしたことで広まったとされる。黒人キャラクターは差別意識を元に「汚くて醜く、知能が低い、危険な存在」として演じられていた。
この歴史のため、非黒人による黒人扮装はアメリカとヨーロッパでは人種差別の象徴の一つとなり、修正を要求されている。一方で指摘を受けてもなお続けられている作品もあり、「伝統的な遊びであるだけ」という意見と「人種差別的な伝統は変えなければならない」という意見が衝突しているオランダの「ブラック・ピート」がその代表例である。
黒人に対する人種差別が主要な社会問題として扱われない一部アジア国家(タイ、日本など)でも、近年、芸能人による黒塗りメイクが「ブラックフェイス」扮装にあたるとして国内外で批判を受けた事例がある。
日本では2017年の大晦日に放送された人気お笑い番組での騒動が記憶にある人も多いだろう。
その批判には、外国人の視聴者に対する考慮がないという面も指摘されているが、アジアでも、アフリカ系を卑下したり彼らに対する固定観念を笑いの素材として使ってきた側面もある。
韓国でも「ブラックフェイス」を利用したパフォーマンスとよく言及されるコメディコント『シコモンス(色黒の人たち)』は1987年、ソウルオリンピックを前に廃止された。
ハフポスト韓国版を翻訳・編集・加筆しました。