ジャーナリストの伊藤詩織さんは8月20日、Twitterで伊藤さんを誹謗中傷する複数の投稿に「いいね」を押したとして、自民党の杉田水脈衆院議員に220万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
伊藤さんが自身に対する中傷ツイートをめぐって提訴するのは、漫画家のはすみとしこさんらを訴えた6月に続いて2度目。
訴状によると、杉田議員は2018年6〜7月、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたという伊藤さんの訴えについて、「枕営業の失敗」「日本を貶めている」「カネを掴まされた工作員」などと誹謗中傷した13件の投稿に「いいね」を押したとしている。
さらに、伊藤さんを擁護するツイートをした人物に対して「キチガイ」「屑野郎」などとバッシングする12件の投稿にも「いいね」を押したとして、杉田議員が「袋だたきを賞賛しているように映る」と指摘。
杉田議員の公式Twitterは当時で約11万のフォロワー(現在は18.3万)がいたといい、誹謗中傷ツイートに好感を表明する「いいね」を押したことは、名誉感情侵害行為にあたるとしている。
また、元東大准教授の大澤昇平さんに対しても、6月の提訴後に伊藤さんを「偽名」だと虚偽の内容で中傷する投稿を行ったなどとして、慰謝料110万円と投稿の削除を求めて同日提訴した。
杉田議員の事務所は今回の提訴に関するハフポストの問い合わせに対して「訴状が届いておりませんので、コメントはいたしかねます」と回答した。
大澤さんも「訴状が届いていないため、コメントを差し控えます」と回答した。
BBC番組内での「女としての落ち度」発言をめぐる投稿に“いいね”
杉田議員が「いいね」したツイートは、いずれも2018年6月にBBCが伊藤さんを特集した報道番組「Japan’s secret shame(日本の秘められた恥)」に関連したものだ。
番組の中で、杉田議員は、伊藤さんが「男性の前で記憶がなくなるまでお酒を飲んだ」ことが「女として落ち度がある」などとコメント。「セカンドレイプに当たる」として批判を浴びていた。
放送後の2018年6月29日には、Twitterにこう投稿している(現在は削除)。
「もし私が、『仕事が欲しいという目的で妻子ある男性と2人で食事にいき、大酒を飲んで意識をなくし、介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むような事をする女性』の母親だったなら、叱り飛ばします。『そんな女性に育てた覚えはない。恥ずかしい。情けない。もっと自分を大事にしなさい。』と」
訴状の中で、杉田議員が「いいね」を押したとしている投稿は、いずれもこうした杉田議員自身のツイートに返信するかたちで投稿された。
杉田氏、インタビューでは「貶めるつもりなかった」
杉田議員は2019年12月のハフポスト日本版のインタビューに対し、一連の発言や投稿について「彼女(伊藤さん)を貶めるつもりは決してありませんでした」と語っている。
男性とお酒を飲んだことが “女としての落ち度” に当たるという発言は「一般論として、女性の男性との同室や飲酒に関する自己防衛の在り方について考えを述べた」ものだったと主張。
BBCでの発言は検察審査会で山口敬之さんが不起訴相当になったことを受けたもので、批判が寄せられたことについては「私の表現の拙さゆえ」「今もし同じ質問をされたら、あのような話はしなかったと思います」と釈明した。
「言葉が人を傷つけ、死に追いやることもある」
元TBS記者の山口敬之さんからの性暴力被害を訴えていた伊藤さんは、2019年12月に東京地裁で開かれた民事裁判で勝訴。山口さんは控訴している。
山口氏との裁判の判決後、伊藤さんは自身への中傷やセカンドレイプについて「法的措置を考えている」と明言。「枕営業」などと揶揄したイラストを投稿したとして漫画家のはすみさんを訴えた2020年6月の記者会見では、提訴に踏み切った理由について次のように語っていた。
言葉には人を傷つけ、時には死に追いやってしまうこともたくさんあります。言葉で人をこれ以上傷つけることがないよう、何かアクションを起こしていく必要があると思っています。
「いいね」は名誉感情を侵害? 過去には…
今回の提訴では、「いいね」が不法行為に当たるかどうかが焦点となりそうだ。過去には、橋下徹・元大阪府知事が、虚偽の内容で自身を誹謗中傷する投稿をリツイートした男性ジャーナリストを相手どり提訴。
朝日新聞デジタルによると、6月の大阪高裁の判決では、元ツイートに相手の社会的評価を低下させる内容が含まれる場合、リツイートによって自身のフォロワーに元ツイートの内容が表示されると指摘。リツイートの意図や目的を問わず、名誉毀損による不法行為の責任を負うとの判断を示した。
男性ジャーナリストは提訴前にリツイートを削除していたが、控訴審判決は多数のフォロワーがいる男性ジャーナリストのリツイートが「橋下氏の社会的評価を低下させた」として慰謝料の支払いを命じた一審判決を支持した。