戦争で生まれた子ども達ーー日系オランダ人を知っているだろうか。
1942年から終戦までの3年半、オランダ領東インド(現:インドネシア)を占領していた日本。日本の軍人や軍属と現地のオランダ系の女性との間に生まれたのが、日系オランダ人だ。日本の降伏後、インドネシア独立戦争の混乱を逃れて、母親らとともに本国・オランダへと向かった。そこで待っていたのは「敵の子」という冷たい視線だった。日本軍の捕虜として強制労働を経験したオランダ人の継父から虐待を受け、トラウマを負わされたりした子ども達もいた。
彼らの多くは、自身の日本のルーツを隠したり、家族に何十年も知らされないまま育った。オランダ在住のフォトグラファー・奥山美由紀さんはそのことを知り、日系オランダ人やその家族の肖像をドキュメンタリー作品『Dear Japanese: 戦争の子どもたち』に収めた。
「ひねりのない、真正面からのポートレートにした理由は、まず顔を見て欲しかったからです」と話す奥山さん。
「『戦争で生まれた子ども』『かわいそうな人』という気持ちだけではないから、この人の感情を抑えた表情の裏にはどんな思いが隠れているのかを、見る人に想像して欲しいと思いました」
終戦から75年となる2020年。奥山さんは8月に、今も続く「戦争の物語」を題材とした写真展を東京でフォトグラファー4人で共同開催した。オランダでも日系オランダ人の日本の親族を捜す支援活動をしているが、戦後生き別れた父親に関する情報の乏しさなどで難航するケースも少なくないという。
「日本はこれから、戦争のことを忘れるようになるかもしれません」
「戦争が生み出すものについては、様々な切り口で考えることができると思います。この作品も『知らなかった』『こういう人がいたんだ』という驚きに止まらず、さらに一歩先にある何かを考えてもらいたいと思います」
「どこか遠くであった自分には関係のない過去の戦争ではなく、戦争を自分ごととして捉えてもらえればと願っています」
『Dear Japanese』という題名は、日系オランダ人や日本で暮らす日本人など、様々な人へ宛てられているともいう奥山さん。私たちは彼らと目を合わせることで、日本と「戦後」の世界、そして日本人というアイデンティティーを見つめ直せるかもしれない。作品を一部、ここに紹介する。