「誰かに話せば、地獄に」 被害者が訴える、聖職者からの性暴力

信仰者にとって、強い力関係にある聖職者からの性暴力。日本でも被害者の会が結成され、告発の動きが始まった。
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神父からの性被害の実態を語る竹中勝美さん。「私が沈黙を守ることは、子どもたちの被害を増やし続けることになるのです」
撮影:國崎万智

(※記事中には被害の描写が含まれています。フラッシュバックなどの心配がある方は注意してご覧ください)

裸の男が上から覆いかぶさり、必死に抵抗している悪夢にうなされる。

部室で男子生徒の着替えを目にすると、恐怖で震え、吐き気に襲われた。

年上の男性とドアを閉め切った部屋に2人きりでいると、必ず過呼吸になった。

竹中勝美さん(63)=東京都=は、幼少期に生活した児童養護施設で神父から性虐待を受けた。被害の記憶が、30歳を過ぎてあるきっかけで一気に蘇り、トラウマに苦しんだ。被害者同士が支え合う場を作ろうと当事者たちに呼びかけ、2020年6月に被害者団体「カトリック神父による性虐待を許さない会」を結成。力関係のある聖職者からの性虐待が表に出にくい中、「自分たちのような苦しみを繰り返さないように」と被害の実態を告発している。

 

■口外を許されなかった

竹中さんは、生後間も無く父母が離婚。引き取った母親が病気で入院したため、山梨県の児童養護施設に入った。

小学生になると、東京都内のカトリック系の児童養護施設に移った。体が小さかったことなどから、施設の上級生たちからひどいいじめを受けるようになった。竹中さんは「逃げ場がなく、毎日死ぬことばかり考えていました」と振り返る。

その頃、施設の元園長のドイツ人神父から声を掛けられるようになった。神父の部屋に呼び出されるのは週に1回。50〜60人の子どもたちが1台のテレビの前に集まり、人の目が行き届かなくなる夜の時間だった。神父は部屋で、当時は滅多に食べられないチョコなどの甘いお菓子や外国の珍しい切手をくれた。

被害を受けたのは、2人きりになる1〜2時間の間。神父は自身の性器を竹中さんに触らせ、竹中さんの体にも触れた。

「嫌だな、早く終わってほしいなとは思っていました。でも幼くして施設に入り、親に抱っこされた記憶もなく、人の温もりに飢えていたんだと思います。スキンシップを求めていたのでしょう。叩かれたりどなられたりすることもなかったので、自分が少しの間我慢すればいいと思っていました」

神父からは「このことは内緒だよ。誰かに話したら、地獄に堕ちますよ」と口止めされていた。洗礼を受けたクリスチャンの竹中さんにとって、「神父は神様に等しい存在で、言うことは絶対だった」という。「自分は神父にとって特別な存在なんだとさえ感じていました」

竹中さんが夜になると姿を消すのを不審に思った施設職員から、「神父のところに行っているのか」と問いただされ、うなずいた。その後、神父は別の児童養護施設に異動になった。神父からの性暴力は、異動までの約1年間続いたという。

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加害者の神父と写真に収まる中学時代の竹中勝美さん
竹中さん提供

■長男の入浴で記憶が蘇る

神父からの性暴力の記憶は、竹中さんの頭の中から長い間消えていた。

一方で、原因不明の身体症状に長く苦しんだという。

顔が真っ黒で表情の見えない裸の男が上から覆いかぶさり、必死にもがく夢に何度もうなされた。成人して就職してからは、年上の男性と閉め切った部屋に2人きりでいると、過呼吸を起こした。

症状の原因に気づいたのは、30歳を過ぎて結婚し、長男が1歳になった頃だった。風呂で長男の体を洗っている時、神父からの性虐待の記憶が一気に蘇ったという。

「映像や神父の言葉だけでなく、体に受ける刺激、触らされている肌の感覚が戻り、もう一度その場面を体験しているみたいでした。それからは仕事中も家族と過ごしている時も四六時中頭から離れず、記憶を追い払うようにアルコールや過食に頼るようになりました」

 

■教会の性虐待と隠蔽、国内外で明るみに

カトリック教会の性虐待と隠蔽を巡っては、アメリカの「ボストン・グローブ」が2002年、ボストンの神父によって130人以上が被害を受けていたと報道。被害者の告発の動きはアメリカにとどまらず、ドイツ、アイルランド、フランスなど世界中に波及した。

海外のこうした動きを受け、日本でも調査が始まった。

日本カトリック司教協議会は2019年、「未成年者への性虐待の対応に関するアンケート」を実施。全16教区、全40の男子修道会・宣教会、55の女子修道会・宣教会から回答を得た。2020年2月末までの集計で、「聖職者から性的虐待を受けた」との訴えは計16件確認されたという。事件が起きた年代は1950年代〜2010年代で、1件は不明だった。

事件発覚時の加害者の措置は、異動(国内外)8件、聖職停止2件、退会1件、不明5件だった。協議会は、「被害者個人の特定につながるため」として、全てのケースで教区名などを非公表とした。

報告書は、被害を認識するまでに時間を要することや加害者から口止めされること、教会という密接な関わりを持つ共同体内での性暴力は特に声を上げづらいことなどから、調査で明らかになった件数は「言葉にできた勇気ある被害者の数であり、氷山の一角に過ぎない。今もなお声を上げられない人がいる可能性は大きく、性虐待・性暴力全体の被害者数の実数は把握しきれない」と記している。

報告書では個別の被害の発生状況を公表していないが、竹中さんなどによると、神父が洗礼前の子どもに聖書の勉強を教えるときなどに教会で2人きりになることがあり、被害に遭うリスクがあるという。信徒が悩み相談のために教会で神父と1対1で面会した際、被害を受けるケースもある。

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カトリック教会総本山のサンピエトロ大聖堂(バチカン市国、2018年10月撮影)
ASSOCIATED PRESS

■トラウマ招く「宗教者」の特質

「放置されたままでは、子どもたちへの性虐待が繰り返される」

竹中さんは2018年、退職を機に実名を公表し被害体験を告発した。

「被害者が1人で抱え込まず、安心して苦しみを吐き出せる場所を作りたい」と思い立ち、2020年6月には、被害者に呼びかけ「カトリック神父による性虐待を許さない会」を設立。東京や長崎などで証言集会を重ねている。

7月26日に開かれた「許さない会」主催のオンライン集会では、神父から性被害を受けたサバイバーたちが、誰にも話せなかった苦悩や依存症体験、教会側から事実を隠蔽された「二次被害」の実態を明かした。

性暴力被害者の支援に詳しい精神科医の白川美也子氏は、トラウマを引き起こす宗教者からの性暴力の特質について集会で解説。

・周囲から被害を『あり得ない』などと否認されやすく、被害として認知されにくい

・『被害を口にすることは、神への冒とく』などと捉える被害者自らの内的なプレッシャーがある

・加害者個人だけでなく、宗教的共同体や場合によっては神からも裏切られたように感じ、回復に時間がかかる

といった点を挙げた。

白川氏は「被害の訴えに対し、否認や隠蔽をしたり、威圧的な態度をとったりすることは二次被害につながる」と指摘。周囲が被害を認識し、理解するといった支えがサバイバーの回復にとって重要だと述べた。

 

■被害者が幸せに生きるために

「宗教は、信仰者にとって一つの生き方。聖職者から、宗教の教えに反する行為をされることで、信じている生き方の規範そのものが揺らぎ、覆されてしまうのです」

竹中さんは、聖職者からの性暴力が被害者に与えるダメージをそう指摘する。

「自らの被害体験と向き合い、語り合うことで回復に向かっていく。壊された生活をもう一度立て直し、被害者が幸せに生きていけるようサポートし合いたい」

「カトリック神父による性虐待を許さない会」の連絡先:

STOP@yogo-shisetsu.info

聖職者による性虐待サバイバーのネットワーク「SNAP Sendai」の連絡先:

japan@snapnetwork.org

ハフポスト日本版は、「聖職者からの性暴力」の問題を今後も継続して報道します。下記のメールアドレスまで情報をお寄せください。

メール:break@huffpost.jp