腰痛の悩みは3倍に!テレワークで増える健康の悩み、今すぐできる対策とは

コロナ禍でテレワークが広がるなか、腰痛や肩こりなどを訴える人が増えています。作業を快適に行い、体の不調を防ぐためにはどうすれば良いのか?ポイントをまとめました。
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在宅勤務などのテレワークで体の不調を訴える人が増えている
kohei_hara via Getty Images

新型コロナ感染拡大の中で広がる、在宅勤務などのテレワーク。そのなかで、腰痛や肩こりなどを訴える人が増えているとする調査結果がまとまりました。作業を快適に行い、体の不調を防ぐためにはどうすれば良いのか?ポイントをまとめます。

調査を行ったのは、産業医の育成を行う産業医科大学と、腰痛や肩こり対策のサービスを提供する(株)バックテックの共同研究チームです。4~5月の緊急事態宣言の前後、315人の会社員に行ったアンケート調査の結果をまとめました。

その結果、肩こり(宣言前:37%→宣言中:42%)や目が疲れる(25%→37%)、そして腰痛(16%→29%)などの悩みを持つ人が、宣言期間中に増えていたことが分かりました。

特に、自宅などでテレワークをしているかどうかで比較すると、「肩こり」と「腰痛」については、テレワークをしている人は2~3倍多く悩みを抱えていたこともわかりました。

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テレワーカー(緑)の場合、肩こりや腰痛の訴えが多くなっている(産業医大・バックテック共同研究より)

なぜ、テレワークで体の悩みが増えるのか。ポイントとして見えてきたのは、仕事を行う環境の大事さです。

テレワークを行っている人を対象に、書斎など「仕事専用の空間」を準備できているかどうかを調べたところ、準備できていない人では、肩こりや腰痛の割合がおよそ1.4倍に増えていました。 

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テレワーク中、仕事専用のスペースがない場合(緑)は、体の不調の訴えが多くなる(産業医大・バックテック共同研究より)

また、床に直に座ったり、座椅子を使ったりして仕事をしていると、肩こりや腰痛が多くなることもわかりました。

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テレワーク中、椅子(座椅子を除く)を使わずに仕事をしている(緑)と、体の不調の訴えが多くなる(産業医大・バックテック共同研究より)

調査を実施した産業医科大学の永田智久准教授は、新型コロナの感染拡大により、十分な準備のないままにテレワークを始めざるを得なかった人が存在する可能性を指摘します。

(永田)急に自宅などでテレワークを始める場合、『仕事部屋』を確保できず、食卓やちゃぶ台などを利用して仕事せざるを得ないケースも出てくるでしょう。

また仕事のオン/オフの切り替えが難しいと感じている方が多いことからも、体への負担が蓄積する状況下での長時間のPC作業をしてしまい、肩こりや腰痛のリスクが高まっている状況が推測できます。

 

「モニターは正面に」「キーボードは身体から15cm程度離す」

では、環境を整えるポイントはどこにあるのでしょうか?

まず可能であれば、仕事専用のスペースを確保し、机と椅子を用意して作業を行うことです。

厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」では、椅子は高さ調節が可能なものを使うこと、PCを使う場合は、モニター画面の上端が目線と同じか、少し低い位置に来るようにすることなどを推奨しています。

共同研究チームの一人、理学療法士の福谷直人さんは、モニターの向きやキーボードの位置もポイントだと指摘します。

(福谷)中国のオフィスワーカー417人を対象にした調査では、PCのモニターが体の正面ではなく、右か左側にあると、首の痛みが強い可能性が2.9倍になり、また女性の場合、強い腰の痛みの可能性が3.2倍となっていました。パソコンのモニターは、体の正面に設置するよう気を付けたほうがよさそうです。

また、過去に行われたデスクワーカー向けの調査をまとめて分析した研究では、キーボードの位置が身体に近すぎる場合(身体との距離が15cm以下)は、肩こりや首の痛みの発生リスクが1.46倍になると指摘されています。15cmとは、だいたいキーボードの縦幅1つ分が目安です。

身体とキーボードは、キーボード1個分以上は離しておく、と覚えておくとよいかもしれません」 

 

ポイントは「運動習慣」 短時間、身体を動かすだけでも

とはいえ、スペースの問題でどうしても仕事専用の空間を用意できなかったり、机や椅子を置くのが難しい人もいます。その場合は、どうすれば良いのでしょうか?

(福谷)ひとつの対策として考えられるのが、定期的な運動です。

今回の調査でも、テレワークの実施の有無にかかわらず、定期的な運動習慣がある人は、健康上の悩みを抱える割合が少ないことが分かりました。自宅などでテレワークをする場合、ランニングやウォーキングなどの運動を(ソーシャルディスタンスを意識した上で)、1日1時間程度行うことで、身体を元気に保つことができます。

外での運動が不安な方は、身体活動といって、「洗濯」や「皿洗い」「部屋の掃除」など家の中でできる生活に関連する活動でも十分な活動量であるという考え方もあります。家事に割く時間を以前より多めにしてみるなど、ご自身のライフスタイルに合わせて体を動かすよう意識されてはいかがでしょうか。 

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皿洗いや掃除などで体を動かすよう意識することも大事
monzenmachi via Getty Images

(福谷)また、長時間同じ姿勢をとり続けないだけでも身体への負担は減らせます。

例えばPCやスマホのリマインダー機能を利用し、30分程度に1回リマインダーがなるように設定して小さな休憩(小休止)をとる習慣をつけておくと、集中しすぎていつの間にか長時間仕事を続けてしまう状況が減り、肩こり・腰痛の軽減が得られるという研究結果もあります。

その小休止のタイミングで、一旦作業を中断して、その場で立ち上がって肩や首周りを動かしたり、トイレに行くなど少しだけ身体を動かすことを心がけてください。

 

テレワークの「環境整備」 企業側も積極的な支援を

永田智久准教授(産業医科大学)は、テレワーク中の働く人の健康に対し、企業側も積極的に支援することが大切だと指摘します。

(永田)腰痛や肩こり、そして目の疲れなどは、働く人の生活の満足度だけでなく、労働の効率性も著しく下げてしまいます。

今後、新型コロナの影響がすぐに収束するとは考えにくい現状のなかで、テレワークが長期化することは十分考えられますし、恒久的に在宅勤務へのシフトを進めている企業も少なくありません。

その時代においては、在宅などで働く環境の整備を『自己責任』とするのではなく、企業側が積極的に支援をしたり、費用を補助するなどの取り組みを検討しても良いのではないでしょうか。

働く人の労働の効率性が高まったり、幸福度が高まったりすることで、十分にリターンの見込める『投資』と考える姿勢が求められているように感じます。

【取材協力】

森晃爾さん(産業医科大学 産業保健経営学研究室教授)

永田智久さん(産業医科大学 産業保健経営学研究室准教授)

福谷直人さん(理学療法士、情報機器作業労働衛生教育インストラクター、(株)バックテックCEO)

【参考文献】

Risk factors of non-specific neck pain and low back pain in computer-using office workers in China: a cross-sectional study.  BMJ Open. 2017 Apr 11;7(4):e014914.

Physical risk factors for developing non-specific neck pain in office workers: a systematic review and meta-analysis. Int Arch Occup Environ Health. 2017 Jul;90(5):373-410.

The effects of exercise reminder software program on office workers’ perceived pain level, work performance and quality of life. Work. 2012;41 Suppl 1:5692-5.

 

*本記事は7月26日「Yahoo!個人」に掲載された記事を転載しました。