世界に誇る日本の“おもてなし”、セクハラや時間外労働などのアルバイト経験から考える

世界に誇るおもてなしの日本。その裏には、長時間労働、痴漢、残業、を低賃金で受けなければいけない現状がある。
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a-clip via Getty Images

あるイベントで、私は質疑応答の時に「山本さんが思う、日本の良いところ・好きなところは?」と聞かれたことがある。「日本のいいところ」を考えるとパっと思い付いたのが「食べ物」だった。イベントから数日経ってからも、海外に拠点を移した今も、改めて日本の「いいところ」を考えてみると、やはり結論は「食べ物」ぐらいだった。

 

それをある日、ふとツイートしてみた。

その時にリプライで、複数人から「おもてなし」「サービスが良い」というコメントをいただいたが、私は飲食やアパレルと様々なサービス業でアルバイトをしていた経験から、今回は「日本のサービスが良い」の裏面について考えてみたい。

 

【セクハラされても、笑顔で接客】

私は高校1年のときから様々な接客業でアルバイトをした。高校1年の時から大学2年生になるまで、レストラン、カフェ、スポーツ系アパレル、ファストファッション、翻訳、家庭教師、英語教師、プールの監視員まで。

 

その中で特にレストランなどの飲食業では、さまざまなセクハラを経験した。

酔ったお客さんのセクハラ発言、不意に手を握ってこようとする人、接客中に洋服の中を覗こうとする人。アルバイトをし始めた頃の自分は、そういうセクハラや痴漢行為に対してどうやって反応すれば良いのかがわからなかった。

 

それをみて、間に入って助けてくれた同期や先輩スタッフなどもいたが、多くの場合が「見て見ぬ振り」だった。

 

あまりの酷いセクハラがあり、店長に相談した時でさえも、「しょうがないんだよ」となかったことにされ、笑顔での接客を求められた。同じようなことは何度もある。

 

酔っぱらったお客さんに対して「あの子はまだ若いからそういうこと言っちゃダメだよ~」と笑って誤魔化す副店長。セクハラを笑いながら受け流す他の同期の姿……。

 

私はこれらの現状を無視して「日本のサービスが良い」と言うことに大きな疑問がある。

【無給の研修、突然「来なくて良いよ」と言われた日も】

夏は、短期のアルバイトでプールの監視員をしたことがある。勤務時間は原則朝の8時半から夜の6時半、時には7時まで。そして勤務をするたびに「お給料の発生しない研修」に参加するのが必修だった。

 

プールの監視員とは、もちろんプールの横でボーッと立っているのが仕事ではない。

溺れた人の救助、人工呼吸の訓練、もし心肺停止になった場合のAED(自動体外式除細動器)の練習など、様々な訓練を日々しなければいけない。そんな研修を1時間から1時間半、タイムカード上はその時間は自動的に勤務時間がつかず、無給で研修をやらなければいけなかった。

 

ただ、キツかったのは無給の研修だけじゃない。

当日に「やっぱり今日来なくて良いよ」と言われることだった。

 

プールというのは、基本的に天気が良い日にたくさんの人が泳ぎに来る。

けれど、天気が悪い日にはお客さんが少ないから、アルバイトの監視員が余ってしまう。

 

そういう時は、朝の7時ごろに事務所から電話がかかってきた、「今日天気悪いから来なくて良いよ」と言われたのだ。出勤してから「今日はもう帰って大丈夫」と言われることもあった。

 

【低賃金のアルバイトは酷使され、同期は4時まで残業も】

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Ekaterina Nosenko via Getty Images

大学に入ってから、アパレル業界に興味をもって、好きなブランドのショップ店員のアルバイトとして働き出した。ブランドのイメージを守るため、そして「お客様は神様」の精神を守るため、その仕事内容はあまりに過酷だった。

 

学業と両立するために、学校が終わった夕方からの勤務が多く、閉店まで働くことが多かったのだが、閉店作業の研修中にこう言われた。

 

「閉店は〇〇時だけど、閉店1分前にでもお客さんが入って来たら、お客さんが出るまでは閉店作業を始めちゃダメだよ」、 「閉店時間を過ぎてもお客さんに対して『お帰りください』っていうのは禁止ね」

 

最初は「なるほど~」ぐらいで聞いていたが、いざ店に立つと本当にうんざりするようなお客さんもいた。閉店5分前に入って来て15分~20分、店内をみて回っていく人、中には閉店2分前に入店し、1時間店内を見回して何も買わず帰っていった人もいた。

 

アルバイトの店番は、閉店作業もできずただただ立っているだけ。お客さんに「閉店時間ですので」と声をかけることは、お客さんの満足度を下げてしまうため、許されていないからだ。

 

中でも、一番大変だったのは月に1度、「本社」の人が来る時だ。

 

店頭から在庫置き場など、隅から隅まで毎月チェックが入るのだが、本社の人が来る前日は社員だけでなくアルバイトであっても朝まで勤務は続いた。

 

「未成年」と車や自転車通勤などで「終電が関係ない人」以外は、朝の4時や5時までシャツを畳む作業をする。低賃金のアルバイトがメインで作業し、シフトによっては翌日9時からまた出勤しなければいけない人もいた。

 

もちろん、この一連の出来事は、その会社の問題であって、店のマネージャーなどの責任だけではないのは解っている。ただ、低賃金で雇われた人たちによって海外で製造される洋服、使い捨てのように酷使される契約社員やアルバイトに「お客様は神様」対応を要求されること…。そしてごく一部の人がお金を設けて豊かになるシステム。それが普通になっている会社では働けないと思い、アルバイトを辞め、大好きだったそのブランドの洋服を買うのは止めた。

 

【“お客様=神様”精神は、もう辞めよう。】

良いサービスを提供することは、決して悪いことではない。

ただ、良いサービスにはそれほどの対価が払われるのは当たり前だと思うし、「良いサービス」を提供する側の安全や人権も守られるべきだ。

 

セクハラや痴漢こういを仕事場でされても「お客様は神様」だから笑顔で接客し続けることが本当に「良いサービス」なのだろうか。

商品の製造過程の健全性や自社のスタッフの健康やウェルネス(生活観)は無視して、お客様の満足度だけに重点を置くことは正しいのだろうか。

 

良いサービスを支える働く人たちが守られる仕組み、そして働く方が声を上げられる風潮にしていかなければいけないと思います。

 

(編集:榊原すずみ