【新型コロナ】死者は過小評価されていた?4月の死亡者数が発表

「新型コロナの感染が拡大した4月において、全国でどのくらいの人が亡くなったか」が初めてわかるデータが発表されました。国がこれまで公表してきた数字に対する疑いの声が上がっていましたが、果たしてその結果は…。
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全国の月別死亡者数(赤が2020年、青が2019年)人口動態統計速報 (令和2年4月分)より

6月26日、厚生労働省は最新の人口動態調査の結果「人口動態統計速報」を発表しました。

この速報、ある大切な意味を持つと注目されていました。「新型コロナの感染が拡大した4月において、全国でどのくらいの人が亡くなったか」が初めてわかる、ということです。

結果としては、去年と比べて、死亡者数はほとんど変わらなかったことが分かりました。

2019年4月の死亡者数が11万2,939人だったのに対し、2020年4月は11万3,362人。その差は423人(0.4%増)でした。

人口動態統計は、国の統計の中でも重要度が高いとされる「基幹統計」のひとつです。

子どもが生まれると出生届を、誰かが亡くなると死亡届を出すことが定められていますが、そうした届け出のデータを全国でとりまとめたものです。つまり、その期間に国内で生まれたり亡くなったりした人の全数を把握することができます。

日本では、ある月の人口動態統計の速報値は、翌々月の月末に公表されることになっています。その決まりに従い、26日に4月分の速報データが発表されたわけです。

 

なぜ4月の死亡者数が注目されたのか?

ではなぜ、4月の死亡者数が注目されたのでしょうか?

ひとつの要因と考えられるのは、国がこれまで公表してきたデータに対する疑いの声です。

新型コロナの感染が拡大した4月、厚労省が感染による死亡者として公表したのは400人ほどでした。この数字に対し「そんなに少ないわけがない」という指摘が、メディアやSNSで相次いだのをご記憶のかたも多いのではないでしょうか。

当時、国際的に見た場合のPCR検査の実施数の少なさや、手書き・FAXなどに頼るデータの収集体制が指摘されるにつれ、「新型コロナと判明せずになくなっている人が、もっともっと多くいるのではないか?」という声が上がりました。

一方で、「肺炎などの症状が悪化して亡くなった人に対しては、きちんと検査は行われて大枠は把握されている」という指摘もあり、実態を示すデータが求められていました。

もうひとつ、新型コロナウイルスによる被害の影響を見積もりたい、というニーズがあったことも考えられます。

新型コロナウイルスのような感染症に関しては、その影響を国際的に比較するためには、死亡者数を調べるのが良いと考えられています。

検査によりわかる感染者数は、その国の検査体制がどのくらい整備されているかとか、検査を受けられる対象をどのように決めているかなどによって影響を受けます。

一方で、死亡に関する統計データは、基礎的で重要なデータであり、また「だれかが死んだら死亡届を出す、それを集計する」というシンプルな手続きで得られる数字なので、様々な要因による影響を受けにくいと考えられます。なので、いろいろな事情を抱える国同士を比較するには適していると考えられるのです。

なお「超過死亡」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

超過死亡というのは、ざっくりいえば「例年だったらこの季節だとこのくらいの人が亡くなるはずなのに、今年だけめっちゃ多かったら常識的に言っておかしい。その分は何か特別な要因があるのでは?」という考え方です。

たとえば4月に、ここ5年くらいの平均の死亡者数より数千、数万人単位で多い死亡者がいたとしたら、今年に限って起きた例外的な要因、つまり新型コロナウイルスによるものと考えていいのじゃないか?ということです。

 

4月の死亡者数はほぼかわらず その結果をどう見るか

結果として、日本全国において、コロナが感染拡大した4月の死亡者数は去年とほぼ変わりませんでした。

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全国の月別死亡者数(赤が2020年、青が2019年)人口動態統計速報 (令和2年4月分)より

過去10年ほどのデータを見ても、日本は高齢化に伴ってゆるやかに死亡者数が増えるトレンドにありますが、その流れの中にいると言えそうです。

もちろん、もしかすると今年の4月はたまたま他の死因で亡くなった人が少なく、新型コロナによる死亡者数は、厚労省が公表している400人ほどよりは多かったのかもしれません。

しかしいずれにせよ、死亡者数の全体(11万人程度)から見た場合、大きな違いを示すほどの過小評価はされていなかった、ということは言えそうです。

これは、BBCの試算で、感染が拡大してからの死者が例年の25%増えたとされるフランスや、43%増えたとされるイギリスと比べると大きな違いです。(アメリカは16%の増加ですが、例年より10万人近い人が多く亡くなったとされています)

では、なぜ日本は多くの死者が出なかったのか?

それはまだ、わかりません。

いま様々な仮説が出されているように、人種の違いがあるのかもしれませんし、マスクや清潔習慣があるのかもしれません。もしくは中国に近かったからこそ、早めに対策をとれたことが奏功したのかもしれません。「そもそもインフルエンザ以下の脅威でしかなかった」という声さえあるようです。

そうした様々な仮説を検証していくためにも、今回、死亡者数の実態を示すデータが出たことは確かな一歩です。「日本の死亡者数は、これまで把握されている規模とそう違いはなかった」ことを前提に、議論していけるからです。

なお、これは完全に私見ですが、個人的には「何もしなくても死者は少なかった」とは考えにくいと思っています。

感染拡大が進んだ4月、医療や介護、そして行政の現場において、命を守るための必死の取り組みが行われました。

そして自粛要請にこたえ、春から初夏にかけての最高の行楽シーズンに、花見も旅行も我慢してステイホームした多くの人の行動がありました。そのことが、失わずに済む命を守り、被害を最小限にとどめることにつながったと考えるのが自然だと思っています。

 

明らかになるデータ 適切な対策を続ける「自信」に

いまだ新型コロナの感染者は日々報告されています。ここ数日、少しずつその数が増えています。この後、いわゆる「第2波」と呼ばれる感染拡大の局面を日本は迎えるかもしれません。

しかし、そのときに役立つ知見を、少しずつ私たちは手にしています。

今回の4月の死亡者のデータを見て、「そんなに亡くなる人がいないのだから、心配しないでも良い」という「油断」の材料としてしまうことは危険です。

むしろ「みんなが適切な対策をきちんととれば、新型コロナは抑え込むことができる」ことの証拠の一つと考えて、「手洗い」や「3密を避ける」など、これまで推奨されてきた対策を、粛々と続けていくための「自信」の材料とするのが、役に立つ態度と言えるかもしれません。

*本記事は6月28日「Yahoo!個人」に掲載された記事を転載しました。