中国で「露店」が急速に注目され始めている。新型コロナの影響で、倒産や失業が相次いだのに対し、手軽に始めて収入を得られるためだ。
しかし、これまで取り締まりの対象だった露店を一転して持ち上げる中国政府の姿勢に、現地では戸惑いや怒りの声が上がっている。
■怒号ともに排除に来る
山東省の小さな街に、李克強(り・こくきょう)首相が現れた。地元料理を提供する露店に立ち寄ると「露店経済は働き口の確保に重要だ。中国が生き残る道だ」と語った。
露店商売を中国政府が正式に認め、各地に推奨するパフォーマンスとみられる。
前兆はその前からあった。北京紙・新京報によると、四川省・成都では3月に公道に露店を出すことを許可。およそ2カ月で10万人の雇用につながったという。
中国の露店は種類も豊富だ。現地でよく食べられるザリガニや、羊肉の串焼きなども人気だ。
筆者は9年ほど前上海で暮らしていたが、チャーハンや果物、それに正体のよくわからない肉の揚げ物の露店をよく利用していた。当時はお金に余裕がない学生で、3元(当時のレートで36円ほど)で腹を満たせる存在は貴重だった。
しかし、露店は街の景観を損なうなどとして取り締まりの対象だった。
筆者がよく使っていた露店も、現地の「城管(都市を管理する組織)」に手荒く追っ払われていた。当時の上海は夜の9時ごろに城管がパトロールを終えるという噂があり、露店は決まって9時半に出店していた。
だが、城管側も時々時間を遅らせてパトロールをし、怒号とともに、パトロール用の車両を露店に突っ込ませるくらいの勢いで排除に来たのをよく覚えている。城管の手荒いやり方には、反感を持つ人も多かった。
■「何が“露店凄い”だ」
この政府の号令に乗っかろうとする人も多い。現地の経済メディアによると、露店に使える販売スペース付きの車両を販売するメーカーは、株価が急激に上昇している。「露店経済」という言葉も誕生し、SNSを賑わせるようになった。
一方で困惑するネットユーザーもいる。露店経済の盛り上がりを伝えるニュースのコメント欄には「数年前なら城管が来たぞ!と叫んでいたのに」「こんなに一気に増えて衛生面は平気なのか。危険なら開放しないほうがマシ」などとの声が上がる。
実際、中国政府が急に“手のひら返し”をした背景には、新型コロナの影響で倒産や失業が相次いだことがあるとみられる。露店は初期費用が比較的安く済み、成都のように雇用が生まれると期待されるからだ。
しかし、波に乗る人がいる一方で、冷たい視線を投げる人もいる。あるネットユーザーは「何が“露店が凄い”だ。一種の後退であり妥協だろう。店舗の賃料がこんなにも高いから露店を開かざるを得ないだけだ。根本的な解決にはならない」と批判している。