「人生100年時代」と言われる中、スポーツ選手の「セカンドキャリア」は大きなテーマの一つ。最近は現役中にビジネスを始めたり、引退後に新たな分野に転身したりするトップ選手も増えている。
プロバスケBリーグ2部「茨城ロボッツ」の小林大祐選手は、3人制バスケ『3x3』(スリーエックススリー)の日本代表候補。その傍ら、経営を学ぶ大学院にも通っている。
過去の会見では「現役バスケ選手では初。ファーストペンギン、誰も成し遂げたことがないことをやるのが信条」と語っていた。
プロバスケ、3x3、MBA(経営学修士)。3つのキャリアをどう実現させるのか。
全てに挑戦できる場所を求めた
小林選手はかつて、優勝候補のB1宇都宮ブレックス(旧リンク栃木ブレックス)に在籍し、ライジングゼファー福岡時代は創設初の1部昇格の立役者でもある。
チームとしてこれからという時、B2茨城ロボッツに移籍した背景には、3x3と大学院があった。
「ずっと優勝を争う栃木から当時B3だった福岡に移ったのは、Bリーグが驚くようなことをしたいと思ったから。 福岡でB1昇格という1つの役目が果たせ、次に何しようと考えた時、3x3の代表合宿に初めて呼ばれました。プレー経験はなかったですが結果を残せて、自分にも合っていた。 5人制の代表には5、6年呼ばれていなかった。3x3で自分の色を出せたら代表になれるかもしれない。1つの目標ができました」
3x3では世界との差を痛感し、より高いレベルで取り組む必要性を感じた。 だがシーズンが2カ月ほど重なるため、本業の5人制バスケにも影響が出る。
それに理解を示したのが茨城ロボッツだった。
さらに、チームオーナーが私立大グロービス経営大学院の学長で、ずっと頭の片隅にあった大学院行きも後押ししてくれたという。 所属選手に対する奨学金制度第一号として入学を果たした。
「茨城は全面におしてくれました。もし移籍したらグロービスに通わせてくださいと伝えていて、それも勧めてくれた。時間がかかるかもしれませんが、『チームの1部昇格』『3x3でオリンピック出場』『グロービスに現役中に合格』という3本柱で、ぜひやらせてくださいとお願いしました」
「ファーストペンギン」目指す
「おそらく現役選手としてバスケ界で初となるMBA。取得できればファーストペンギン、誰も成し遂げたことがないことをやるのが信条です」
茨城ロボッツ加入発表の記者会見で、小林選手はMBA挑戦についてそう説明していた。
興味を持ったきっかけは栃木への移籍。当時社員選手からプロに転向し、「Bリーグ」も発足。バスケ一本の生活を過ごせるようになったが、疑問を感じることもあった。
「今まで広報の仕事と両立だったのがバスケだけになった。良い面もありますが、どこか物足りない気になりました。プロ選手に加えて周りがやっていないことがあるのではと探していた時、幼い頃から染み付いた『文武両道』が離れませんでした」
ちょうどグロービスを卒業したチームの副社長から、大学院やMBAについて話を聞き、頭の片隅にとどめ置いていた。
「行動に移すまでにだいぶかかりました」
約4、5年後に絶好の機会が巡ってきた。
MBA挑戦は親の影響も大きい。実家が自営業で経営について触れる機会もあった。
「良い時や苦しい時、浮き沈みも見てきました。経営の難しさを親からずっと聞いて、親の偉大さも感じました。MBAも最初はそこまで関心があるわけではありませんでした。でもいずれ会社員を辞めて、自分で会社をやるなら、経営修士や知識が必要になる。そういった道に進むのかなと思っています」
バスケの指導者からも大きな影響を受けた。バスケを始めた小学生から勉強との両立を口すっぱく言われたことが、バスケとの向き合い方や進路選択する上での礎となっているという。
「恩師から言われたのが1に勉強、2に勉強、3、4がなくて5にバスケ。勉強しないとバスケをさせないという環境で育ったので、大学院に通いながらバスケをするという考えに至ったのかなと思います」
時間の使い方と、人とのつながり
バスケのトップ選手の大半はスポーツ特待生として入学する。小林選手もそうできたところを、高校・大学と一般入学し、勉強にも力を入れた。
当時の実業団トップリーグの日立にいた時も、バスケの傍ら、広報の仕事も務めた。 両方やっているからできないという言い訳はきかない。その分、どう時間をつくるか考え続けてきたという。
「時間が無ければ工夫するしかない。時間が十分にある相手に対して、どうしたら優位に立てるのか。時間の使い方は子供の時からずっと考えていました。みんながいない時にシューティングをしたらプラス1ポイント、自分の中で決めているんです」
チームオーナーが運営する大学院でも、入学試験の免除や単位の優遇があるわけではない。バスケの合間の時間を試験勉強に充て、通常の選考過程を突破してこの4月に入学が決まった。
小林選手はこれから何を学ぶのだろう。
「もちろんMBAの学位は欲しいです。僕がグロービスに通う本当の理由は、つながりが大きい。自分はバスケのプロ、かたやかMR業界で20数年、広告を30年と各業界のプロが集います。ある程度キャリアを積んだ人が集まるのですごい勉強になります」
入学前から先行受講できる単科生として通い、異業種のプロたちから刺激を受けた。
「1つの同じ課題に対してどういう考え方の差が生まれるのか、すごく感じています。いろいろな考え方に触れ、つながりを持てるのが一番の財産です」
スポーツ選手は個人事業主として、お金の管理が求められたり、税金の知識に触れたりする。そこに将来のビジネスのヒントを見出している。
「バスケットに携わる仕事を考えた時、選手のマネーマネジメントに興味があります。どうやって現役の収入を運用して運用益を出すのか。株やFXなど様々ですが、手法の提供や支援をするような会社がつくれたらと、色々と考えています」
競技外でも求められる戦略
再び3x3。同じバスケットボールを扱う競技でも、5人制とはルールやスピード感、求められるスキルが大きく異なる。
1チーム4人制で、チーム・個人の成績に応じて各選手にポイントが付与。東京オリンピックの代表資格は、日本ランキングのトップ10位以内や、一定以上のポイントを保持しているかなど。
どれだけ多く高いレベルの大会で成績を残せるかが鍵となるが、小林選手はBリーグのシーズンや大学院もある。時間の制約がある中で、プレー以外の面でも“戦略”が求められる。
「例えば大会で優勝すると4人に同じポイントが入る。さらに、シュートやアシストの成功数といった個人成績でポイントに差が出ます。この大会は出ないで別の大会に出るといった選択によっても、ランキングが入れ替わります」
チームで闘いながら個人競技でもある。世界ランキング上位に食い込めれば、トップ大会への道も開かれる。
「どのチームに所属し、どんなメンバーでどの大会を目指すか、そのためにどの予選大会に出る必要があるのか。頭を使いますし、戦略が必要です」
東京オリンピックから加わった新種目。小林選手は経験こそ浅いが、5人制の実績や世界で戦ってきた自負もある。日本代表候補で国内ランク2位。
「オリンピック代表が掴めそうなところまで来ているので、絶対に出て、メダルをとりたい」
5人制でも「あえてB1に行かず」、茨城ロボッツを選んだ。
「自分のプライドにかけてB1昇格の目標は達成したいです」
新型コロナウイルスの影響でBリーグは中止され、東京オリンピックは2021年夏に延期された。見通しが立たない状況が続いても前を向いている。
「今できることをやるというスタンスは変わらない。もし他の選手が気が緩んでいるとしたら、僕はチャンスだと思って必死に取り組みます」