「マイノリティに居場所ない」元フェンシング女子日本代表・トランスジェンダー活動家の杉山文野さん

6月は「プライド月間」。東京レインボープライドの共同代表を務める杉山文野さんは、当事者として、そして元アスリートの経験から「LGBTに対する差別をなくすための法律が必要だ」と語りました。
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6月は「プライド月間」。

例年は世界各地で、LGBTの存在を祝福し権利の平等を求める「プライドパレード」が開催されているが、今年は新型コロナウイルスの影響で延期や中止の発表が相次いでいる。

「プライドパレード」のきっかけは、1969年6月28日にアメリカ・ニューヨークで警察による執拗な圧力に対し当事者が暴動を起こした「ストーンウォールの反乱」。

翌年、この事件を讃えて開催された大規模なマーチを発端に、毎年6月に世界各地でプライドパレードが開催されるようになったと言われている。

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東京レインボープライド共同代表の杉山文野さん(写真右)
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日本でも全国の様々な地域で開催されるようになったプライドパレード。

毎年ゴールデンウィークに開催され、昨年は20万人を動員した「東京レインボープライド」も、新型コロナの影響により今年はオンライン開催に。「#おうちでプライド」を付けてSNSで多くの人が参加した。

「東京レインボープライド」の共同代表を務める杉山文野さんは、生まれた時に女性として性別を割り当てられ、25歳で女子フェンシング日本代表チームに選出。現在は男性として生活し、トランスジェンダーのアクティビストとしても活躍。一児の父でもある。

コロナ禍でLGBTが直面する課題も浮き彫りになっている。今年は東京オリンピック・パラリンピックも開催予定だったが、新型コロナにより延期となった。

今年の「プライド月間」について、杉山さんはトランスジェンダーの当事者、そして元アスリートとしての自身の経験から「LGBTに対する差別をなくすための法律が必要だ」とヒューマン・ライツ・ウォッチのインタビューに対し語った。

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マイノリティの居場所はない

杉山さんがフェンシングをはじめた理由は、ユニフォームで男女差がなかったから。

3歳から水泳をやっていたが、水着に抵抗があり、その後はじめた剣道もチームの女子だけが赤胴だったため続かなかった。

しかし、「正直フェンシング界で居心地が良かったかと言うとそうではなくて、やはり男尊女卑が強いし、スポーツの世界は男社会で強い者が評価されるという中で、マイノリティの居場所はないなと感じました」と話す。

「男の選手が体力的にへばっていたりすると、なんだオカマかこのやろう、みたいな言葉が飛び交う中で、いつか自分がバレたらどうしよう、みたいな恐怖感はずっとあったと思います。」

杉山さんがフェンシング女子日本代表に選出されたのは25歳の時。

「日本代表で頑張ってみようと思ったけれど、女子の日本代表ということにもずっと違和感がありました。なかなかフェンシングを続けられないのではないかなあとか、そういった葛藤は常にありました。」

「いわゆる心技体のような、心と身体は、常に噛み合っていなかったと思います。それも今だから分かるのですが、当時は、カミングアウトしてオープンに過ごす生活も知らなかったです。」

日本代表に入った1年間は怪我が多く、翌年の選考会で落選。引退を決意したという。

「チームではカミングアウトできないし、コーチも理解がなくて、居場所もなかなか感じられませんでした。それもあって引退しようと。そして女子の身体からも”引退”だと思って、そこからトランジション(性別移行)を考え、少しずつ準備をした感じです。」

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 子どもとの関係は「赤の他人」

「(コロナ禍の)今は、みんなと同じで自宅で過ごしています。料理をしたりとか、家族で時間を過ごしています。」

現在は男性として生活をしている杉山さんだが、性別適合手術を受けていないため、戸籍上の性別は”女性”のまま。

2018年11月には、10年近く共に過ごすパートナーとの間に子どもを授かった。

しかし、パートナーとは法律上”女性同士”のカップルになってしまうため、結婚することができない。パートナーが出産した子どもとの関係は「赤の他人」だ。

「だからもし子どもに何かあっても、病院で面会を断られてしまうかもしれないとか、そんな不安は常にあります。」

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スポーツにも社会にも、フェアなルールを

東京レインボープライドの共同代表でもある杉山さんは、「プライド月間」がはじまった今、LGBTを取り巻く現状をどう捉えているか。

「スポーツはフェアなルールのもとに戦うのが基本」だからこそ、社会もフェアであるために、「LGBTに関する反差別法が必要」だと杉山さんは話す。

「日本では、(LGBT差別をなくすための)法律がないために、LGBTの人びとに対する理解が進んでいません。同時に、理解が進まないために法律の必要性が認識されないという悪循環が起きてしまっています。」

「反差別法ができれば、誰もが安心して暮らせる日本社会に近づき、それはLGBTの人びとだけではなくすべての国民にとって非常に大事なことだと考えます。」

「今の社会がフェアでないことは、スポーツ界の人に分かってもらいやすいと思うんです。そしてアスリートは、誰かに応援してもらうのが力になることも知っています。」

「スポーツは社会に対して影響力が強いと思います。スポーツ界が変わると、社会全体が変わるきっかけになります。」

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次の世代に何を残せるか

今年は東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されていたが、新型コロナの影響で延期となった。

オリンピック憲章には、性的指向等による差別の禁止が掲げられており、当然、開催国も五輪憲章を守るよう求められる。しかし、日本にはLGBTに対する差別をなくすための法律はない。

4月17日、LGBTに関する法整備を求める全国団体「LGBT法連合会」と、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」、そしてスポーツにおけるLGBTの問題に取り組む「アスリート・アライ」は、安倍首相に対し「性的指向・性自認(SOGI)に関する差別禁止法」を制定するよう求める書簡を提出した。

杉山さんは、「(社会に)構造的な差別があるのが一番大きな問題です。構造を平等にしなくてはいけないと思います。」と語る。

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一方で、オリンピックにより「ダイバーシティ」に対して世の中の注目が集まるようになったことは好機だと歓迎する。

「日本社会では”おじさん”たちが物事を決める中で、ダイバーシティってみんな言ってるからやらなくてはいけないのだろうな、と分かってきたのだと思います。」

「あくまでも、オリンピックからがスタートだと思うので、反差別法のような法律や制度をしっかり作るところまでやりたい。次の世代に何を残せるかが大事だと思います。」

さらに、差別をなくすことは社会にとってプラスでもあると、杉山さんは自身の経験から語る。

「(フェンシングをやっていた時)僕は心理的安全性を感じられず、(能力を)発揮しきれなかったと思います。そしていま日本のLGBTの人たちは、心理的安全性がまだ保たれていない中で暮らしていると思うんです。

こんなにもったいないことはない。スポーツ界においても、日本という国においても、発揮できていないポテンシャルをしっかり生かせるようになってほしい。

誰でも自分の能力を発揮できるよう、すべての人が心理的安全性を保てるようになってほしいです。」