「新たな表現も生まれるのかもしれない」 新型コロナでも前向きに発信を。劇団・ヨーロッパ企画代表、上田誠さんに聞く

劇団員が自宅からZoomで動画を生配信する企画を行うなど、コロナ禍だからこそできる活動を始めた。
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新型コロナウイルスの影響で映画館や劇場が休業を強いられる中、多くのクリエイターが、自宅から表現活動や発信をつづけている。

京都を拠点に活動する劇団、ヨーロッパ企画もその一つだ。初の長編映画『ドロステのはてで僕ら』が公開延期になるハプニングに見舞われ、外部での演出予定の公演も中止となった。新型コロナウイルスの影響を大きく受けているが、そんな中でも、劇団としてさまざまな試みを続けている。

代表の上田誠さんは、「新たな表現も生まれるのかもしれない」と前向きに語る。

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上田誠さん
HuffPost Japan

「予防や安全のために努めるということは考えた上で、工夫してできることを粘り強く探しているところです。劇団というものは集まって何かをするのが基本で、そしてお客さんを呼んで興行をする。その基本活動が難しくなっているのは事実です。

だけど難しいからやらない、と諦めるのではなく、無理しない中でやれることを少しずつでも考える。

映画『ドロステのはてで僕ら』でいうと、大々的に公開はまだできないけれど、6月5日から『じわじわ封切りキャンペーン』と銘打って、京都シネマで試運転上映をスタートさせます。下北沢トリウッドでも、営業が始まったら同じようにやる予定です」 

そしてまた、オンラインにおいては、劇団員が自宅からZoomで動画を生配信する企画を行うなど、コロナ禍だからこそできる活動を始めた。

 <Zoomを使ったYouTubeライブの様子>

「オンラインでの動きはいま花盛りですね。『ドロステのはてで僕ら』のオンライン上映会を6月5日にやりますし、テレワークによる生配信も日々、劇団の公式チャンネルを使っていろいろやっています。

特にヨーロッパ企画って、近ごろは京都と東京に分かれていて、ある種のリモート劇団だったんですね。それがこういう状況になって、家にいる時間が増えて、夜には劇団員が生配信でつながっている。今までこういうことは、やりたくても時間的にやれていなかったところ。ポジティブに考えると、それをやれる時期なのかなと思っています」 

映画をまた上映するミニシアターの現状も困窮している。上田さんは、どのように業界全体をみているのだろうか。

「なかなか業界全体に対しての意見は表明できていないんですけど、『ドロステ』を上映してくれる京都シネマやトリウッドさんが、映画館があけられないという状況は近くで聞いています。そういう近くのことから考えるのがいいと思っていて。

『ドロステ』をいつ、どんなふうな形で公開することが、映画館とお客さんにとっていいのか、って考えたり。この状況でどんな表現をすれば、周りの人たちが温かくなるかな、って思ったりしてますね。なかなか追いついてなくはあるんですけど」 

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ヨーロッパ企画提供
HuffPost Japan

話を聞いていると、サステナブルに表現できることを考え、それを実現することが全体の可能性にもつながるのではないかとも思えた。 

もう一つ気になることは、「ソーシャルディスタンス」が必要とされるこの状況化で、表現にも影響が出るのではないか、ということだ。脚本家、劇作家として、今後、物語の中の身体性や関係性の表現についてどう考えているのだろうか。

「それは圧倒的に変わると思います。とはいえ今に限ったことではなく、人間の感覚って、いろんな出来事や言葉の出現によって、つねに変化し続けているものだと思ってます。

最近だとセクハラやパワハラという言葉が世間に広まると、そこで身体感覚も変わっていると思うんですね。例えば、僕の書くもので多くはないけれど、下ネタなんかでも、以前は受けてたところが、受けなくなったりもする。それって人々の感覚が変わっているからなんですね。

だから、新型コロナに関わらず、これまでもずっとそういう変化に関しては意識していたことですね。これから、キスシーンなんかをみて『うっ』っとなることもあるかもしれないけれど、その感覚の変化によって、何か新たな表現も生まれるのかもしれないと思っています」

世の中では、この状況下でZOOMなどを利用してテレワークでドラマを作るということも行われている。

「喜んではいられないんですが、ヨーロッパ企画にとっては不得意な状況ではないかもしれないですね。最近はいろんな方がテレワークで作品を作っていて、やれることやれないことが見え始めました。

僕らでいうと、ZOOMを使っていても、今はまだ作品を発信するというよりは、自作のパフェを持ち寄って食べるだけとか、そういうものが多いです。が、そろそろ慣れてきたので、まだやられていない方法で、テレワークによる作品を作ってみたいですね。

緊急事態宣言が解除されても、この状況はしばらく続くのかもしれません。僕らはなんでもミニマムに始めて、慣れてきたら徐々に装備を増やしていくほうなので、長い目で考えてやっていきたいと思っています」

 ◇

封切りを待つ映画『ドロステのはてで僕ら』には、テレビのモニターが向かい合わせになって展開するシーンがあり、リモートワークで人と人同士が対面している現在の状況にも近い表現を取り入れている。 

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「ドロステのはてで僕ら」
(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020

公開を待ち望む声が寄せられているが、どんな作品なのだろうか。 

作品の舞台は京都のとあるカフェ。マスターのカトウがその二階にある自室でギターを弾こうとしていると、突然、テレビの中の自分自身に「オレは未来のオレ。2分後のオレ」と話しかけられるところから物語ははじまる。 

どうやら2階のテレビは1階のカフェのテレビとつながっていて、タイムマシーンになっているようなのだ。それを知ったカフェの常連たちも、1階と2階のテレビを向かい合わせると、もっと先の未来が見えると興奮。やがて事態はややこしくなり……という作品で、これまでも時間やSFをテーマにしてきた彼らの「時間SF決定版」ともいえる内容となっている。

頭の中が心地よい刺激で満たされ、70数分があっという間に感じられる作品だ。

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「ドロステのはてで僕ら」
(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020

「なかなかこんな感覚になれる映画はないんじゃないかと思います。そもそも、自分たちで映画を作るんだったら、何か一点突破の“仕掛け”が必要だと思っていたんです。

僕は自分たちの演劇を『企画性コメディ』だといつも説明しているんですけど、それでいうと、この映画は『企画性ムービー』だと言えるかもしれません。そして今回の企画性のキーは“時間”。時間による仕掛けを背骨にし、キャッチコピーは『時間に殴られろ』としました」

確かに、この映画には、ほかで観たことのない“仕掛け”があり、その“仕掛け”に殴られるような感覚があった。

そして、その独自性は、海を越える可能性があるのではないかとも思える。あ

る町にカフェがあり、人が集い、そこで時間の感覚をゆるがすような出来事が起こるという物語は、どこの国でも同じように作ることが可能だし、それを観た人々が興味を持ち、同時に「時間に殴られる」感覚を持つ。

「『ドロステ』は、土地の匂いを感じる映画だし、藤子不二雄の『ドラえもん』のエピソードが入ってきたりと、ドメスティックな言葉も出てきます。その一方で、確かに時間の仕掛けだったり構造の面白さは、海を越える普遍性があるかもしれないですね。

今回、カフェを舞台にしたのは、海外にはカフェ映画ってあるけど、日本にはなかなかないなと思っていたこともあったんです。僕はいつも群像劇を書きたいと思っているので、僕らのような世代の人間が群像でいれる状況はないかと考えるんですけど、日本では40歳前後の人たちが、会社以外の場で日常的に集まるという状況があまりなくて、困っていたことだったんです。

でも、京都の二条という場所だったら、同世代の人たちがカフェに集まるような関係性がありえるなと思った。それは自分たちがそうだからですけど」

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「ドロステのはてで僕ら」
(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020

登場するのは、個性的なキャラクターの劇団の仲間たちばかりだ。監督も劇団の山口淳太が務めている。

 劇団としては、映画には初めて取り組んだというが、撮影で苦労はなかったのだろうか。

「僕自身の映画との関わりで言うと、劇団公演でやっていた『サマータイムマシン・ブルース』が、本広克行監督に映画化され、脚本を書いたのが始まりで。以来、脚本家として外部の映画に関わり、長編映画を作るプロセスを見てきました。一方で、自分でも過去に『ハウリング』という11分の映画を作っていて、今回の映画もそれをベースに作られています。

映画を作るプロセスでいうと、今回は、一から自分たちのやり方でできたので、スピーディーでしたね。商業映画って、脚本を書いてもその企画が必ず通るわけでもなくて、祈るような気持ちでキャストや予算が集まるのを待って、そこからまた長い年月をかけて完成するものなんです。今回の『ドロステ』に関しては、去年の秋くらいに脚本を書き始めて、今年の2月に撮影して、4月には完成して公開予定だったんで、通常の映画のスピードでいうとなかなかないことなんですけど、できないことではないんだなと」

『ドロステのはてで僕ら』では、作り方において、良い意味で固定観念がないところがあるように見受けられた。

新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた今の状況でも、そうした固定観念のないところが、ヨーロッパ企画の強みになっているようにも見える。

「それは仰る通りかもしれなくて、僕自身、演劇も映画もテレビも好きで、ネットで何かを作るのも面白いなと思っていました。ひとりで作業することにも抵抗感がなくて、ジャンルとしてもお笑いや音楽、文芸や理系的なことにも興味がありました。いろんなことを越境するのが好きだったんですね。

劇団員たちも、それぞれの得意分野があって、違う強みがあるからこそ、お互いのことを尊重している。だから、毎日の配信も、それぞれがアイデアを持ち寄り、なんとなく乗っかりあってやれている。もちろん劇団でひとところに集まって何かができないということは残念だけれど、劇団でこれまで作り上げた関係性もあって、普段とは違う状況でもスムーズにやれているところはあるのかもしれません」 

上田誠さんプロフィール

1979年生まれ、京都府出身。1998年にヨーロッパ企画を旗揚げし、全ての公演の脚本、演出を担当。特にSFコメディを得意とする。テレビやラジオの企画、構成も手掛けるほか、映画の脚本家としても活躍。2017年には、舞台「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。手掛けた映画の脚本は、『サマータイムマシン・ブルース』、『曲がれ!スプーン』、『夜は短し歩けよ乙女』、『ペンギン・ハイウェイ』 、『前田建設ファンタジー営業部』などがある。