15時に退勤。毎日散歩で広場へ フィジーでの家族優先ライフスタイルは、新型コロナでも変化しなかった

新連載「私のコロナシフト、生き方をこう変えた」。第2回はフィジーで語学学校を運営する永崎裕麻さん。新型コロナウイルスの影響で変わった生活、これからの生き方について語ります。
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新型コロナウイルスの脅威は、世界各地の人々に影響を及ぼし、私たちの日常を激変させた。この連載では、ビジネスやカルチャーの様々な分野で活躍する人たちが、コロナによってどのような行動変容・意識変容に直面しているのか、リアルな日常を聞き取っていく。第2回目は、南太平洋の島国、フィジーで日本人向け語学学校を運営する永崎裕麻さん。(インタビューは4月20日にオンラインで実施。写真は本人提供、または画面撮影によるもの)

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永崎裕麻さん。取材はオンラインで実施した
HuffPost Japan

永崎裕麻

1977年大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒業。二児の父。「旅・教育・自由・幸せ」を人生のキーワードとして生きる旅幸家。2年2カ月間の世界一周後、フィジー共和国へ移住し、現在13年目。内閣府国際交流事業に日本ナショナル・リーダー/教育ファシリテーターとして参画。ライフスタイルをアップデートする英語学校カラーズ校長。著書に「世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論」(いろは出版) 

 永崎裕麻さんのコロナシフト

  • フィジーでは年金の「前借り」ができる
  • 15時には退勤。毎日散歩で広場へ
  • 「学び」や「インプット」の価値観が変わるはず

 

「命優先」のフィジー政府

――永崎さんはフィジーに2007年から移住し、現地で主に日本人向けの語学学校を運営しています。まずは、日本ではあまり報道されていないフィジーでのコロナの影響や対策について、教えていただけますか。

ここ、南の島でもコロナの影響は甚大です。3月19日に第2の都市、ラウトカで国内1人目の感染者が確認されると、政府は即日ロックダウンを決定し、翌20日の0時からラウトカを封鎖。続いて首都のスバも封鎖されました。以後、外出制限には厳しい罰則が課せられています。

観光業で成り立っている国の風景は大きく変わりましたが、政府の迅速かつ分かりやすい「命優先」の姿勢は、国民からは概ね好意的に受け入れられているようです。食料品の買い占め騒動が起きたのも初日だけで、以後は物流も問題なく、物資面の不便は特にありません。

政府は当面の生活保障策もセットで打ち出していて、国民はすでに積み立てた年金から生活費を“前借り”できるように。1000ドル(=約5万円。現地では約1カ月分の生活費にあたる)を上限に前借りができて、積み立てが1000ドルに満たない人は不足分を政府から借りることもできます。

感染がピークアウトしたことで、2都市のロックダウンはすでに解除されましたが、市民生活にはまだ緊張感がありますね。ロックダウン中にも、「フィジー人の女性が婚姻届をこっそり出しに行こうとして捕まった」といったニュースが流れたのは、いかにもフィジーらしいなと、少し肩の力が抜けましたが。

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距離をあけて散歩する人々
本人提供

 ――永崎さんご自身の生活にも大きな変化が?

やはり仕事への影響は大きいですね。なんといっても、お客さんである日本からの留学生が一切来なくなりましたので…。

というのも、3月下旬に国内5人目の感染例が出た時点で、首相が国際空港の閉鎖を指示したので、ロックダウンになっていない地域に住む日本人留学生の大半が帰国しました(編集部注:一時は約100人の日本人留学生が取り残されたが、ロックダウン解除後の4月24日の便で大多数が帰国した)。

しかし、中には「予定していた留学期間が長く残っているので、まだフィジーに留まりたい」と希望する人も少数ながらいて、そういう生徒たち3人を、今はオンライン授業でフォローしています。教師も自宅からネットにつないで教えているので、校舎はガランとしています。僕は学校運営に関わる諸業務は近くのカフェでしていたのですが、今はカフェもクローズしてしまったので、誰もいない校舎に通って毎日仕事をしています。

といっても、自宅から車で数分の距離ですけどね。フィジーは電車もない島なので、“通勤電車の混雑”といった概念もありません。このインタビューも学校から受けています。

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ビーチを独占
本人提供

家族優先のライフスタイル

――1日の生活リズムにも変化はありましたか?

 労働時間が2時間ほど短くなり、15時頃にはオフィスを出るようになったので、2人の子どもたちと遊ぶ時間が増えました。

家族は、妻と5歳の息子、1歳の娘と4人暮らし。妻はドライフルーツ製品を販売する事業をしていたのですが、コロナの影響で休業状態に。幼稚園も休園になったので、ここ1カ月ほどは子育て中心の生活を送っているので、妻に負担をかけ過ぎないためにも、僕も子育てに関わる時間を増やしたほうがいいなという思いもあります。

ただ、これが大きな変化かというとそうでもないですね。僕は今42歳ですが、40歳の時に“家族優先のライフスタイル”に舵を切ったという経緯があるので、今回のコロナによる生活変化もその延長にあります。子どもたちは遊びたい盛りなので、両親と過ごす時間が増えて単純に楽しそうにしています。 

――お子さんたちとはどんな過ごし方を?

自宅では、将棋や手品遊びを。あと、最近、長男がハマっているのは「ドラゴンボール探しゲーム」です。あのアニメ作品が好きな長男が「ドラゴンボールを7個集めたら、コロナやっつけられるかな」と言い出して、僕が乗ったんです(笑)。たまたま持っていたドラゴンボール仕様のガラス玉を1個ずつ隠しておいて、一緒に探すんです。現時点ですでに4個まで見つかっているので、「コロナ収束とうまくタイミングを合わせないとな」と思案しているところです。

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ドラゴンボール遊び
本人提供

あとは、運動不足解消も兼ねて、家族で毎朝、近くの広場まで散歩に出かけるのが日課になりました。以前も週1〜2日は行っていたのですが、今は毎日に。1時間半ほど過ごして、野球ごっこや鉄棒遊びをしています。娘もヨチヨチ歩きができる時期に、こういう家族の時間が増えたのはよかったと思います。

近くにビーチもあるのでよく立ち寄るのですが、ほとんど人がいないので贅沢に独占できちゃいますね。観光客がいなくなった浜辺は寂しいですが、海だけはとてもキレイで、眺めるだけで心が洗われます。

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子どもたちと将棋で遊んでいる
本人提供

日本でもオンラインイベントが一気に“当たり前”に

――コロナは永崎さんの人生や価値観をどう変えようとしていると思いますか?

これまでとはまったく違う世の中へと変わってしまうのかもしれないと思うと、不安は正直あります。僕は教育業の中でも留学という狭いジャンルの世界に身を置いていますが、その世界においても大きな変化の波が起こり得ると思っています。人々の「学び」や「インプット」に対する価値観が根底から変わる可能性があるからです。

実は、コロナの問題が発生する少し前から、僕はなんとなくその変化を感じていて、「もっと外の世界とつながろう」という意識で積極的に業界外の人にコンタクトをとるようにしていたんです。コロナによって物理的な人の往来の断絶が生じたことで、その意識はより強くなりました。

ラッキーだったのは、「Zoom」や「Remo」のようなオンラインで人とつながるためのツールが世の中に登場していて、誰でも使えるようになっていたことです。日本でもオンラインイベントが一気に“当たり前”になったので、最近は登壇のお誘いも増えて、喜んでもらえるのでうれしいですね。

――では最後に、希望や夢について。コロナ収束後にやってみたいことはありますか? 

小さい希望としては、週末の楽しみだったプール通いを再開したいですね。

大きな希望は、日本、フィジー、そして計画段階で実行延期になってしまったデンマークでの「世界3拠点生活(トリプルライフ)」を実現すること。あと、実はもう一つ、再開したいプロジェクトがあって、それは「フィジーに日本の将棋を広める活動」。僕はもともと将棋が好きで、将棋は「先の先を読む計画性を養う競技」として世界に誇れる教育コンテンツになり得ると確信しているんです。SDGsが掲げる目標の一つ、「質の高い教育をみんなに」を達成するプロジェクトとして、日本人留学生がフィジーの小中学生に将棋を教えるアクティビティを準備してきました。日本将棋連盟からも承認を得て、将棋盤などの寄付も集まり、「さあ、今から」という時に、コロナでストップ。また人の交流が再開できるようになったら、計画を再開したいです。

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英語学校でフィジー人教師たちに日本人留学生が将棋を教えている様子
本人提供

コロナの収束を待つだけでなく、今からでもオンライン上でできることは始めたいなとも考えています。語学学校としても新しいチャレンジをしていきたいです。英語レッスンはすぐにでもできますが、ありきたりではつまらない。例えば現地で好評だったフィジー人との交流体験をオンライン上で企画しても面白そうです。

「フライトがなくて戻れない状況」を逆手に取って、価値ある発信やつながりを提供できたら。なんだかいろいろとアイディアが浮かんできました。  

(取材・文:宮本恵理子 編集:若田悠希)