重大局面を迎えた河井前法相に対する検察捜査~逮捕許諾請求で、検察庁法改正案審議に重大な影響も~

現在、審議が行われている「検察庁法改正案」が問題となっている状況で、自民党側が逮捕許諾請求を拒否すれば、まさに「検察庁法改正」の「実害」が明らかになるだろう。
Open Image Modal
記者団の質問に答える自民党の河井克行前法相=2020年01月20日
時事通信社

共同通信が、今朝、「検察当局が公選法違反(買収)の疑いで河井克行氏を立件する方針を固めた」と報じている。自民党の河井案里参院議員が初当選した昨年7月の参院選をめぐり、夫で前法相の克行衆院議員が地元議員らに現金を配ったとして捜査が進められており、連休中には任意で河井夫妻の事情聴取が行われたと報じられていた。

 

「方針を固めた」ということは、最高検も含めて検討した結果、公選法の買収罪の罰則適用が可能との判断に至ったということだろう。

問題は、国会会期中に議員を逮捕する場合に必要な「逮捕許諾請求」を行うか否かだ。

 

県政界の有力者に多額の金銭がわたったとされているので、金銭を受領した側だけ逮捕というのも考えにくく、通常であれば、供与した側、受領した側双方を逮捕する可能性が高い。

しかし、金銭授受が選挙公示日の3か月程度間であり、従来であれば、(政治活動としての「地盤培養行為」に関する資金提供と判断する余地があるため)公選法による罰則適用が行われてこなかった事案だ。しかも、原資が自民党本部からの1億5000万円の選挙資金である疑いがあるということもあり、許諾請求について審議する両院の議院運営委員会では、自民党側から異論が出て大荒れになる可能性がある。

しかし、これまで、このような選挙に関する不透明な金の流れが、公選法違反の摘発の対象外であったこと自体が問題なのであり、それが、選挙資金をめぐる不透明性の原因となってきたことは否定できない。今回の事件に対する検察の積極姿勢の「正義」は揺るがないだろう。

 

現在、法務大臣も出席しない内閣委員会で審議が行われている「検察庁法改正案」は、検察最高幹部の定年延長を内閣の判断で認めることで、内閣が検察に介入する可能性が指摘されている。

このような状況で、1億5000万円の選挙資金提供に関わった疑いが指摘されている自民党側が、逮捕許諾請求を拒否して検察捜査を妨害すればするほど、政治の力で検察捜査が封じ込められることが印象付けられることになり、検察庁法改正案の審議にも重大な影響を与える。まさに「検察庁法改正」の「実害」が明らかになるということだ。

 

河井前法相「逆転の一手」は、「選挙収支全面公開」での安倍陣営“敵中突破”】で詳細に述べたように、ここで絶体絶命の状況に追い込まれた克行氏が、政治家としての生命を保つ「唯一の方法」は、公職選挙法に基づいて提出されている選挙運動費用収支報告書の記載を訂正し、県政界の有力者に現金を供与したことを含め、選挙資金の収支を全面的に明らかにすることだ。選挙に関する支出である以上、違法な支出も記載義務があることは言うまでもない。

そして、記者会見を開くなどして、自民党本部から1億5000万円の選挙資金の提供を受けたことについて、その経緯・党本部側からの理由の説明の内容・使途など、それが現金買収の資金とどのような関係にあるのかについて、すべて包み隠すことなく説明するべきだ。

 

国政選挙である参議院議員選挙において、急遽立候補することにした河井案里氏を当選させるために巨額の資金が飛び交ったという「金まみれ選挙」、その資金は自民党本部から提供されたもので、そこに、安倍晋三自民党総裁の意向が働いている疑いがあるという、日本の政治と選挙をめぐる極めて重大な事件だ。

 

選挙に関する金銭の配布が、どこからどのように得た資金によって、どういう目的で誰に対して行われたのか、国民にすべてが明らかにされなければならない。

それを、「国会議員の逮捕」という検察の強制捜査に委ねることになるのか、前法務大臣として自らの説明責任を果たすのか、克行氏にとって残された時間は僅かだ。