“コロナ鬱”になっていませんか? オリンピック代表選手を導く、メンタルコーチが教える3つの対策

ストレスや不安感など、コロナ鬱を招く「要因」はさまざま。でも、その「原因」は1つだけだったーーー。
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精神科医でカヌースラローム日本代表選手、ならびに新体操・フェアリージャパンのメンタルコーチを務める志村祥瑚さん
提供:志村祥瑚さん

新型コロナウイルス感染の不安と「不要不急」の外出自粛などで、気分が落ち込みやすくなったり、眠れなくなったりする“コロナ鬱”が増えています。               

 

精神科医でカヌースラローム日本代表選手、ならびに新体操・フェアリージャパンのメンタルコーチを務める志村祥瑚さんにその原因と対策を聞きました。                                    

 

コロナ鬱を招く原因はたった1つだけ

「外来でも、外出自粛や在宅勤務で、せまい空間に閉じこもっている時間が長くなり、ストレスや不安、不眠を訴える患者さんが増えています。大きな環境の変化によって、ストレスを感じて、疲れている人も多いという印象です」

と志村氏は指摘します。        

 

・いつになったら新型コロナは終息するんだろう?

・自分がコロナに感染してしまったらどうしよう?

・ずっと自宅で仕事をしていて、ストレスがたまる

・新型コロナが不安だけれど、出社しなければならない職業で不安

・ドラッグストアやなどの店員さんや医療従事者で、お客さん、患者さんからの問い合わせやクレーム対応が大変

・好きな映画(ライブ)に行けなくて、楽しみがない

・一人暮らしで、自宅勤務をしているとなんだか孤独感を感じてしまう

 

などなど、コロナ鬱を招く要因はさまざまでも、「その原因は1つ」と志村氏は言います。

それは、自分にコントロールできないことにフォーカスして、テレビのように“不安チャンネル”にチャンネルを合わせてしまっていることです。

「自分がコントロールできないことにフォーカスしてしまう」とは例えば、どのレベルまで、そしていつまで外出制限が起きるか、在宅勤務がいつまで続くか、医療がパンクするかしないか、ドラッグストアや病院にくるお客さんや患者さんの気持ちなど、自分だけではコントロールできない事を、思い悩んでしまうことです。

それらが気になって『どうなっちゃうんだろう?』と不安になったり、『どうして、こうなるの!』とストレスを感じてしまったりしていれば、それはまさに“不安チャンネル”にあわせている状態です。

中には、コントロールができないストレスを解消するために、家族や身の回りの人にDV行為をしてしまう、他人に暴言をはいてしまう、インターネットで爆買いといった、新たな弊害に苦しんでいる方もいらっしゃるかもしれません。

僕は、オリンピック選手のメンタルコーチの仕事もしていますが、いつオリンピックが開催されるのか、本当に来年行われるのか、代表に選ばれたけれど、もう一度選ばれるだろうかと思考が乱れ、気持ちに波が生じている選手もいないわけではありません。日本代表となるような選手ですら、そうなのです。

おそらく今、“国民総不安障害”と言っても過言ではないような状況だと感じています。

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不安チャンネルのイメージ
提供:志村氏

では一体どうすれば“不安チャンネル”から意識を逸らすことができるのでしょうか?

志村氏は3つの方法を提案します。

 

①テレビやスマートフォンで新型コロナウイルスの情報に触れすぎない

みなさん、朝からテレビで、スマートフォンで目覚ましのアラームを止めた流れのままベッドの中で新型コロナのニュースを見ていませんか? それは自ら“不安チャンネル”に合わせてしまう行為です。

結果、その後も1日中ずっと気になってしまい、スマホでニュースを探してサイトを転々とする、お店などで商品を選ぶ時に『これにコロナのウイルスがついていたら?』などと気になってしまう、人が触れたドアノブが開けられなくなってしまう…。様々な弊害が出てくるわけです。

そもそも不安は、アラート、つまり警告をする機能。ですから、不安に注意がいくのは人間の大切な機能のひとつです。ただ、現代のような情報社会ではあまりに多くの情報に触れすぎて、不安になって…を繰り返している人がたくさんいます。

正しい情報を適度に取り入れることを心がけてください。

新型コロナのニュースが気になり、遅くまでスマホを見ていることによる睡眠不足は、コロナ鬱の一因になるどころか、悪化の原因になりかねません。注意が必要です。

 

②前の日に翌日の行動計画表を書いておく

感情や思考は、実はコントロールすることができません。「よし、いまから楽しい気分になろう!」「なんとかして、すっきりした気分になろう!と思ってそうなれるのだったら、不安に苦しむ人なんて、この世に居ないはずですよね。

 

唯一コントロールできるのが“行動”です。自分の行動をコントロールする“セルフコントロール力”はコロナ鬱にだけではなく、仕事などすべてにおいてとても大切なことなんですよ。「楽しい音楽を流す」というのは自分自身でとれる行動ですし、三密でない近所の公園まで、ふらりと散歩をすることも、とれる行動です。そんな行動をとった結果、気分がすっきりすることはありますよね。

 

自分自身の行動を、よりよくコントロールするためにおすすめなのが、寝る前にノートなどに行動予定表を書いておくこと。『起きる→水を飲む→着替える→ノートを開いて考え事をする→本を読む→…といったように眠るまでにやることを書いておくだけ。ときには矢印の先に“読書”“考え事”“散歩をする”と3つくらいの候補を書いておいて、その時の気分や状況次第で決めるというのもいいでしょう。

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行動計画表のサンプル

ここでのポイントは時間で区切らないこと。時間で区切ると「これくらいで終わるだろうな」と思っていたものが思いの外早く終わって、隙間時間ができることも。隙間時間ができると、また“不安チャンネル”にフォーカスが合ってしまう可能性があります。逆に時間がかかって『あ!あれできなかった』と落ち込んでしまうなんていうことも…。

 

まずは“これ以外はしない”と決めることが大切なのです。それによって、注意がほかにいかないようになります。この行動予定表があれば、テレビやスマホを見て、不安に感情が持っていかれても「そうだ!次はこれをやるんだった」と意識を不安や鬱っぽい気持ちから離すことができますよ。

 

前日に行動計画を書くことをすすめる理由は、脳というのは一度シミュレーションしたことを実行しやすくなるからです。前の日に書いて脳の中でリハーサルしておくと、より効果が期待できるでしょう。

 

③ タイマーで、アラームを設定する

僕はApple Watchを使っているのですが、あえて通知が一切入らない設定にして、タイマーとして使っています。30分ごとにアラームが鳴る。例えばスマホでTwitterを見ていた時に通知がなれば『あ、もう30分もTwitterをしていたけれど、次は何をするんだっけ?』と前日書いた行動計画表を見て、意識のチャンネルを切り替えることができます。なにより不安を感じるような情報に長く触れることを避けられるでしょう。

タイマーはスマホで設定しないこと。タイマーを止めるのをきっかけに、『ついでに新型コロナのニュースをちょっと見ておこう』なんてなったら元も子もありません。

 

そして最後に、一人で自宅勤務をしていて、孤独感でなんとなく気分が沈んでしまう人の対処法を聞いてみました。

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イメージ写真
Yagi Studio via Getty Images

問題なのは孤独であるという事実ではなく、孤独“感”なんです。本を読んでいたり、テレビを見ていたり、何かに意識がいっているときは、あまり孤独感を抱かないはず。問題は「感じる」ことです。

「みんな、どうしているかな?と考えながら、孤独感をなにかで紛らわそうとして、スマホを手に取り、FacebookやTwitterをみて、「みんな楽しそうだな、それに比べて自分は…となりがちです。その結果、孤独感を紛らわすためにお酒を飲んでアルコールが増えてしまったり、それこそ鬱っぽい状態に陥ってしまうこともあるでしょう。

 

残念ながら、孤独感は消えません。でも不安チャンネルと同じように、孤独感チャンネルから意識を逸らすことはできます。②でおすすめした行動計画表に、「今日は○○さんにLINEをする」「××さんに電話をする」と誰かとの交流や会話が発生するようなものを組み込めばいいのです、親や子供に電話をする、でもいいんです。

孤独感自体も、コントロールはできません。紛らわそう、なくそうと思うえば思うほど、大きくなっていくもの。具体的にとれる行動によって、孤独感に振り回されないようにしていきましょう。

 たしかに今は、大変な状況ですが見方を変えれば、外出自粛や在宅勤務で「自分でコントロールできることが増えた」とも言えるのではないでしょうか。

行動計画表とタイマーを上手に活用すれば、毎日の生活、人生を自分で選ぶことにつながります。生活をより充実させ、『自分で選んでいる』という感覚によって人生を豊かにすることで、コロナ鬱を吹き飛ばしましょう。

 

コロナに負けない心を作る精神科医 志村先生のメンタルトレーニングサイトはこちら

           

志村祥瑚/しむらしょうご

慶應義塾大学医学部卒。一般社団法人日本認知科学研究所代表理事。

幼少期よりマジックを始め、マジックの持つ錯覚や思い込みのメカニズムに興味を持つ。2012年ラスベガスジュニアマジック世界大会優勝。「思い込み」の研究をしていくために精神医学を専攻し、精神科医としてマジックを融合させたメンタルトレーニングライブを全国で行っている。

2017年より日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)就任。2020年東京オリンピックに向け、新体操フェアリージャパンならびにカヌースラローム競技のメンタルコーチを務める。