「生理のタブーをぶち壊そう」。“タンポンゲーム”で世界を変えた2人の女の子

2人は生理についてのゲームを作るべきだと確信。迫りくる敵にタンポンを投げつけるゲーム、『タンポン・ラン』を作ることにした
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“タンポン・ラン”の製作者であるソフィー・ハウザーさん(右)とアンドレア・ゴンザレスさん(左)
提供:Pヴァイン

みなさんは“タンポン・ラン” というゲームをご存知だろうか?

2015年に発表され、ウェブ版とスマホアプリ版合わせ世界中で50万人以上がプレイしたゲームだ。製作者はソフィー・ハウザーとアンドレア・ゴンザレスというアメリカの2人の高校生。

2人がこのゲームを作るに至った経緯を綴った『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生ふたりのほんとうのお話』(Pヴァイン刊)が出版された。

ゲーム開発から6年たった現在の2人にメールでインタビュー、開発のきっかけや生理タブーに対する考えなどを聞いた。

 

 そもそもの2人の出会いは、教師は全員女性で生徒は女の子ばかりという環境でプログラミングを気軽に学ぶことができる「Girls Who Code」という講習だった。というのもプログラマーやエンジニアの多くは男性で、「National Center for Women & Information Technology(女性とITのための国立センター)」によると、2015年当時、プログラマーのうち女性が占める割合はたった25%。テック業界で働く女性が極めて少ない現状を変える取り組みとして行われたもののひとつが「Girls Who Code」だった。

2人は互いの第一印象をこう語る。

 

ソフィー・ハウザー(以降、ソフィー)

出会ってすぐ、アンディ(アンドレア・ゴンザレス)のことは素敵な子だなと思っていました。彼女は、私や他の『Girls Who Code』に参加している人たちよりも、プログラミングやコーディングについて知識も経験もあったから(編集部注:アンドレアは、『Girls Who Code』以前にもプログラミングの講座に参加した経験がある)、いつもみんなを助けてくれていたんです。

私は、そんな彼女と、彼女のユーモアに惹かれて、心の中で『友達になるぞ!』って決めていました。

 

アンドレア・ゴンザレス(以降、アンドレア)

ずっと、ソフィーのことを素敵だと思っていました。おもしろくて、地に足のついた様子の彼女が好きでした。そうそう、彼女について、最初に気になったのは、履いていたクールなソックスだったかな? あと、毎日家からおいしそうなランチを持ってきていたこと。彼女の友達になれて本当によかった。

 そんな2人が、「Girls Who Code」の最終課題にチームで取り組むことになる。「Girls Who Code」でさまざまな女の子たちや大人の女性たちに触れるなかで、2人は少しずつフェミニズムに目覚めていった。ある日、ソフィーが「タンポンを投げ合うゲームを作ったらいいと思う!」と提案。そこで、2人は「生理タブー」について議論する。

 

・タンポンを自分で買うのが恥ずかしすぎて、母親に買ってきてもらっていること。

・生理中、洋服の袖にタンポンを隠して、トイレまで廊下を歩くこと。

・女友達と生理について話していたら、男子が不快そうな顔をしたこと。

・生理用品のCMでは決して赤い液体ではなく青い液体が使われること。

・「生理タブー」とGoogleで検索すると、深刻な問題が多数明らかになること。

 

話し合いの結果、2人は生理についてのゲームを作るべきだと確信。迫りくる敵にタンポンを投げつけるゲーム、『タンポン・ラン』を、たくさんの混乱と紆余曲折の結果作り上げることとなる。そして、ゲームは50万人以上にプレイされて大成功、2人を取り巻く世界は大きく変わり、本を出すほどの有名人になった。

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「タンポン・ラン」ゲーム画面より

では、ゲームを完成させた当時と現在、生理タブーは変わったのか。2人に率直な意見を聞いてみた。

 

ソフィー

私たちが『タンポン・ラン』を開発した2015年は、生理へのタブーがそこら中に存在していました。ロンドンマラソンのランナー、キラン・ガンディーさんは生理用品を使用せず、出血しながら完走したことが話題になり、アーティストで詩人のルピ・カウルさんがInstagramにパンツに経血が漏れている写真を投稿したため削除され、物議を醸したのも2015年です。

現在は、アメリカではタンポンにかけられる税金や、生理用品がみんなにとってもっと買いやすくするためにはどうしたらいいかについての議論の声は、大きくなっています。

いまだに生理に対するタブーはありますが、2015年以前はネガティブな影響がみんなの間にあったけれど、一般的な会話として議論されるようになってきました。これらすべてが『タンポン・ラン』の影響によるものではありませんが、2015年に生理タブーが注目されることになった例の1つです。

 

アンドレア

今でも生理にまつわるタブーは存在します。それでも、『タンポン・ラン』」を開発したときから比べると、随分進歩したのではないでしょうか。

ゲームをリリースしたときには、生理に関するアクティビズムはまだニッチなものでした。でも今は、女性の健康について議論することへのタブーはだいぶ減っています。大学のたくさんのクラブや、団体、企業が生理についての会話を改善しようと取り組んでいるんです。

それがすべて『タンポン・ラン』の影響だとは思いません。逆に、急速に拡大していった生理タブーをなくそうというムーブメントに、早い段階で貢献できたことをラッキーに思います。

 

『タンポン・ラン』開発後の現在も、2人はプログラミングを続けているのでしょうか?また、フェミニズムに基づいた活動などをしているのでしょうか?

 

ソフィー

私は2019年5月に、コンピューターサイエンスの学位を取得して大学を卒業しました。今はベルリンに住んでいます。フードデリバリー会社でソフトウェア・エンジニアの仕事をしています。『ガール・コード』の出版以来、絵を描いたり、デジタルアニメを作ったり、プログラミング以外の手法でも何かを作る楽しさを見つけました。今の私にとって、コーディングはたくさんある方法の1つという感じです。

そして、女性やノンバイナリーの人たちの声を広めるためのオンラインプラットフォーム『Curated by Girls』の開発もしています。そういう意味でフェミニズム的な活動をしていると言えるでしょうね。

 

アンドレア

私はまだ大学に行っているんです! 今4年生だから、来年はコンピューターサイエンスの学位と、ジャーナリズムの副専攻(もしかしたらビジュアルメディア学も!)を取得して卒業します。卒業後は、マイクロソフト社のゲームスタジオの1つ、『Turn 10 Studio』でビデオゲーム・ディベロッパーとして働く予定です。だから、もちろんプログラミングは続けていますよ!

そして活動の方は今、ほかの学生たちと一緒にUNC(ノースカリフォルニア大学)のLGBTQ+とそのアライ向けに特化したハッカソンを企画しています。私がすることのすべてにおいて、アクティビズムを取り入れることは、今でもとても重要なことです。

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「タンポン・ラン」ゲーム画面より

日本にはまだまだたくさんの生理タブーが存在しています。

生理用品を買うと、まるで隠すかのように中身が見えない袋に入れられ、生理休暇はあるけれど、男性の上司に「生理だ」と言いにくいから使っていない、人前で生理の話をするのは憚られる…など挙げたらキリがありません。

最後に、ゲームで「生理タブー」に切り込んだ2人に、私たちができることを聞きました。

ソフィー

変化は、誰かが嫌な思いを経験し、それに声をあげることから始まります。「声をあげる」方法はたくさんあり、これがベスト、もしくは正しい、というものはありません。『タンポン・ラン』が成功したのは、面白くてシンプルだったから。

それが意味するのは、タブーは通常、人を居心地悪くし、閉鎖的にするものだったとしても、やり方次第で、共有して話し合えるものになり得るということです。

変化を起こすためのユーモアはとても価値があるツールですが、それがいつもベストな選択肢ではないと思っています。最終的には、どんな表現手段で、何を言いたいのかをしっかり認識して、ともに励まし合い、助け合える何かしらのサポートネットワーク(大小問わず)があることが重要だと思います。

 

アンドレア

生理にまつわるタブーには「全く根拠がない」ということに気づくことが重要です。生理について話すのは、女性の健康について話すこと。女性の健康はとても重要ですから!『タンポン・ラン』がたくさんの人に支持されたのは、いわゆる厄介な問題を大胆に、そしてユーモアをもって、とても身近な方法で、みなさんに提示したからです。

でも、アクティビズムは必ずしも大きく目立つものである必要はありません。自分の身近なコミュニティに注目し、その人たちの日々の生活に自分がどのように変化を与えられるかを、自分に問いかけるのは大切なこと。それもアクティビズムであり、同じように重要なのではないでしょうか。

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ソフィー ハウザー , アンドレア ゴンザレス『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生二人のほんとうのお話』(Pヴァイン)
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 『ガール・コード プログラミングで世界をかえた女子高生二人のほんとうのお話』

ソフィー・ハウザー、アンドレア・ゴンザレス著 

堀越英美訳 

Pヴァイン刊 2270円+税