ネット上に「仮設の映画館」開設、5月に上映へ 新型コロナで苦境の映画館支える

ドキュメンタリー作品『精神0』の公開を5月2日に控える想田和弘監督は、インターネットでの作品公開を決めた。
Open Image Modal
想田和弘監督『精神0』
東風提供

配給会社の東風は4月8日、5月2日公開予定の想田和弘監督のドキュメンタリー『精神0』について、劇場公開と並行してインターネット上に設けた「仮設の映画館」でデジタル配信を行うと発表した。

新型コロナウイルスの感染拡大が続き映画館が苦境に立たされる中、映画業界の経済を少しでも回復させようという試みだ。

「仮設の映画館」には4月7日現在、北海道から九州までの27館が参加予定。利用者はどの映画館で見るかを自分で選択でき、1800円の鑑賞料金は、プラットフォームの使用料約10%を差し引いた後、一般的な興行収入と同じく劇場と配給、製作者で分配する。映画館が休館したとしても、収入が確保できることになる。

■「焼け野原」になるのではという危機感

背景には、映画館の存続に対する危機感がある。

公開されたコメントによると、想田監督のもとには、「封切ったばかりの新作なのにお客さんが1日で0だった」「このままでは劇場の家賃や人件費も払えないので廃業するしかない」といったミニシアター関係者からの悲痛な声が寄せられているという。

一時は公開の延期も考えたという想田監督。しかし、多くの映画が公開延期することが映画館の窮状に拍車をかけ、上映しようとした時には「上映できる映画館が全滅した『焼け野原』になっている可能性すらある」と感じたという。

インターネット上での公開について「映画作家としてためらいもあった」「本来ならば、満員の映画館でワイワイガヤガヤ、『精神0』を観ていただきたい」という気持ちも明かしつつ、「私たち映画人や映画愛好者は知恵を振り絞り、なりふり構わず助け合って、なんとかみ・ん・なで生き残るすべを模索するしかありません」と呼びかける。

「インターネットを最大限に活用し、しのぐしかないのだと覚悟しています。少なくとも座して死を待つつもりはありません」 

■映画館に行くという行為を忘れてほしくない

Open Image Modal
「仮設の映画館」のイメージ
東風提供

東風が公開した「仮設の映画館」の劇場ページ見本では、背景に劇場ごとに撮影した座席やスクリーンが映し出されている。東風の広報は「『映画館に行く』という行為を忘れてほしくない。日常が戻ってきたら、映画館にも戻ってきてほしいという思いを込めています」とし、公開までに全ての劇場から同様の写真を集めてページを作る予定という。

今後公開予定の映画についても「仮設の映画館」での上映を検討中で「他の配給会社にも広まってほしい」としている。

『精神0』は、2008年公開の『精神』の主人公の1人だった精神科医の山本昌知さんを追ったドキュメンタリー作品。82歳で引退を決意し、妻と過ごす新たな日々を映し出している。第70回ベルリン国際映画祭フォーラム部門「エキュメニカル審査員賞」を受賞した。

「仮設の映画館」での上映期間は5月2〜22日を予定している。