【新型コロナ】致命率の国際比較から読み解く、被害を減らすためにすべきこと

重症患者が急増し医療崩壊が起きたイタリア、軽症者を調べていないため見かけ上の致命率が高い日本…。新型コロナウイルスによる致命率を国ごとに比較したグラフからは、いま私たちがすべきことが見えてきました。
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筆者提供

1月30日の記事「感染症専門医師が教える新型肺炎、私たちが今すべきこと」において、私は、新型コロナウイルス感染症における致命率に地域差があると指摘しました。

当時は、世界の感染者数は7,835人で、死者は170人に過ぎなかったのですね。あれから2カ月、世界の感染者数は66万人を超え、死者数は3万人を超えてしまいました。

いま、世界中で、この新興感染症との戦いが始まっています。それぞれの地域の資源や文化のもと、最善を尽くそうとしていますが、それでも多くの死者が出ています。

そこで、この感染症における致命率の地域差について、改めて読み解いてみたいと思います。そうすることで、このウイルスによる被害を減らすために「いま何をすべきか」が見えてきます。

グラフは、3月29日(13時時点)までに新型コロナウイルス感染症の確定患者1500人以上を認めている国について、報告されている死亡数をもとに致命率を算出したものです。中国については、武漢市のある湖北省とそれ以外に分け、日本については、国内の確定患者1693人とクルーズ船の712人を分けています。

 

重症患者が急増、医療崩壊が起きたイタリア

まず、イタリア。3月28日に死者は1万人を超えました。1カ月以上にわたって外出規制が行われてきましたが、それでも死者は増え続けています。

その理由は、重症患者が急増し、医療崩壊が起きてしまっていることにあります。北部の一部の地域では、人工呼吸器が不足しており、集中治療室の受け入れ能力も限界を超えているようです。このため助けられない患者が急増しているものと考えられます。

さらに、医療従事者の感染が重なり、医療崩壊に拍車がかかっています。

この現象は、やはり致命率が高いイランやスペインでも起きていると思われます。中国の湖北省もまた、こうした医療崩壊を経験していました。

ただし、これらの国々では、もはや重症患者だけで検査していると考えられ、実際の感染者の数はもっと多く、これが見かけ上の致死率を押し上げている可能性はあります。

なお、イタリアで感染爆発が起きているのは、主として北部のロンバルディア州です。イタリア全土が崩壊しているわけではありません。局地的な流行となるのも、このウイルスの特徴ですね。ここ数日、イタリアにおける新規患者数が頭打ちになっている印象です。外出自粛の効果が出てきているのかもしれません。

 

軽症者を調べていないため、見かけ上の致命率が高い日本

日本における致命率 3.1%とは、湖北省に近い数字です。もちろん、医療崩壊しているわけではありません。軽症者を調べきれておらず、母集団が重症者に偏っているからだと思われます。

もともと日本の行政検査の対象は、流行地域への渡航歴や患者との濃厚接触歴がある者としていましたが、入院を要する肺炎がある者、医師が総合的に判断して疑う者へと範囲を広げてきました。

いずれにせよ、風邪症状があれば何でも検査対象としてきたわけではないため、捕捉できていない軽症者がいるはずです。

高い致命率を示しているフランスやオランダも同じ理由です。PCR検査について、重症のかぜ症状がある患者のみとしています。フランスのヴェラン保健大臣は「軽症や無症状の陽性者を探すスクリーニング検査はしない」と言い切っています。当然、見かけ上の致命率は高くなります。

また、イギリスでは、検査対象は「インフルエンザ症状のある者」と軽症者も含めてはいますが、もともと風邪症状では医療機関を受診しない文化があって、疑われる症状があっても、住民の多くが自宅で様子をみているとのこと。落ち着いてますね。というわけで、やはり見かけ上の致命率が高く出ています。

 

クルーズ船の検査からみえる真の致命率は?

では、徹底して検査をしたときの致命率はどれくらいなのでしょう? これこそが真の致命率に近い数字となるはずです。

実は、そのオペレーションをやりとげた事例があります。それは、ダイヤモンド・プリンセス号の乗員と乗客の方々です。

3,711人の方々に対して検査を実施したところ712人が陽性となり、現在までに10人の方が亡くなられています。すなわち、致命率1.4%となります。高齢者に偏っているデータなので、年齢調整をすれば少し低くなると思われますが、これが病原性をもっとも反映したデータではないかと思われます。

その目で見ると、韓国の致命率が1.5%と低いことも、いかに徹底して検査をやったかが察せられますね。ドライブスルー方式に代表される効率的な検査体制により、その実施数は33万件と日本の10倍以上となっています。

そして、致命率は日本の2分の1です。日本よりも死亡者数を半分にしている…のではなく、感染者を2倍見つけているのだと考えられます。

なお、アメリカ、カナダなどの致命率が低いのは、大きな流行が始まったばかりだからです。感染してから受診するまでに1週間、さらに重症化して死亡するまでには2週間ぐらいかかります。ですから、これらの国々の感染拡大の勢いを見る限り、あと1〜2週間で急速に致命率が上昇してくるものと思われます。

以上、各国の致命率から読み取れることについて分析いたしました。

 

最も大切なのは医療崩壊を起こさないこと

被害を最小化するうえで、もっとも大切なことは、医療崩壊を起こさないことです。すなわち、患者数を急速に増大させないこと。

ある米国の救急医は、「津波のように患者が押し寄せてきている。そして、次々に人工呼吸器につながれていく。かつてない恐怖を覚えている。これは地獄絵図そのものだ。この危機は、すぐに日本にもやってくるはずだ」とメッセージを送っていました。

もし、日本において、重症者数が国内で使用できる人工呼吸器やECMOなどの台数を超えてしまったら、あとは救えなくなることを理解する必要があります。ですから、死亡数を決定するのは「感染者数に致命率を乗じた数」ではなく、「医療供給上限を超過した数」で考えるのが妥当なのです。

医療機関を受診する患者数、入院を要する重症者数について、地域医療のキャパシティを超えないよう制御しなければなりません。

急速に患者数が増大している地域の皆さんは、今後、イタリアやスペインのような事態にならないよう、できるだけ外出を自粛してください。とくに、換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面をさけてください。

若い人たちの多くは重症化することはありません。

しかし、自分は大丈夫だからと感染を拡げてしまえば、その先には多くの死者がいることに気づいてください。

 

【訂正 3月29日 23:30PM】

当初の記事では、ダイヤモンド・プリンセス号の乗員・乗客で、亡くなった方を「8人」としていましたが、最新の統計に合わせて「10人」に修正しています。

そのため、致命率を当初の「1.1%」から「1.4%」に修正するとともに、グラフも直しました。