世界にはさまざまなサステナブルなお酒の楽しみ方がある。今回は、空気中の二酸化炭素と水のみでつくるブルックリン発のエア・ウォッカ、「モノを一度しか使用できないのは、単にクリエイティビティが足りないだけ」と語る廃棄物を出さないバー「Trash Tiki」、緑茶とハチミツなどを発酵させたアルコール飲料を造るブランド「JuneShine」を紹介する。(翻訳=梅原洋陽)
炭水化物や炭素を意識しているカクテルファンに贈る、新しいウォッカ
米ニューヨーク・ブルックリンに拠点を置くスタートアップAir Coは特殊な技術と太陽光発電を使用して、空気中の余分な二酸化炭素を取り込み、価値のある物に作り替えている。「地球上で最も高品質で、純度の高いアルコール」だ。
先月、2年間の研究と開発を終えて、最初の製品「Air Vodka(エア・ウォッカ)」を発表した。サステナブルな蒸留酒であり、ニューヨークのお酒好きがカクテルを飲む度によりきれいな未来をつくることに貢献できるようにした。ウォッカのボトル1本で、8本の木が1日に吸収するのとほぼ同じ量の二酸化炭素を大気中から取り除くことができる。
一般的なウォッカは、トウモロコシやイモ、小麦を発酵させて造る。精巧なブラック・カウ・ウォッカのようなものはホエーというチーズを作る過程で廃棄させる物で造る。エア・ウォッカは二酸化炭素と水のたった2つの材料だけでできている。特許を取得した太陽光発電を使った技術で、飲料に使用できる品質のエタノールを精製してつくられた蒸留酒は炭水化物や、砂糖、グルテンを含まず、そして当然ながらカーボンネガティブである。
「私たちは、製造しているエタノールで市場にただ参入するだけではなく、高純度のエタノールの価格で最も高いのはいくらかという観点からバリュー・プロポジションを設定しました。そして、たまたま人間が作ったウォッカが一番高級だったと言う訳です」と前職ではスミノフでマーケティングを行っていたCEOのグレゴリー・コンスタンティン氏は米ビジネス誌フォーブスのインタビューで語っている。
米誌ファスト・カンパニーによると、一般的なウォッカは製造過程で13ポンド(5.9キロ)の温室効果ガスを排出する。しかし、この製品は排出するのではなく、空気中から1本当たり1ポンドの温室効果ガスを取り除いている。そして同社は、サプライ・チェーンに関してもきちんと考えているようだ。他の蒸留所など企業が出した二酸化炭素を回収して使用している。
電気科学者であり、同社の共同創設者兼CTOのスタッフォード・シーハン氏がエア・ウォッカについて同誌に語ったところによると、「二酸化炭素を取り込む自然界の光合成からヒントを得ました。植物は水を吸い上げ、太陽をエネルギーとして活用し、砂糖や価値の高い炭化水素を製造します。そして酸素はただの副産物です。私たちも同じで、唯一の副産物と言えば酸素です」。
そして、すべてのプロセスが太陽光発電で進められているため「私たちが使用するすべてのエネルギーは炭素強度を最小限に抑えています。その結果、カーボンネガティブを達成しています」とシーハン氏はいう。
Air Coは、香水などのエタノールをつかった商品も展開していくようだ。同社は、発電所や企業が排出した二酸化炭素を日常で使える価値ある商品に転換する最新の科学技術を支援する賞金2000万ドルのコンペ「NRG COSIAカーボンXプライズ」のファイナリスト8社のうちの1社。優勝者は2020年秋に発表される予定だ。
廃棄物を出さないバー「Trash Tiki」
そしてもしラッキーだったら、近くの街にくるかもしれないのがTrash Tikiだ。Trash Tikiは廃棄物に反対する、移動型のポップアップのパンク・バー。ケルシー・ラメジ氏とイアン・グリフィス氏のバーテンダー夫婦による独創的なバーは2016年から始まった。環境について考えるバーテンダーにとって学べることが多いだろう。
夫婦は自身のウェブサイトで、バーにおけるサステナビリティは複雑になり過ぎていると伝える。あたかも高級なバーだけが取り組むべき課題のようになっているという。二人はクリエイティブで廃棄物を出さないレシピを大量に提案している。フルーツの皮や果肉をシロップに使うといった単純なものから、わずか1日しか経っていないけれど古いクロワッサンを煮詰めてシロップにしたり、コーヒー屋さんの古い使い残しのミルクを再利用するといったものだ。
そんなことをやっている二人にとって、現状は問題に感じられた。バーの大きさや設備、カクテルの内容に関わらずバーテンダーのクリエイティビティを使えば食料廃棄問題に取り組むことが可能だからだ。
オンラインでレシピや廃棄を減らすアイディアを紹介したところ、反響が凄まじく、移動式のバーを始めることとなった。そして今この夫婦は世界中を旅しながら、地元のバーやレストラン、コーヒーショップなどその場所にあるあらゆる所から廃棄品を集めて、カクテルを作っている。夫婦は、ニューヨーク・タイムズに対して、「モノを一度しか使用できないのは、単にクリエイティビティが足りないだけ」と話している。
「廃棄物が出た瞬間に、2個目のレシピを考える必要があります。シェフはこれを何世紀もやってきています。昔からのアイディアなんです。私たちはちょっと違うやり方をしているだけです」とラメジ氏はニューヨーク・タイムズに語った。
この夫婦はバー業界でゴミゼロを達成するのは難しいと認めている。アルコール関連の製品の包装はとても多いからだ。彼らが提案しているのは、何かを一度だけ使って捨てるのではなく、2個目、3個目の目的を持たせることだ。
現時点ではツアーの行程などはオンラインには載っていないが、Trash Tikiの新たな拠点であるトロントのSupernova Ballroomに行けば新しいスタイルのバーを体験できるだろう。そこでは季節限定の地元の材料を使用し、廃棄をなくす闘いを続けている。例えば、新鮮なレモンジュースを使用するのではなく、近くのジュース屋さんから提供してもらったレモンの皮を発酵させたものを代わりに使用している。
私たちが使い、消費する商品をもっと尊重するために、一度使って捨てるという20世紀の行いを止めるべきだ。それを自然に楽しく、心地よく行うのがTrash Tikiのやり方だ。
JuneShine:環境に優しいハードKOMBUCHA(コンブチャ)
西海岸のカリフォルニア・サンディエゴに拠点を置く、JuneShineのハード・コンブチャはオーガニックで飲みやすいだけではない。「コンブチャ」は緑茶や紅茶を発酵させた飲み物だ。ハード・コンブチャは、緑茶と蜂蜜、紅茶、砂糖を使ったマイルドなジュン・コンブチャのアルコール飲料だ。同社は誠実で透明性の高いアルコール企業として、健康で豊かなライフスタイルを提供することを掲げている。同社のお酒には人工着色料、GMO(遺伝子組換え作物)、農薬、加工されたトウモロコシや米飴は入っていない。
健康的な商品だけでなく、同社の掲げるサステナビリティ目標も素晴らしい。
例えば、
・売上高の1%を環境保護団体に寄付する団体「1% For The Planet」に入っている
・購買力を利用して、サプライヤーにUSDA オーガニック認証を取得するように呼びかけている
・材料は100%オーガニックなものだけを使用する
・象徴的な古い蒸留所を買い取り、アップサイクルする
・排水を処理する
・蒸留所ではプラスチックでなく、ガラス製品だけを使用する
・大きなディスプレイでメニューを表示し、紙のメニューは使わない
・再生紙を使った製品を活用する
・リーチが200万を超えるアスリートやアーティスト、そしてチェンジメーカーを含むアンバサダーのサステナブルな活動を支援する
・レストランではオーガニックで地元の製品を使う
・6缶を入れるプラスチックの容器を、紙のホルダーに変更
・ホルダーを作るために使用した木の代わりに、新たな木を植える
・プラスチックを缶に巻くのではなく、缶に印字する
・蒸留所の芝生には再利用水を使う
・蒸留所では再生可能エネルギーを使用
・サプライチェーンのプラスチック使用を減らす(樽を固定する台をプラスチック以外のものを使用)
・事業と製品に環境再生型農業を取り入れる
・サステナビリティをさらに追及するためにアルコール業界のリーダーと意見交換をする
このブランドのアンバサダープログラムはユニークだ。SNSのフォロワーを多く抱えている魅力的な知らない人を採用する一般的なインフルエンサーモデルではなく、JuneShineは世界レベルのアスリートやアーティスト、そしてクリエイターを選んでいる。スノーボード選手でソチ五輪では金メダルを獲得したセージ・コッツェンバーグ氏やスピアフィッシングチャンピオンのキミ・ヴェルナー氏、環境課題を啓発する養蜂家ヒラリー・カーネリー氏などを含むすべてのアンバサダーは「冒険」「サステナビリティ」「透明性」という同じ価値観を持っている。
意識的なライフスタイルに対する情熱を持つアンバサダーたちは、JuneShinに投資も行う。彼らは商品を作り、ストーリーを語ることで、JuneShineの環境活動の大きな役割を果たしている。
【関連記事】
パンの耳からビールつくり、食品ロスの削減に挑戦