「いつか、子どもを。プレコンセプションケアって何?」 10代〜40代の男女で妊娠・出産・育児を考えてみた

日本は世界的にみても、月経や妊娠・出産のことに関するリテラシーが低く、これからは男性も女性ももっと知っていく必要があります。

以前、こちらの記事「もっと早く知りたかった! 妊よう力(妊娠力)やヘルスリテラシーそのものを上げる、プレコンセプションケアとは」で国立成育医療研究センターの三戸麻子先生に取材させて頂いたプレコンセプションケア、通称プレコン。 

いつか受胎(コンセプション)するカラダのことを考えて、自分自身のヘルスリテラシーをあげよう、という考え方で’06年ごろからアメリカでスタートしました。まだ、日本では認知されていないプレコンですが、ライフプランを考える上でとても重要なこと。妊娠・出産だけでなく「どんな時も自分の可能性を発揮できるようヘルスリテラシーをあげていきましょう」という発想なのです。

成育医療研究センタープレコンセプションケアセンターではプレコンセプションチェックプランという外来を設け、検診した後に医師と管理栄養士とのカウンセリングで自分のライフプランとキャリアプランの両輪で考える仕組みになっています。

自分が妊娠・出産を経験していながらも知らないことばかりで、中でも前回の取材で衝撃的だったのが「子どもは自然妊娠で3人は欲しいと望む場合、遅くても23歳から妊活した方が良い」という海外データ。20代はどうしてもキャリア優先で考えがちですが、このデータを知るとキャリアプランだけでなくライフプランも両輪で考えなければなりません。そしてこのプレコンの大切さを若い世代にも伝えないと…。

そう思っていた矢先、幼児教育や子育てに強い関心を持つ19歳の起業家・冨樫真凜さんが、あらゆる世代の男女を集めてプレコンイベントを企画との朗報! 三戸先生よりプレコンのレクチャーを受け、その後みんなでディスカッション、しかも関心の高い10〜40代の幅広い層が集まるというので…… これは是非聞いてみたい。編集部からはノヴィータ代表の三好怜子とLAXIC編集長の鎌田薫がディスカッションに参加して参りました。

 

初めてのプレコン・レクチャー、知らないことばかり…

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提供:LAXIC

10代女性:全く知らないことばかりでしたが、実際にプレコンは何歳ぐらいから受けるべきなんですか?

 

三戸先生:性教育という意味を含めて早ければ早い方がよく、アメリカでは小学校入学時ぐらいからと言われています。女の子は特に生理が始まった頃からかかりつけの婦人科があるとベストです。他にも、ブライトフューチャーズと言って子どもの健診が自動的に進める仕組みがあり、幼い頃から自分の体の情報を得る窓口がアメリカにはあるのです。

スウェーデンのユースクリニックでは、13~25歳までの男女が、希望したタイミングで身体や性交渉のことなどを相談できる窓口があります。避妊について聴きに来たタイミングでプレコンセプションケアを一緒にお話するのが一番浸透しているそうです。

 

10代女性:なぜ日本は遅れているのですか?

 

三戸先生:日本においては、医療水準はとても発達しているけれど、プレコンセプションケアに関する教育や、それにまつわる地域保健・職域環境など、まだまだ改善していかなければいけない部分が多くあります。世界的にみても月経や妊娠・出産のことに関するリテラシーが低く、これからは男性も女性ももっと知っていく必要があります。

 

20代女性:病院やクリニックによってピルの対応も違っていて「これでいいの?」と思うことも。先生がおっしゃるように、安心できるかかりつけの婦人科がある方がいいと思いました。

 

20代男性:今、29歳で結婚自体を意識し始めたのも最近だし、これまで全く考えていなかったですね。

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 20代女性:就活のタイミングやキャリアを考えるタイミングで、仕事だけじゃなくて妊娠・出産がいかに難しいか、という知る機会が欲しい。

 

10代男性:(主催者の)真凜がツイッターで発信してくれているから定期的に刷り込まれていて、自然と関心を持つようになりました。

 

三戸先生:そうなんです。アメリカやオランダ、イタリアあたりでプレコンが成果を出しています。特にアメリカではプレコンのアンバサダーがSNS上でどんどんプレコンセプションケアを実践する自身の生活スタイルについて発信していることも、成功の秘訣とされています。

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あさちゃん先生こと、三戸麻子先生

日本社会が妊娠・出産をタブー視している、とさえ思ってしまう

10代男性:3人子どもが欲しければ23歳から妊活って話がありました。僕、今19歳ですけど、もし、今、僕にパートナーがいてそんな話したら「え? なに急に?」って思われそうで怖いんですが…。

 

一同:あぁ、確かに。それはあるよね。

 

30代女性:23歳ってことは新卒1年目で「妊娠しました」ってことでしょ? 今の社会ではあり得ないって思ってしまう。でも、そんな空気が流れていること自体まずおかしいと思う。本人が健康で、パートナーも理解してくれていても、社会がそうさせなければ意味がないし。

 

30代女性:あと、日本だと22歳で一斉に新卒採用で。たった1年遅れただけで「何かあったの?」みたいな空気が流れている。でも今日の話を聞くと、これだけの確率でせっかく授かった命なのだから、「産んでも大丈夫だよ」と言える社会にしたい。

 

10代女性:そうそう! 大学にも保育室をどんどん併設すればいいと思う!

 

一同:海外ではあるよね!

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ノヴィータ代表 三好:経営者の立場から考えると、若い社員にも健診を勧めておけばよかった、と後悔したことがあります。というのも、健康保険組合で人間ドックが受けられるのは30~40代から。「20代は健康でしょう」という大前提だけど、20代も人間ドッグや健診は必ず受けた方がいい。

 

30代女性:起業家やフリーランスにはそういった健康保険組合的な補助は一切ないし、妊娠・出産に対する自己負担も高すぎる。「柔軟に働きましょう」って言っても、これでは少子化対策、女性活躍に全くならないから、出産に到るまでの費用も不妊治療も無料にしたら良いと思う。

 

30代女性:そうなんですよ。今の日本で子どもを産むのがリスクでしかない…! そういう姿ばかりが世の中に広まってしまうと、若い人たちに「子どもを産んで生きていくって幸せなのかな?」って思わせてしまう。「その人らしく生きているから幸せだよね」と思ってもらえるようになりたい。

 

30代女性:制度や社会は急に変わらないかもしれないけれど、一人一人が本当に自分の望むタイミングで子どもを産んで、いろんな人がいろんな形で子育てに参加する方が、妊娠・出産とか育児の形が多様化になっていくと思う。

 

働くママ、という考え方は日本だけ? 海外のワーママ事情

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LAXIC編集長 鎌田:ロンドンに駐在している時に「働くママというカテゴリーで取材させてください」と言うと「それ自体がナンセンスだ」って言われました。ママだけど働いています、という意識がない。男性も定時に帰ってくるから家事分担は男性がやるのは当たり前で、得意なところをやればいい。

とにかく「周りがどう思うか」ではなく「自分たちがどうしたいか」が最優先だから、日本のように子どもを産む時期も「就職したばかりで妊娠したら会社に迷惑だ」みたいな考え方が一切ないんです。ママになっても夜の飲み会の数は減らないし、「日本は一体どうなっているの?!」って言われました…。

 

30代女性:確かに。日本だけがこういう形をとっている、という認識をもっと持った方がいいよね。

 

10代女性:女性はM字カーブがあって、そういうのを考える女性はいるけど、男性ってそんなこと考えてないですよね。男女ともにM字カーブになればいい。育児したいのに働かないといけない、ではなく、したいならすればいい。

 

イマドキZ世代男子の子育て観は…とにかく合理的!?

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ノヴィータ代表 三好:ちなみに男性陣はお子さんが生まれた後、どのぐらい育児をやりたい?

 

20代男性:個人事業主なので、家で一緒に育児をしたいです。真凛にも「すごく大変だよ」って言われているので、それでも是非やりたい。

 

10代男性:僕も育休を取りたいと思っています。あと自分たちだけなく、ベビーシッターとかも上手に雇いながらやりたいな、と。

 

20代男性:お互いがそれぞれ得意な部分を補えればいいし、会社の制度はどんどん使えばいい。ベビーシッターも、価格面で使えない人もいると思うから、そこが払拭できれば随分変わると思う。会社の福利厚生でつけるとか…。

 

20代男性:最初から「育児したくない」って思う人はいないと思う。でも何かのきっかけで夫婦にズレが生じてしまう時があるなら、事前に具体的な”夫婦のズレあるある”みたいなのを知っておきたい。夜泣きの頻度とか、どんなぐらい大変な状況なのか、とか。

 

30代女性:私たち世代は女性が子育てする、っていう世代。Z世代はそこまで基本女性という考え方に馴染んでいないし、逆に、今の若い人の方が情報を持っている。これからの時代は、女性だけが無理せず子育てできる、新しい兆しだと思う。男性の育児参加率が第二子以降の出生率と相関関係にあるっていうデータもあるぐらいなので。

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20代男性:Z世代からいうと、男女の役割分担という感覚はないからフラットだけど、超合理的な意思決定をするようになってしまって。極端に言えば、今は男も女も平等に働く時代になった=男性も子育てにコミットしないといけない=じゃあ子どもはのぞまない、という人もめっちゃいると思います。子育ては大変だし、お金かかるし…… そこの情報の解像度はとても高くなってきていて、子育て期の良いイメージを世間が提示していないからだと思う。結果、合理的に考えると…そうなってしまう。

 

30代女性:確かに。若い世代には妊娠・出産もしなくてもいいや、というのが多い。本来はとても素敵なことなのに…伝わっていないのが悲しいですよね。

 

そもそもの学校教育に問題あり!? 日本と海外の考え方の違い

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20代女性:初めて会社入って「育休あるけど誰も取ってない」とか、住んだ街に「保育園が全然足りてなかった」とか…結局、蓋を開けた時に相当困るから、事前に信頼できるリストが欲しい。就職企業ランキングに「子育てしやすい会社」とか、表向きの数値だけでないリアルなランキングを作って欲しい。

 

10代女性:就活している友達に育休取得率とかも聞いてもらったんですが、企業としては公表しづらいみたい。

 

30代女性:実態をどうやって把握するかってことが大事。だって、育休取得率6%のうちの8割が5日未満ですよ。日数でいうと有給レベル…あと、トップが「うちは育休すごい取っています!」と言っても、現場は超取りにくい空気とか…。こういうミスマッチが実際多い。自力でデータを集めるしかないの?

 

30代女性:Vorkers(社員による会社評価サイト)で項目入れてもらうとか…?

 

一同:それいいね。取得率だけじゃなくて、もっとリアルなデータが欲しい。

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10代男性:そもそも就活システムの構造に問題があって、海外って大学生の頃から「マーケティングやりたいな」と思ったら、卒業した時点で生涯食べていけるスキルがつく。でも日本の大学のシステムって、卒業しても何の具体的スキルもない人も多い。ポテンシャルだけの学生が就活をしているから、新卒社員は会社にトレーニングしてもらう事態になる=休めない・育休も取れない。1年間休んでしまったら、競争社会を休んだら…精神的にも辛くなってしまう。

 

20代男性:大学を教養2年、リベラルアーツ的な2年にするとか。

 

10代男性:もっと根本的な話をすると、教育が変わらないと就活制度も変わらない。アジアで良く見かける話ですけど、答えが一つ。勉強が全て。偏差値主義。いい大学行ったらいい会社で安泰、みたいなのが大きなネックかな、と。偏差値って包括的な数値じゃないですか、どの科目も偏差値60みたいな。仕事においては何か秀でていればいい。僕は海外バックグラウンドだったので、周りの日本の教育を受けて来た人は学生時代からその感覚が続いてしまっていて、そこから抜け出せない。

 

一同:世界を知っているかどうかで変わってくる。

 

LAXIC編集長 鎌田:海外で100%話題になるのが「学生時代、何を勉強した?」で、日本みたいに「どこの大学?」は絶対に聞かれないです。あと、日本のように大学で将来の道を考える、というよりは中学・高校ぐらいで「自分が将来こうなりたい」というのをしっかり考えますよね。

 

20代男性:とはいえ、日本の就活が終身雇用一括採用というのはよくできた社会システムだった。いきなりそれがなくなると、困るおじさんも多そう。

 

30代女性:その場合は人生100年時代、あと40年どうするかを考えればいい。大学に行き直すとか学び直しして、本当に興味のあること、新しいことをしたいって思えることができるチャンス。そうしたくない人が、今の日本を決めているんだと思う。

 

ファーストアクションが決定! 子育省、子育て特区を作る

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20代女性:素敵な家族のロールモデルがあればいいな、って思う。今、ニュースメディアとかで活躍されている男性が、女性を大切にしているイメージが持てない…。男性が華、みたいなイメージがあるけど、誰でもいいから一人の女性を大事にして、子どももいて、仕事もやりたいことを頑張っていて…幸せだよ! みたいなインフルエンサーがいて欲しい。

 

20代女性:りゅうちぇるがいい。めっちゃいいね! しまくってる!

 

一同:先生、プレコンもぜひりゅうちぇると一緒にPRして生きましょう。

 

20代男性:実際的には厚労省に働きかけるのが一番早いと思う。厚労省の考える”働く”を大前提で、そのまま大企業のルールに落ちるからそこの歪んだ考えから変えなければ…草の根っていうより、ロビイングしましょう。

 

30代女性:ある意味少子化って “産まないぞデモ”みたいなところがあると思うんです。結果的にそうなっちゃっただけで、本当は欲しかった人もいると思うし。そうならないように。

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20代男性:あとはフランスみたいに子育て省を作るのは? 今の厚労省じゃなくて、労働と保育・教育を分ける。小中高教育は文科省、保育園とかを保育省とか。

 

30代女性:それなら渋谷区とか港区とかで”子育て特区”作るのがいいと思う。0~6歳の人口が多いので、特区になりうる。国ベースでチャレンジできないなら地域でチャレンジして、子どもを産むなら港区とか渋谷に流れてくるじゃないですか。そうすれば行政に競争が出てくる。

 

一同:あ、それめっちゃいい! 明日からのファーストアクションでた!

 

20代男性:とにかく今は政治に競争がないのが問題。みんなで”子育て特区”作って、住民票移して…。民主主義上でフェアな戦いができる!

 

30代女性:渋谷区議会選でも子育て世代の女性が多く当選しているし、そういうところで育てたいって思う。波は来ているから…やっぱ渋谷ですね 。

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「いつか子どもを」と考えるのであれば、プレコンのような正しい知識が必要で、キャリアプランとライフプランを両輪で考えなければならない。それを実行するには、今の働き方や就活システム(元をたどれば学校教育)が合わなくなっているので、早く打開策を打たなくてはならない。こうした草の根的なミクロな活動とロビイング活動も必要で、そして「子育て特区を渋谷区から進める!」という打開策まで出てディスカッションは終了しました。プレコンについて考えていたら、社会構造の問題や教育環境の歪さも浮き彫りに。広い世代で話し合えたからこその内容だったと思いました。
それにしてもZ世代の情報解像度の高さ! 社会で解決しないといけない問題も山積みなのですが、子育て世代=大変、というイメージがつき過ぎてしまっていて、若い世代たちにとってはプレコン以前の問題になりかねない…… と。そこは私たちメディアにできることがあるのでは? 個人的にまた別の課題を持ち帰らせてもらいました。

 

文・写真/飯田りえ

 

(この記事は2019年12月26日LAXIC掲載記事『「いつか、子どもを。プレコンセプションケアって何?」10代〜40代の男女で妊娠・出産・育児を考えてみた』より転載しました)