「ルミネ the よしもと」での本番を終えた直後、ステージ奥の楽屋でお互いに無言でケータイをいじる二人、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんと中川パラダイスさんだ。
村本さんは2020年度中に、単身渡米し、NYで本場のお笑い、スタンドアップコメディに挑戦することをハフポスト日本版のインタビューで語っている。
村本さんが日本を発ったあと、相方の中川パラダイスさんはどうするのだろう? ウーマンラッシュアワーの行方は?
結成から12年。社会問題に斬り込み、炎上を恐れない村本さんの横で、相方の中川パラダイスさんは、いつもニコニコしていた。原発や沖縄問題について、村本さんがマイクに向かってまくし立てるステージ上でも、多くを語らない。表情も崩さない。それは、見ている私たちにとって、コンビの漫才というより、村本さんの「独演会」のようだ。
しかし、中川パラダイスさん無くして、村本さんの存在はないのではないか。実際のところ、村本さんの数々の「挑戦」について、どう思っているのだろうか。
それぞれの思いを語ってもらった。
村本大輔さん(以下、村本):何年か前に、僕らの漫才を見たアメリカ人の記者が「ジョージ・カーリンを思い出した」とTwitterに書いていて。
ジョージ・カーリンはアメリカの伝説的な社会派コメディアンなんですが、それをきっかけにスタンドアップコメディについて調べてみたら、日本のお笑いとぜんぜん違う。
例えば、ホワイトハウスの晩餐会で、トランプ大統領をはじめ歴代大統領がいる中に、芸人が1人呼ばれて。そこで大統領をディスりまくるわけです。
ミッシェル・ウルフという女性コメディアンもトランプ政権を攻撃しすぎて、トランプ本人はもちろん、メディアからもやりすぎだと叩かれた。にもかかわらず彼女はそこで謝罪するんじゃなく「ほんと、臆病な大統領ね」みたいなことを、また言うわけです。
これって桜を見る会と真逆じゃないですか。
アメリカには、コメディを、笑いを使って社会、政治を監視している感じがありますよね。日本とアメリカの笑いのどっちが良い悪いじゃなくて、僕はこっち(アメリカ)の方が面白いと思うわけです。その面白い中に飛び込みたい。それがアメリカに行く、スタンドアップに挑戦する理由ですね。とにかく挑戦したい。
そういう話(詳しくはインタビュー「ウーマン村本大輔、アメリカ進出を宣言 日本のお笑いに『限界』を感じた理由」をお読みください)を彼(中川パラダイスさん)ともするんですけど、「ぜんぜん行ってこい!」って言うんですよ。
「問題は、行った後、誰と組むかやな」って言い出しましたけどね。マネージャー、泣きましたからね。こんだけ今まで一緒にやってきて、行くや否やほかの相方を探すって悲しすぎますって。
「パラダイスは美しくないよね、生き方が」(村本)
中川パラダイスさん(以下、パラダイス):いや、めっちゃすごいなと思ってるんですよ。その熱意。
正直な話、芸人として培ってきたものをそのまま日本で利用していけば、いまの生活くらいはキープできる。けど、それを捨てて海外で0から始めるって、僕はそんな気持ちになれない。だから、その熱意に関しては、素直にすごいなって尊敬してるんで、応援しています。だから、行ってこいとはなるんです。
でも、そうなったらそうなったで、今度は自分がどうなんねんってなる部分がある。
僕は結構、楽観的にものごとを考えるタイプの人間なんで、「まぁ、なんとかなるわ」と思ってる。その「まぁ、なんとかなるわ」は、お笑いでやっていけるとかではなくて。例えば、苦労したり、しんどい状況になったとしても…いや、なると思う、絶対なると思うんですけど、その場の状況に合わせて生活していける柔軟さは、自分の中にあると思ってるんですよ。
村本:俺を待たないの?
パラダイス:だって、自分もどうなるかなんて分かってへんやろ。
例えば、1年待ってくれって先に言われたら、たぶん待つとは思うんですよ。その間、何かして埋めようとはなるんですけど、本人もおそらくどうなるか分からん。成功してそのまま海外にいるかもしらんし、もしかしたら戻ってくるかもという状況やったら、別に待つ意味もないんやろうなって。
僕は僕で、自分でなにかしら、新しくコンビを組むのか、ピンでやるのか、芸人を辞めるのか、お笑いではない仕事に就職するのかは、決めてない。彼が行ってから考える、そろそろ行くんやでってなってから考えます。
村本:さっきからずっと何言ってるの?
美しくないよね、生き方が。就職するとかって、なんかね。
パラダイス:別にそこに重きをおいてないで。
村本:いや、俺的にやっぱり1番美しいのは、渋谷のハチ公ばりに、お前が俺のことをルミネの警備室の横で待ってるっていう。最後、そこで銅像になる。そしたら美談だけ残るやんか、それは。
そのうちリチャード・ギアあたりが、「ハチ〜」みたいなイメージで、「パ〜ラ〜」って、あかんの?
異彩放つ政治ネタの漫才は「注目されてラッキー」(パラダイス)
村本:スタンドアップコメディがもちろん渡米の目的ではあるんですけど、それ以上に、自分自身の変化、アップデートしたいという思いがある。
僕はもともと芸人になれるわけがないやつだったんです。中・高校時代は勉強もスポーツもまったくできないし、吉本の養成所でもずっとスベり続けて。
でもこうやって続けてきたら、その僕がTHE MANZAIで日本一になって、この大晦日には坂本龍一さんが食事に誘ってくれて、その食事の席での会話が本当に楽しいわけですよ。
なんていうのかな、ニワトリが空を飛んだから、次は宇宙に行けるんじゃないかと夢見る感じ。自分自身がどれくらい変われるのか、変わるための手段がスタンドアップコメディなんです。
でもね、彼(パラダイスさん)は変われないんですよ。だって、ずーっと携帯ゲームしてるやん。アプリ、めちゃくちゃ入ってる。何回もやめろって、アプリ断ちも1回したのに。
パラダイス:アプリ断ちしましたね。
村本:でも、気がついたら、またネコ集めたりしてる。
パラダイス:だって、可愛いんやもん。
村本:携帯ゲームをやり、マンガを読み…。まさに古代ローマでいうところの「国民にパンとサーカスを与えれば、政治に無関心になる」ですよ。パラダイスにアプリとマンガを与えておいたら、消費税が20%になっても「しゃあないな」ってなる。
パラダイス:確かに。
━━昨年末のTHE MANZAIもそうでしたが、政治的なネタのウーマンラッシュアワーの漫才は異彩を放っていますが、パラダイスさんはそれについてどう思っていますか?
パラダイス:注目されてラッキー、ですね。
村本:何を言ってるのか分からなくて、みんな(取材陣)固まってんで。
彼はね、限りなくマイペースな人間なんです。誰が何を言おうが、一切生き方は変わらないんですよ。
究極の「しゃあないな主義」で、戦争が起きても「しゃあないな」、税金が50%になったとしても「しゃあないな」、これから先困ったとしても金貯めてなかった自分が悪いから「しゃあないな」、全部「しゃあないな」っていうタイプ。
パラダイス:「いまのうちになんとかしとかな、将来後悔すんで」と言われても、「分かってるよ」って言うぐらい。そりゃそうやろうなって思うだけ、というか。
村本:アリとキリギリスでいうと、俺がアリで、彼は冬になって食べ物がなかったら、土下座すればアリからもらえるやろって、アリの友達いるし、みたいな。誰か助けてくれるやろって思うタイプのキリギリスです。もちろん、次の冬も同じことをしてしまう。
だから、人に愛されるんですよね。例えば、知り合いの経営者なんかが旅行に連れて行ってくれるとか、いつも誰かしらに助けてもらいながら生きていくというコミュニケーション力やセンスに長けている。愛されるキリギリスなんですよ。
僕はそれがないから、自力で行くしかない。アメリカに行くのもそうで。
だからね、アメリカに行ってる間、彼はどこでも楽しめてるとは思いますけど、僕が罪悪感を感じないくらいに、幸せでいて欲しい。無料案内所で案内してたりする可能性もあるんで。
せめてバラエティに出てるとか何か表現するようなことをやってて欲しい。仕事の優劣ではなくて、お笑いが好きやったんやなって分かることが嬉しいわけですよ。1番嫌なのは、経営者かなんかになってること、引きますよね。
天理大学のパーカを着た創価学会員、パラダイス
村本:この話、よくするんですけど、天理大学の学祭に呼ばれて行った時、学祭の実行員の学生にパーカをもらって。天理大学って入ってるし、僕は着ないわけですよ。学生さん読んでたら、ごめんなさいね、俺、無宗教だから。
でもね、彼は毎日のように着るわけですよ。その天理大学って入ったパーカ。
パラダイス:ぜんぜん着るよ。
村本:でもね、彼、創価学会なんですよ。創価学会員が天理教のパーカ着るって。しかも、初詣で鳥居の下をガンガン歩くわけですよ。
パラダイス:別にええやん。
村本:創価学会も、先輩に「ちょっと入ってくれへん?」って言われて入っただけで、そこに信念も何もないんですよ。
パラダイス:ないですね。
村本:誘われたから入った、着てって言われたから着てる。僕とコンビ組んだのも、声かけられたから。
彼みたいに、与えられたものを何も気にせず、こだわりもなく受け止めるって魅力的かもしれないですね。
この前、健康食品の店があって、おばあちゃん1人でやってる店なんですけど、反原発の本なんかが置かれてて。そのおばあちゃんが「病院なんて行っちゃダメよ、薬で殺されるからね」って言うんです。すごく生きづらそうなんですよね。
たとえコンビニの弁当でも、それに保存料が入っていて体に悪かろうが、いや、美味いし、別になるようになるし…って生きている人間こそが、実は自由なのかもしれない。
だって、彼はコンビ組んだ時からずっと、給料10万でも100万でも、ユニクロを着てる。結婚する前はお母さんが、結婚した今は嫁がユニクロを買うんです。舞台では衣装さんが選んだ衣装を着る。
僕やったらマルジェラじゃないととか、プラダじゃないととかあるわけですよ。
それこそ福岡に初めて仕事行った時に、吉野家食べて東京に戻ってきて、みんなの大ブーイングを受けた時、「だって、美味いやん」で片付けた男ですからね。その生き方にある種のジェラシーを感じるような、羨ましく思える時もあります。
「僕はロッククライミングしてる感覚だけど、彼は自分を岩だと思ってる」(村本)
村本:僕は、どんどん動いて環境を変えていかないと死にそうな気がするんですよ。止まることができないというか。
ロッククライミングのように、上へ上へ登っていく。劇場でも舞台はずっとそこにありますけど、下から新しい芸人がどんどん登ってくるわけであって、どこかで譲らなといけない。その時に自分自身が変化して、新しい自分の場所をつくっていかないと。
僕はロッククライミングしてる感覚ですけど、彼は自分のことをロック=岩だと思ってるかもわからないですね。岩に生える野草のような感覚で、ただそこにあるだけなんだ、と。
これね、ウーマンラッシュアワーでインタビュー受けると、最終的にはパラダイスの人格的な面白さに終始してしまうのよ、本来のアメリカへの挑戦の話を誰も聞いてくれないという…。