中国における新型肺炎の感染拡大を受けて、政府は1月28日の閣議で、新型コロナウイルスを感染症法の「指定感染症」とする政令を公布しました。
すでに、中国では新型コロナウイルスに感染して死亡した人は170人となり、報告された患者数は7,736人となっています(新浪新聞)。
また、中国本土以外では、これまでに19の国と地域で99人の感染者が確認されています(Wuhan Coronavirus Global Cases)。
ただし、中国以外では、死亡者は出ておらず、市中における感染拡大が起きているとの報告もありません。
毎日のように新たな情報が入ってきていますが、これまでの情報を整理しながら、前回の内容を更新して、一般の方々に知っておいていただきたいことを問答形式で解説いたします。
問1 コロナウイルスとは、どのような病原体なのですか?
コロナウイルスというのは、ヒトや動物のあいだで感染症を引き起こす病原体で、これまで6種類が知られていました。
うち4種類は、咳や咽頭痛などの上気道症状しか引き起こさないウイルスで、私たちが「風邪」と呼んでいる病気の10~15%程度はコロナウイルスによるものです。あとの2種類は、深刻な呼吸器疾患を引き起こすことがあるウイルスで、重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)として世界的に流行しました。
SARSは、コウモリからヒトへと感染して、2002年11月から2003年7月のあいだに8,069人の感染(疑い例を含む)が報告され、そのうち775人が死亡しています(致命率 9.6%)。ただし、死亡した人の多くが高齢者もしくは基礎疾患を有する人で、子供は感染しても軽症だったことが特徴です。
MERSは、ヒトコブラクダからヒトへと感染して、これまでに2,494人の感染が報告され、そのうち858人が死亡しています(致命率34.4%)。ただし、調査によってサウジアラビア人の0.15%(約5万人)がMERSに対する抗体を有していることが明らかになっています。つまり、少なからぬ人が、ウイルスに感染しても軽症あるいは無症状で回復しており、重症化するのは、高齢者や基礎疾患を有する人であろうと考えられています。
そして、今回、中国から流行している新型コロナウイルスによる肺炎とは、これまで知られていなかった新たな7つ目のウイルスによる感染症です。
問2 新型コロナウイルスに感染すると、どのような症状があるのですか?
中国における臨床情報を紹介する論文が複数公開され、少しずつ特徴が明らかになってきています。
武漢市の病院に入院した41人の患者情報によると、ほとんどの患者に発熱(40/41)や咳(31/41)を認め、ほぼ半数が呼吸困難(22/40)を訴えていたようです。
一方、頭痛(8/38)や下痢(1/38)は少なかったとのことです。これら患者の大半が25歳以上(40/41)であり、ほぼ半数が50歳以上(19/41)でした。小児の入院はありませんでした(Lancet. 2020 Jan 24. pii)。
また、武漢市への旅行から帰ってきた家族6人のうち5人が発症し、旅行に行かなかった家族2人が発症した事例について報告されています。とくに、症状はないもののレントゲンでは肺炎がある10歳の男の子がいたことを紹介し、“Walking pneumonia(歩く肺炎)”と指摘しています(Lancet. 2020 Jan 24. pii)。
このことは重要な意味をもっています。つまり、小児が感染しないのではなく、感染しても症状が軽い可能性があるということ。しかし、実は肺炎を引き起こしており、感染拡大の要因になっているかもしれないということです。
ともあれ、報告されているだけでなく、一定数の軽症者がいることが分かってきました。入院するなど重症化しているのは、主として、高齢者や基礎疾患を有する人ではないかと思われます。
問3 新型コロナウイルスに感染すると、死亡することもありますか?
手元にある最新の情報では、これまで世界で7,835人について診断が確定しており、うち170人が死亡しているとのことです(新浪新聞)。
これにより致命率は2.2%と計算されますが、感染していても軽症で受診していない方も多いはずで、母数(感染者数)が分かっていないことも踏まえる必要があります。単純に比較することはできませんが、現時点の情報からすると、SARS(致命率9.6%)やMERS(同 34.4%)ほどの病原性はないのかもしれません。
なお、疫学情報を地域別で分析すると、もう少し、この疾患の特徴が見えてきます。
まず、1月30日時点の武漢市における感染者は2,261人で死亡者129人です(致命率5.7%)。武漢市以外の湖北省における感染者は2,325人で死亡者33人です(致命率1.4%)。湖北省以外の中国本土における感染者は2,616人で死亡者8人です(致命率0.3%)。そして、中国本土以外における感染者は99人で死亡者0人です(致命率0%)。
予断を恐れずに申しますが、武漢市内の医療機関の大混乱によって、助けられる患者たちが助けられなかった可能性がありそうです。そう考えると、中国政府が大急ぎで病院を建設したのも理解できますね。ウイルスの病原性だけではなく、医療提供体制が不十分だったために致命率があがったということです。
患者が殺到する状況では、検査を行う対象は重症者に偏るはずで、このことも見かけ上の致命率を上げているでしょう。
また、診断から死亡までのタイムラグがあるので、今後、武漢市以外での死亡者が増えてくる可能性は十分にあります。いずれにせよ、中国の疫学情報を鵜呑みにすべきではなく、日本へのインパクトを考えるにあたっては、先進的かつ潤沢な医療提供体制における今後の疫学情報に注目していくことが必要でしょう。
そして、流行極期にあっても救急病院を混乱させないよう、いまから準備を進めておくこと。これがパンデミックにおいて、致命率を下げる最重要な要素であることは間違いありません。
問4 どのような人が、新型コロナウイルスに感染して死亡するのですか?
どのような方が亡くなっているかについては、中国政府の国家衛生健康委員会が2020年1月23日時点での死亡例17人について公表しており、かなり参考になります。
この報告によると、死亡した17人(48~89歳)のうち、約6割(10/17)に糖尿病や肝硬変、脳梗塞などの持病が確認されています。それ以外の方についても、健康であったかは明らかではなく「不明」とされていました。最年少の48歳女性についても、糖尿病と脳梗塞があったと記されています。
死亡された方の平均年齢は73.3歳で、65歳未満は2人でした。そのうえで、国家衛生健康委員会の専門家は「重症化し、亡くなる感染者の多くは持病を抱える高齢者」と分析しています。
もっとも、脳梗塞から水虫まで持病にも様々あります。かかりつけの医師に確認いただくのが一番ですが、おおむね、持病に対して定期の内服薬が必要とされている方が該当します。そして、糖尿病など生活習慣病については、医師から治療目標に達してないと言われている方は、さらにリスクが上昇します。
また、意外に自覚されてない方が多いのですが、肥満は、呼吸器感染症においては死亡リスクが高いです。たとえば、2009年の新型インフルエンザにおける世界の疫学情報をとりまとめた研究によると、喘息のある人はない人に対して死亡リスクが1.7倍に上昇し、糖尿病では4.0倍、心臓病では9.2倍、腎臓病では22.7倍、肝臓病では17.4倍、神経疾患では13.1倍、妊娠では1.9倍に上昇していました。しかし、高度肥満(BMI>40)では36.3倍とダントツの高さでした。
もちろん、インフルエンザと新型コロナウイルスは異なりますが、とくに肥満のある方は、死亡リスクが高いことを自覚して、しっかりと感染予防を心がけていただければと思います。
問5 新型コロナウイルスには、どのようにして感染するのですか?
何かの野生動物が感染源だろうと推測されます。当初は、武漢市内の海鮮市場に出入りしていた人に感染者が集中していたことから、そこで処理された動物由来の飛沫を吸入したり、体液に接触したことが原因かもしれません。ただ、残念ながら、現時点では動物の種類は同定できていません。
しかし、現在の感染拡大は、ヒトからヒトへの感染によるものです。感染している人の咳から生じる「しぶき」を吸入したり、ウイルスが含まれる喀痰や唾液などに触れた手で口や鼻、目を触ったことで感染が起きているものと考えられます。
問6 新型コロナウイルスの感染力は、どれぐらい強いのですか?
WHOの緊急委員会の報告では、基本再生産数(R0)を1.4-2.5との試算を引用していました。この「R0」とは、感染症のうつりやすさの指標として使われるもので、簡単に言うと「1人の患者から何人に感染させるか」を表しています。つまり、新型コロナウイルスの患者1人から2人前後が感染するということになります(今後の疫学情報で変化する可能性あり)。
日常的に私たちが経験しているインフルエンザのR0は1.4-4.0とされますから、インフルエンザと感染力が同等もしくは少し弱いと推定されますね。なお、2年前に1人の外国人旅行者から沖縄県内で麻疹が流行したことがありました。麻疹は感染力が極めて強く、R0は12-18とされています。
よって、すれ違ったぐらいで感染するようなウイルスではなさそうです。しかし、マスクによる防御もないまま、くしゃみを浴びせられたり、汚染されたドアノブに触れたりして、その手で鼻や口に触れることで感染するかもしれません。
問7 中国で感染者が急速に増えているのはなぜですか?
中国で報告されている患者数の増大は、インフルエンザの拡大よりも急速な印象があります。報告されているR0とはズレがあります。その可能性としては3つあります。
1つ目は、中国国内にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による検査体制を整備したことで、これまで調べていなかった人たちについても、検査が行われるようになったため、報告数が急増しているのかもしれません。
2つ目は、中国における感染管理が失敗している可能性です。ネット上で流れている映像をみると、医療機関に感染者も家族も不安者も殺到しており、適切な感染対策がとられていないように見受けられます。つまり、病院において感染が広がっているのかもしれません。
3つ目は、「スーパースプレッダー」が存在している可能性です。これは、たった1人で何十人もの人に感染させてしまう患者のことで、過去のSARSやMERSにおいてスーパースプレッダーが存在していたことが分かっています。今回の新型コロナウイルス感染症でも、このスーパースプレッダーがいるのかもしれません。
これら3つのいずれか、もしくは組み合わせで中国で報告されている患者数が増大しているのではないかと思われます。
問8 新型コロナウイルスに有効な治療薬やワクチンはあるのですか?
コロナウイルスの治療とは、いわゆる対症療法といって、解熱剤などで症状を緩和し、必要に応じて呼吸や循環を支える治療を行いながら、自らの免疫による回復を待つことになります。
なお、中国においては、HIV感染症(エイズ)の治療に用いられるカレトラ(ロピナビル・リトナビル配合剤)を使用しているとの報道がありました。
実は、SARSが流行した際にも、このカレトラ錠が有効なのではないかとの報告があり、期待できる治療薬のひとつではあります。
ただし、現時点では、新型コロナウイルス感染症に対して有効であるかについて、科学的な検証が十分に行われないままに使用されている状況です。カレトラを内服すると、下痢や嘔吐などの副作用が高い確率で発生します。タミフルのように気軽に内服できる薬剤ではなく、選択するにしても重症者に限られると思います。
問9 新型コロナウイルスへの感染を防ぐため、どのような対策をとればよいのでしょうか?
現時点では、患者を診療する可能性のある医療従事者でない限り、日本で暮らしている一般の方が特別な対策をとる必要はありません。あえて挙げるとすれば、咳エチケットや手洗いなど日頃の感染対策をしっかりすることでしょう。
今後、日本国内で流行が始まった場合には、人混みを避けて感染者と接触しないようにすることが一番ですが、人混みに入ったときは、なるべく共用のものを触らないようにしてください。もし触れてしまったときには、手洗いするまで顔を触らないように注意しましょう。
なお、人混みでマスクを着用することも有効かもしれませんが、その効果を信頼しすぎないことが大切です。実際、私たち感染症を専門とする医師からみると、マスクを正しく着用できている一般の方々は少ないです。
マスクから鼻が出ているのはもっての外ですが、たとえば、マスクの表面を素手で触っていませんか? 触ってしまったときは、すぐにマスクを捨て、手洗いをしていますか?
コロナウイルスを含めて、飛沫感染する感染症の多くが接触感染もします。つまり、汚染された手で鼻や口を触ることでも感染しうるということです。もし、その手についた病原体を口元にあてているマスクに付着させるならば、むしろマスクをつけてない方が安全ですらあります。
私たち医療従事者は、こうしたマスク着用のトレーニングを経て、感染している患者さんから自らへの感染を予防しています。一般の方々にとっては、マスクとは咳エチケットの一部であって、つまり感染して咳があるときに着用するものと考えていただければと思います。
問10 中国では春節の連休が始まって、日本を訪れている観光客も多いようです。今後、日本に感染が拡大する可能性はあるのでしょうか?
中国では春節(旧正月)の大型連休が始まっています。旅行代理店を通じた海外渡航については制限がされているようですが、それでも多くの個人旅行者が日本を訪れています。とくに、列車やバスでの移動では、長時間にわたって狭い空間を同じくするため、感染が拡大しやすい状態になると言わざるをえません。奈良県における国内最初の二次感染は、そうやって発生してしまいました。
思い返せば、2009年の新型インフルエンザの世界的流行も、4月12日から17日までメキシコ最大の祭りであるセマナ・サンタ(Semana Santa = 聖週間)が深くかかわっています。すなわち、都市部の住民が大挙して里帰りして、さらにはパレードを見ようと欧米から観光客がメキシコを訪問していたわけです。そして、4月下旬から世界的な流行が始まってしまいました。
残念ながら、すでに始まっている春節が、同じことの繰り返しとなるのかもしれません。WHOは潜伏期について、暫定的に2-10日間と推定していますから、2月中旬ごろには日本でも感染者の広がりを認める可能性があると考えられます。
ただし、日本を訪れる中国人全体を危険視したり、忌避するのは過剰な反応だと思います。いま仮に、すべての中国人の入国を拒否したとして、今後、他の国々でも流行がはじまったとき、私たちは同様に拒否を重ね続けるのかも考えなければなりません。
世界的流行を前にして、私たちは鎖国を続けることはできません。世界で流行する感染症であれば、日本でも流行する。それが交易国家である日本の宿命であり、国内における医療体制を強化することが現実的だと私は思います。
問11 検疫を徹底すれば、国内への侵入を防げるのではないですか?
検疫とは、国内への侵入を防ぐうえでの最初の防壁です。ただし、それは万全ではありません。症状があることを自己申告していただければ、その方を適切な医療に繋げ、かつ感染拡大を防ぐこともできるでしょう。しかし、申し出もなく、解熱剤などで症状を抑えていれば、サーモグラフィなどを活用したとしても、もはや捕捉することは困難です。
また、新型コロナウイルスの潜伏期間については、2-10日間程度と推定されています。そのあいだに入国される方については、症状を確認しているだけの検疫ゲートでは感染者の侵入を防ぐことはできないでしょう。
問12 中国を訪問する予定があります。感染を予防するためには、どのようなことに注意すれば良いでしょうか?
中国に限らず、海外への渡航を予定している方は、訪れる国や地域の最新の流行状況を参照してください。また、空港や鉄道駅などの人混みにおいては、流行していない地域であっても、感染者と接触する可能性があると考えてください。
渡航すべきでないとまでは申しませんが、その必要性について個別に検討いただければと思います。高齢者や基礎疾患がある方、とくに免疫が低下している方、あるいは妊娠している方については、主治医によく相談されることをお勧めします。
渡航された場合には、現地では、石鹸と流水による手洗いもしくはアルコールによる手指消毒を心がけてください。そして、とくに中国では、できるだけ食肉を扱う生鮮市場には近づかないようにしてください。あえて狩猟肉(ジビエ肉)を口にすることがないよう注意しましょう。
問13 咳と発熱があります。新型コロナウイルスに感染したのでしょうか?
流行地域からの帰国後2週間以内に発熱や咳などの症状を認めるときは、あらかじめ医療機関に問い合わせたうえで、指定された方法で受診するようにしてください。よく分からないときは、保健所に問い合わせることもできます。
また、外国人を雇用している事業者については、従業員が春節で里帰りをしたり、あるいは逆に親族の訪問を受けたりしているかもしれません。留学生についても同様です。あまり疑心暗鬼になる必要はありませんが、日本語の情報が届いていない可能性もありますから、適切に行動できるようサポートしてあげてください。
一方、渡航歴のない方であって、渡航歴のある発熱患者との接触もない方が、新型コロナウイルスに感染している可能性は、現時点では、ほとんど考える必要はありません。インフルエンザかもしれませんが、風邪症状を引き起こすウイルスは多数ありますから、あまり気に病まず、症状が重ければ病院に行っていただき、そうでなれば自宅でゆっくりと療養いただければ良いのではないかと思います。あなたに持病があって、かかりつけ医がいらっしゃる方は、相談されることをお勧めします。
そして、新型コロナウイルスへの感染の有無によらず、日頃より、咳や発熱などの症状がある人が、咳エチケットを心がけ、できるだけ外出を自粛して、周囲にうつさないように行動することが大切です。こうした配慮が、地域全体の感染症に対する防御を高めていくものです。
問14 新型コロナウイルス感染症を感染症法に基づく「指定感染症」とすることが閣議決定されたとのことですが、そのことで何が変わるのでしょうか?
政府は、新型コロナウイルス感染症について、感染症法に基づく「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を公布しました。施行は2月7日とされています。
これにより、厚生労働省が定める症例定義に該当する方が医療機関を受診したときは、確定診断のための検査に協力するよう求められ、診断されると入院が勧告されるようになります。
その入院医療費は公費負担(自己負担なし)となります。また、医師の報告義務が生じますので、サーベイランス(調査監視)が確実になります。これにより、全国での流行状況を把握することが容易になります。
ただし、感染者を1人、2人と正確に数えることが「指定感染症」の目的ではありません。しばしば行政は数えることに没頭し、メディアは迅速に数を伝えることに熱狂しがちなので注意が必要です。
そもそも「指定感染症」の目的とは、まん延を防止すること、そして流行に備えるための時間稼ぎをすることにあります。ですから、封じ込めができないことが明らかになって(地域での流行が始まって)、かつ流行を迎え撃つ医療体制が整ったら、すべての患者を入院させる必要はなくなるのです。
実のところ、感染者が多数出ている状況では、すべての患者さんについて検査をすることも、入院させることもできませんし、その意義もほとんどありません。ですから、軽症の患者さんについては、インフルエンザと同様に自宅安静としていただくことになるでしょう。そして、一定の自己負担がある保険診療となります。
ここは強調しておきたいのですが、新型コロナウイルスの流行が拡大してきたら、診断のみを求めて医療機関を受診しないようにしてください。インフルエンザのような診断キットは存在しておらず、確定診断のためには保健所を介して地方衛生研究所でのPCR検査を行う必要があるからです。この検査体制には限りがあるので、発生早期にはすべての疑われる患者さんに行ったとしても、流行期には重症者のみに行うことになるでしょう。
インフルエンザとは異なり、新型コロナウイルス感染症には保険適応の特効薬もありませんから、実のところ、確定診断する意義はほとんどありません。その時期になったら、若くて基礎疾患のない方々は、症状が軽ければ自宅で療養いただければと思います。もちろん、呼吸苦があったり、食事がとれない、体の動きが悪いなど、体調に不安があるときは迷わず医療機関を受診してください。
問15 持病があります。どのような対策をとれば良いでしょうか?
まずは主治医に相談してみましょう。リスクに応じた感染対策の方法についてアドバイスがあるものと思います。
高齢の方は、肺炎球菌ワクチンを確実に実施しているかを確認してもらいましょう。新型コロナウイルスに感染した後に、二次的に細菌性肺炎を発症して亡くなっている方もいるようです。
また、インフルエンザの流行が重なる可能性もあるため、持病のある方や高齢者の方々は、やはり主治医に相談してワクチン接種を完了させておいた方が良いと思います。インフルエンザに罹患することもリスクですが、そのことで医療機関を受診すると、(新型コロナウイルスと見分けがつかないため)発熱者エリアで待たされてしまい、新型コロナウイルスにも感染してしまうリスクがあります。
なお、私自身の外来患者さんについては、安定していれば定期薬処方を3か月として、流行期に受診せずにすむよう調整することを始めています。2月から3月にかけてが流行のピークとなり、医療機関が感染者で混雑することも考えられますので、そうした時期に病院を訪れなくても済むように工夫してもらうのも、ひとつの方法です。
問16 高齢者施設を経営しています。どのような対策が求められますか?
前述のように、中国政府の国家衛生健康委員会によると、死亡された方の平均年齢は73.3歳であり、高齢者が重症化しやすいことが指摘されています。高齢者施設は持病もあってハイリスクの方々が集住しており、しかも認知症があるなど感染対策への協力が困難な方も少なくないと思われます。
このため、流行期に入ってからは、高齢者施設そのものを地域から隔離するなど、感染者との接点が生じない方法を検討する必要がありそうです。具体的には、面会訪問を制限すること、従業員については毎朝の検温と症状確認を行って、疑わしい場合には仕事を休ませることなどが挙げられます。また、入居者の外来通院について、一時的に訪問診療により集約化するなど、病院に行かなくても済むような方法を地区医師会とのあいだで申し合わせることも考えられます。
そして、それでも集団感染が発生してしまった場合の医療提供および感染管理の方法について、保健所などと相談しながら施設ごとに検討しておくことをお勧めします。
問17 いつ流行が終息するのでしょうか?
まったく分かりません。
SARSのときは、2002年11月から2003年7月までの流行でした。感染力が強ければ、一気に燃えて、春先には燃え尽きる可能性もあります。しかし、感染力が弱ければ、じわじわと感染が拡大することから、今夏の東京オリンピック・パラリンピックに関わる可能性も十分に考えられます。
このように不安定かつ見通しの立たない状況では、根拠のない「噂」が飛び交って、さらに混乱に拍車がかかることがあります。日本にいる私たちにとって大切なことは、信頼できる情報源は何かを見極めるリテラシーをもち、SNS上などの「噂」に振り回されることなく、落ち着いて適切な行動をとることだと思います。