小泉進次郎環境相が1月15日、第一子誕生に合わせて通算2週間の「育休」を取得することを表明した。出産から3カ月の間に、公務最優先で2週間分の育児のための休暇を取得するという。日本の現役閣僚の育休取得は初めて。
2019年8月にフリーアナウンサーの滝川クリステルさんと結婚した小泉氏は、同月中に育休の取得を検討していると語っていた。
2カ月前の6月には、自民党内で男性の育休『義務化』を目指す議員連盟が発足。議論の土壌が出来上がっていたこともあり、小泉氏を後押しする声も多かった。
一方で、批判もあった。
「もう内閣の一員になったのだから、育休を言っている場合じゃなくなったのではないか」(松井一郎・日本維新の会代表)など、政治家からの否定的意見だけでなく、SNSでは「ベビーシッターや家政婦を雇えばいい」などの反対意見も少なくなかった。
こうした声が耳に入っていたのか、小泉氏は育休取得を表明するブログの中で、「選挙で選ばれている国会議員、加えて、環境省で働くみなさんを率いる環境大臣という立場での重要な公務を抱えていることを考えると、取ることは難しいのかもしれない」と悩んだことも告白。
「『あぁ、世の中の男性もこういう葛藤を抱え、育休を取りたくても取りにくい思いを抱えながら働いてるんだな…』と、当事者として痛感しました。正直、ものすごく悩みました」と吐露したうえで、「しかし、制度だけではなく空気も変えていかなければ、育休取得は広がっていかない」と決意を込めた。
フィンランドでは98年に男性首相が育休を取得
34歳の女性という史上最年少のサンナ・マリン首相の誕生が話題となったフィンランドに目を向けてみよう。
フィンランドは2019年のジェンダーギャップ指数が3位で、言わずと知れた男女平等の先進国。男性の育休取得率も8割を超える。
政治家の取得も当たり前。1998年には、パーヴォ・リッポネン首相(当時)が男性の閣僚として初めての育休を取得した。リッポネン首相は2000年にも第二子の誕生に合わせて2度目の育休を取っている。
当時のフィンランド国内の反応はどうだったのだろうか。
「フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか」(ポプラ社)を著したフィンランド大使館の広報・堀内都喜子さんは、「驚きはあったものの、批判は少なかったと聞いています」と語る。
「リッポネン首相は50代で突然若い女性と再婚し、子どもが生まれたので、そういう面での驚きであって、『首相が育休なんて』とか『議員として育休取得がどうなのか』といった論争はあまりなかったそうです」
「男性議員が育休を取得したくらいではニュースにならない」
フィンランドでは男性議員も女性議員も、地位に関係なく育休を当たり前に取得する。リッポネン首相の育休取得が、国内に男性の育休取得が広がる大きなきっかけになったという。
「98年の取得時のインパクトは大きく、首相が取るなら僕たちも取っていいよね、という空気ができたそうです。2度目の育休ではもう驚かれることもありませんでした」と堀内さん。
「男性議員が育休を取得したくらいでは、フィンランドではもはやニュースになりません。取るのが当たり前なので、大使館ではもう把握もしていないんです」
大臣が育休を取得する際には、代理の大臣が立てられる。大事な会議や投票など必要な際には、仕事をすることも可能だ。もちろん、育休後は元の職に復帰できる。
現在も、現役の女性大臣が1年間の育休を取得中だ。
「彼女は、妊娠と育休取得が分かっていながら、大臣職をオファーされました。もちろん批判はありません。むしろ、彼女は党首にも推されていたのですが、彼女が出産を理由に党首選への出馬を断ったところ、『なんて古いんだ』と批判が起きたくらいです(笑)」
「議員も人間ですから、ライフイベントで休むのは当然です。日本も、小泉さんが育休を取得すれば色々変わっていくんじゃないでしょうか」
「空気」は変わるか?
イギリスでも、労働党のブレア首相(当時)が2000年の第4子誕生後に2週間の事実上の育休を取得。イギリス国内の男性の育休取得促進を大きく後押しした経緯がある。
小泉氏の育休取得表明を受け、Twitterでは「#進次郎の育休応援」というハッシュタグも登場。
「税金を使うな」「大臣を辞任してから育休を取るべきでは」など現役大臣の育休に疑問を呈する声が上がる一方、「パフォーマンスでも、行動することに意義がある」「とても勇気が必要な行動だと思う」など、小泉氏を支持する声も多数上がっている。
自民党の議連の発起人でもある森雅子法相は「大変嬉しいニュース!」と公式Twitterに投稿。「取得したい人が取得できない現状をリーダーが実践して変えていくことが不可欠。私も法務省男性育休100%取得を大臣訓示などで宣言してます!」と小泉氏を支持した。
2018年度の日本の男性育休取得率はわずか6.16%。“空気”を読み、「取りたくても言い出せない」という人は大勢いる。
“空気” は変わるだろうか。