「『不倫』は高齢化します」 100人以上の女性に聞いたライターに聞く、性と愛のこれから

2006年から「不倫」に関する取材を続けている、フリーライターの沢木文さんに聞いた。
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定期的に、人々の耳目を集める「不倫」。恋愛のこれからを考える上で避けては通れない問題だ。

真偽は不明ながら、最近では、社会的に成功を収めた女性が週刊誌に追いかけられることもしばしば。「人の家庭のことを噂にすべきでない」と分かってはいても、思わず気になってしまうのもまた真実だろう。

そこで、恐る恐るこんな人に話を聞いてみた。2006年から不倫に関する取材を続けている、フリーライターの沢木文さん。都市部に生きる女性たちの恋愛事情を取材・執筆した『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある。

100人以上の女性に不倫の話を聞いてきたという沢木さんに、不倫を通じて見えた時代の変化、恋愛の変化について聞いた。

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Motortion via Getty Images

――今年もたくさんの不倫が話題になりましたね…。過去と今で不倫の形の特徴に変化がありますか?

1999年代から、2010年前後まではITバブルがあったこともあり、不倫といえば既婚の男性が若い女性と付き合うケースが多かったように思います。今の“パパ活”と似たようなところがあります。

その頃はまだ、不倫する既婚女性は少数派だった印象です。異性との出会いのチャンスが少ないこと、社会的な性的役割分担が女性を縛っており、「主婦(母)が仕事や用事以外で外出するのはけしからん」という時代の空気があったからです。

――特に都心では性別役割分担の意識は少しずつ変化していると感じます。素晴らしいことですが、女性が外に出ると、やっぱり既婚女性の外での恋愛が増えることになる…と。

そうですね、2005年頃から、終身雇用が本格的に崩壊し、肌感覚的としても共働き家庭が急増した印象はありませんか?そこで、仕事で出会った人と既婚女性が不倫するというケースが増えたように私は感じています。

――そんなことを言うと「それみたことか、女性が外で働くなんてけしからん」と、一部の保守派の方々に言われてしまいそうな気もしますので、ちょっと私にとっては耳が痛い情報です。

保守派の多くは専業主婦が当たり前とされていた、50代以上の層か、もしくはその世代の影響を受けている人だと感じています。しかし、今の40代以下は、女性が外で働かなければ、生活が成立しない。この頃から、年長者が発する批判を「老害」とする風潮もまたできてきたように思います。女性たちは、面従腹背しながら、自分の仕事とお金を得つつ、ついでにトキメキを手に入れているのです。

ただ、それだけではありません。既婚女性の出会い事情の転換は、SNSの『mixi』が2004年に登場したことも理由の一つですよ。専業主婦であっても、同級生や元カレとつながることができ、『mixi不倫』なんて言葉が使われるようにもなりました。最近はマッチングアプリでの出会いも多くなりましたね。

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oatawa via Getty Images

 ――SNSやスマホ、マッチングアプリというツールの変化も確かに大きそうです。

2008年のiPhone発売以降、爆発的にスマホが普及したことも追い風でした。ウェブサイトにアクセスしやすくなり、アプリも続々登場。Facebook、Twitterほか多数のSNSも出会いの“チャネル”になったのです。既婚女性が多様な人と出会えるようになりました。連絡も取りやすくなりました。LINEや各種メッセンジャーの登場も、不倫の急増を後押ししました。

この頃までは「不倫はいけないことだ」と語る既婚女性が多かった。しかし、2010年代にはそのような感覚が薄らいでいますね。

――共働き化とツールの発展で、2010年代になって、「不倫」に変化が現れたと。それは沢木さんが、取材相手の話から感じたことなんでしょうか?

それもありますが、不倫を扱ったテレビドラマや映画にも如実にその変化が現れていると思いますね。不倫をテーマにしたヒット作品といえば、『失楽園』や”アイルケ”(『愛の流刑地』の略称・いずれも渡辺淳一著)ですよね。不倫の代名詞的な作品でもあります。これらの作品では、既婚女性は命がけで恋をしていました。

しかし近年、社会現象になった不倫ドラマは『昼顔』(2014年)や『あなたのことはそれほど』(2017)ですね。そこには、死の気配はありません。命がけだったはずの不倫はその後、カジュアルに描かれるようになっていきました。

さらに言えば、夫とは異なるフラットな価値観を持つ若者との恋、夫の束縛やモラハラから逃れる手段としての不倫が描かれていると感じました。

一般の女性に取材をしていても感じることですが、かつての不倫は男女の恋愛感情に主軸が置かれていましたが、今は娯楽であったり、現実から抜け出す突破口のような役割もあるのです。

――「命がけ」から、「娯楽」や「現実から逃げ出す突破口」ですか…。どんな人がいるんでしょうか?

例えば2011年の東日本大震災後、都心では”放射能”の恐怖もあり、余震と停電におびえる日々が続きました。それまで自分を縛っていた家やモラハラ夫の理不尽さに心のどこかで憤怒していたが、震災をきっかけに、自分軸で生きる道を選んだと話す女性がたくさんいました。

――ところで、そもそも沢木さんは、はなぜ「不倫する女性」の取材を続けているのでしょうか?

ある意味、自由の象徴だからです。かつての刑法では、女性側だけに姦通罪がありました。それなのに、男性は妾宅通いが容認され、本妻に対して権妻(妾)という言葉もあったのです。今も“浮気は男の甲斐性”などと言われているのに、女性は“ふしだら”とか“子供がかわいそう”などと糾弾される。

しかし、経済力と行動力、コミュニケーション能力を発揮し、夫とは別の相手と、肉体関係を持つ。そんな、タブーとされている領域を乗り越える女性に魅力を感じるからです。 

――なるほど。とはいえ、不倫には今でも男女に関わらず大きな代償もありますよね。

深入りしなければいいのですが。でも、実際はそうではありません。私が聞いたケースの中では、やっぱり、女性側が男性に溺れて行き、相手を束縛したり、尽くしたりすがったりして“重い”と関係を切られることが多々ありました。

ある45歳の女性は、子供の学費として貯めていた300万円を20歳年下の不倫相手のミュージシャンに貢いだといいます。反抗期の子供より、目の前の男にお金を差し出してしまう背景には、さみしさがあったのだと思います。このように、不倫に深入りしてしまう人の多くは、何かしらの満たされなさを抱えていると思います。

他にも、不倫相手に性感染症をうつされたり、性的な写真を撮影されて脅されたり、お金を取られたり、不倫相手の男性が『ババアはやっぱりキモい』とグループLINEをしていた様子を見て傷ついたり、不倫相手のマンションに監禁されてしまったり…。様々な話も聞きましたよ。

――恐ろしい…。法律や世間の目や相手のことだけでなく、自分のためにも、しないに越したことはないと感じますね…。

私はこれまで100人以上の女性に「不倫」についての取材をしてきましたが、推奨でも否定でも、どちらでもありません。不倫はそもそもできる人が限られている、一種の娯楽であり、人生の媚薬だと感じるからです。しかし、服用方法によっては毒薬になりますということはお伝えしたいなと思います。

ただ、最悪のケースが離婚と思われがちですが、離婚してよかった、結果的には子供のためになった、という場合も多くありますよ。

不倫はあくまで当人同士の問題。そこに社会的相当性を逸脱しない範囲内で楽しめば問題は発生しない。

深入りした女性は相手に情が移ってしまい、相手に依存する。すると、お互いに依存し合ったり、どちらかが逃れようとする足を引っ張ったりする、泥沼が発生します。泥沼状態になると、司法を介在しないと、解決策が見いだせなくなります。

――これからの恋愛について考えるという企画なのですが、これからの「不倫」はどうなっていくと思いますか?

高齢化です。20~30代に話を聞くと、セックスそのものに興味がある人が少ないと感じます。彼らの世代の性のファーストコンタクトが、暴力的なAVや猟奇的なアダルト動画だったりするので、セックスは暴力とセットと思われているフシがあります。恥ずかしいというより“怖い”という感情が先に立つ人もいました。

また、個人の性嗜好に対し、マンガやアニメなどのコンテンツが激増した。口臭も体臭もムダ毛もぜい肉もある生身の人間と性交渉を持つより、自己処理の方が落ち着くと語る人も増えている気がします。

それに引き換え、40代以上は昭和の牧歌的なエロ本で性に目覚めた人が大多数。生々しい肉体に体を重ねる感覚を“気持ちいい”と思う人が多いです。あとは既婚女性の中には、夫の性的な技巧が稚拙で、セックスは“つらいお勤め”と語る人が多い。その先には、優れた技巧の人と体を重ね、“新たな自分に出会いたい”という欲望があります。だから、不倫はこれから、「高齢者」が楽しむ、高度な遊びになっていくんじゃないでしょうかね。

時代とともに変わる恋愛のかたち。年齢や性別、世間の常識にとらわれず、私たちは自由になった?それとも、まだまだ変わらない?

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