韓国でベストセラーとなった書籍『反日種族主義』の日本語版が11月14日に発売。著者・李栄薫(イ・ヨンフン)氏が来日し、11月21日、日本記者クラブで会見を開いた。韓国メディアも参加し、約120名が会見の場に集まった。
今年7月に韓国国内で発売された 『反日種族主義』は、李栄薫(イ・ヨンフン)ソウル大学名誉教授ら、6人の学者による共著。発売されるや韓国国内で話題となった。
日本語版を出版した文藝春秋社によると、韓国語版は韓国国内で約10万部、日本語版は日本国内で25万部を出版したという。
一方、記者会見では、この本の問題点を指摘する質問もあがった。
李氏が本の中で主張している「慰安婦たちが官憲によって強制されたというのは深刻な誤解である」といった点や「徴用工は拒否することができた」としている点などについて、「反論するならもっと根拠が必要ではないか」との指摘だったが、李氏が明確な根拠を示しての回答をすることはなかった。
会見は、前半の約30分間で李氏からの説明。後半の約30分は質疑応答という形で進められた。
まずは李氏が、メモを見ながら日本語で、韓国で今回の書籍を出版した背景について説明した。
「『反日種族主義』は、韓国現代文明に沈潜している原始や野蛮を批判したものです。こんにち、韓国はその歴史に原因がある重病を患っています。個人、自由、競争、開放という先進的な文明要素を抑圧し、駆逐しようとする集団的、閉鎖的、規制的な共同体主義が病気の原因です。(中略)
1948年に成立した大韓民国もやはり建国70余年で大きい危機を迎えています。下手すると、この国の自由民主主義の体制は解体されるかもしれません。本『反日種族主義』は、そのような危機感から書かれました」
さらに、日本語版を出版することについての心境を以下のように語った。
「本『反日種族主義』の日本語翻訳と出版には多くの煩悶がありました。本『反日種族主義』は、韓国人の自己批判書です。自国の恥部をあえて外国語、しかも日本語で公表する必要があるかという批判を予想することは難しくありません。
それでも我々が出版に同意したのは、それが両国の自由市民の国際的連携を強化するのに役立つだろうという判断からでした。(中略)
日本人には、韓国問題ひいては朝鮮半島問題を、「親韓」あるいは「嫌韓」という感情の水準を超えて前向きに再検討できるきっかけになれると思います」
その後は、通訳を介しての質疑応答へ。
その中で李氏は、「反日種族主義」という言葉を、「日本に対する韓国の恨みの感情。私はそういう歴史的に培われてきた感情を”反日種族主義”としています」とした。
韓国では今、その反日種族主義が政治を動かしていることに、危機感を感じているという。
また、「日本の植民地支配における責任についてはどう考えているか?」という質問に対しては、「日本が韓国に対してどう罪をつぐなうか、どう清算するかについては、あえて私が述べる場ではない。この本はあくまで韓国人の自己責任と自己批判をまとめたものです」と答えた。
「どういう人たちをターゲットにした本か?」という質問に対しては、「どういった読者をターゲットにするかは考えていなかった」とした上で、以下を回答。
「韓国で一番買っているのは30代。現在の韓国の30~40代の方が、50~60代よりも強い反日教育を受けている。それにも関わらず、30代が買ってくれたということは、進みは遅いが、歴史は進歩している。日本でも、特にターゲットは考えていない」
李氏によると、韓国国内で発売した後、主にネットのレビューで一般消費者からは、賛同の声も批判の声も多数寄せられたというが、政治家や専門家からの反応は少なかったという。
李氏は会見の最後、著書の意義を語り締めくくった。
「韓国国民に対して、歴史に真剣に向き合うきっかけを与えたと考えています。歴史の見直しは世界的にある問題だと思います。日本も免れません。この本は、これまでの歴史研究の方法論を批判するという意味合いを強くもっています」
今回の会見には韓国の記者も含めた多くのメディアが参加した。日本と韓国での「歴史の解釈」への関心の高さが改めて浮き彫りになった。
一方、慰安婦問題や徴用工問題に関する具体的な質問も出たが、「非常に政治的なグループによる強い主張が歴史を塗り替えてしまったと感じています」と李氏は答えるにとどめ、エビデンスを示す回答はなかった。また、韓国に対して「原始」や「野蛮」といった言葉を繰り返し使っており、今回の会見においては、全体的には根拠を用いた説明というよりは感情的な説明をしている会見のようにも感じた。