男性が男性でいることから生まれる窮屈さや苦しみについて、女性の私が思うこと

わたしたち女性は、男性に、自分たちが辛く窮屈な思いをさせられたものと同じものを要求していないだろうか。
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d3sign via Getty Images

11月19日は国際男性デーだということを、どのぐらいの人が知っているだろう。昨年のこの日、たまたま読んでいたネット記事でこの言葉を見て覚えているのは、あるデンマークの男性が語っていた一言だった。

「これだけ女性が社会の中で虐げられているという事実(Metooから一年と少しが経った時期だった)があふれている世の中で、男性がいったい今何をその日に祝えと言うんだ。」

その時はわたしもその言葉に全くもって同意だったし、それ以上、この日の意味について考えることはなかった。

しかし今年は少し様子が違うということには気づいていた。フォローしているインスタや聞いているポッドキャストなどで、男性が男性でいることからもたらされる窮屈さ、苦しみ、悩みなどについて、目にすることが多くなったからだ。

そして、ハッシュタグ “#MANDPÅMANGEMÅDER” (男として多様であること)という言葉にもちらほら出くわす。もちろんわたしがフォローしているものが偏っているだけなのかもしれない。でも、今これだけ女性や「性」全体としての多様性が語られる中で、男性のあり方を考えることも、今とても必要なことのように感じる。

また、わたし自身も男性のパートナーともうすぐ15年の結婚記念日を迎え、そして8歳の男の子を育てている中で、このことはわたし自身の問題としても捉えたいと思うようになった。ここでは、国際男性デーについて、最近わたしの目に、耳に入ってきたものを中心に少し紹介したいと思う。

 

感情を言葉にすることの難しさ

Kvinfoは、男女平等や多様性について研究や情報を発信しているデンマークの機関だ。Kvinfoは2016年には、国際男性デーについて一切情報を発信していなかったが、今年は連日、多くの記事や調査結果などを発信している。その中のひとつが、デンマークにある男性センターが発表した、男性に関するレポートだ。“Mænd?” (男性?)と銘打ったタイトルのレポートでは、男性が男性であることによって、自身の問題に向き合うことが難しくなる場面があること、またそのために支援を求めることが難しいことなどについて述べている。

レポートでは、離婚や失業、うつ病などの精神疾患を経験した男性の様々な状況を説明し、ソーシャルワーカーや心理士、弁護士、医師等が参照することができるというものだ。

このレポートによると、デンマークでは、精神疾患で長期入院を必要とする人の4人中3人は男性であるという。男性は、感情を言葉にすることが難しく、自身の弱さをみせることに不安があるため、女性よりも一人で問題を抱えがちであり、その結果重症化することもあるのだそうだ。アルコール中毒や薬物依存などもそのような原因であることが多いという。

自殺者にも男性が多い。デンマークは年間600人ほどの自殺者がいるが、そのうち約450人は男性なのだそうだ。男性は強くなくてはならないなど、伝統的な男性としてのアイデンティティを保持していなければならないことが、自分自身の弱さを受けいれたり、オープンにすることを難しくしていると言われている。

自殺に関しては別の調査結果もある。自殺研究所の2018年の調査によると、男性たちは、男性として今よりもっと多様なありかたを求めているということ、そして、自分自身の感情を言葉にする必要性を感じているという。そして「金を稼いで、身体的にも精神的にもタフでなければならない」という伝統的な男性像が、問題を言語化して語ることを難しくしているという。

 

離婚-責任と自分の感情と

離婚や失業も男性にとっては大きな痛手になることが多い。それは伝統的な男性のアイデンティティである「家族を養う」という面で、自分は失敗したと感じるからだそうだ。

ポッドキャスターのMikkel Braginskyは数年前に離婚を経験した男性だ。彼は自身の離婚を振り返り、離婚を経験している著名な男性たちへのインタビューを通してアドバイスを求めている。その中で印象的なキーワードはやはり「感情」だ。

話の中ででてくるのは、男性たちが、家族に対しては、経済的、また父親としての責任を感じることはあったが、自分自身の感情というものには、気づくことはあっても蓋をしてきたということ、そして夫婦関係に対しても、感情と同じくきちんと向き合ってこなかったという意見があった。

あるゲストは「責任というのは、自分がどういう気分かとか、楽しいか楽しくないかとか、そういうものと並列できない。責任があるということは、自分がどうであれその責任を果たすということ。だから自分がどう感じているかということに重きを置いてこなかった」と語る。しかし、離婚をして自分の感情に向き合わざるを得なくなり、改めて、蓋をしてきた多くのことに気づいたのだという。

 

男らしさとは何か

幼い頃から双子の姉と何でも一緒にしていたというCarsten Ydingは、大人になって技術家庭科の教師になった。大工仕事もできる彼は、家庭科の授業では料理や裁縫も教える。20年前に田舎町に引越した彼は、当時、ホモセクシュアルだと噂をされたこともあったそうだ。今でも、彼は折に触れて男性らしさを周りの男性たちから求められていると語る。

そして「周りの人が、あるいは規範が、ぼくが何ができて、何をするかしないかを制限してほしくないという思いはある」と語っている。

コメディアンのMads Holmは、うつ病を経験したことについて自分のショーで明らかにしているが、それに加えて彼は長い間性体験がなかったことも公開している。うつ病の経験については多くの人々からポジティブに受け止められた一方、性体験がなかったことについては、多くの男性から疑問視されたという。

「多くの男性にとって、セックスはステータスシンボルだし、男として成功するためには必要なものだと考えられているのかもしれない」と語る。そして、彼が性体験がなかったことが、男性として劣っていると感じる男性も多いのではないかという。

 

だれの問題かということ

近年、女性たちが「女性であること」に縛られない生き方を求める動きがあちこちで起こっている。これは世界的な動きだ。女性たちは少しずつ、自分が自分らしくいることを、社会の中で勝ち取り始めている。

その一方で、男性はどうだろう。新しい男性像というものはあまりまだ語られていない気がする。典型的、伝統的な男性像はまだしっかり残っているし、そこから外れた人々は少数派だったり、レールからはみ出たなどの表現で語られることもある。

でも男性ももっと多様でいてはいけないのだろうか。典型的な男性像に当てはまらないことが、何かが欠けていることではないはずだ。そのことを女性たちはよくわかっているはず。わたしたち女性は、男性に、自分たちが辛く窮屈な思いをさせられたものと同じものを要求していないだろうか。

男性たちは、女性が自由になることを、自分たち自身が解放されていくことと重ねて考えてみてはどうだろう。性のあり方にとらわれないことは、女性だけの問題ではない。男性にとっても、それは、自分自身に向き合って、自由に、そして生きやすくなることにつながるはずだ。そしてそれは、わたしたち女性も一緒に考えていくべきことではないかと思う。

(2019年11月18日のnote掲載記事「国際男性デーを知っていますか?」より転載)