超党派でLGBTの課題について考える「LGBT議員連盟」の総会が18日、参議院議員会館で開催された。
戸籍上の性別を変更できる「性同一性障害特例法」をめぐって、未婚であることや手術を必要とするなどの「要件」の見直しや、今年5月末に成立した「パワハラ関連法」で「SOGIハラ」や「アウティング」の防止を企業に求める「指針」の審議内容について議論が交わされた。
戸籍上の性別を変更するための「5つの要件」
日本では、2003年に成立した性同一性障害特例法によって、現在は以下の5つの要件を満たせば戸籍上の性別を変更することができる。
1. 年齢要件:20歳以上であること(成年年齢の引き下げに伴い、2022年4月1日から18歳以上に)
2. 非婚要件:現に婚姻をしていないこと
3. 子なし要件:現に未成年の子がいないこと
4.手術要件(生殖不能要件):生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
5. 外観要件:その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること
しかし、トランスジェンダーの当事者の中には、性別適合手術を望む人もそうでない人もいる。諸外国では手術要件等の撤廃の動きが進んでおり、さらに、WHOの国際疾病分類改訂版「ICD-11」でも、「性同一性障害」は削除され、新たに「性別不合」という項目が新設されるなど、医療へのアクセスを担保しつつ、「精神疾患」ではないとする流れも進んできている。
トランスジェンダー当事者の願い
総会では、当事者の立場から2名のトランスジェンダーがそれぞれの現状や要件緩和を願う気持ちについて語った。
女性として生まれ、現在は男性として生活しているトランスジェンダー男性のAさんは、男性ホルモンを投与しているが、性別適合手術をしていないため、戸籍上の性別は女性のままだ。そのため、「病院や選挙、行政窓口などで何度も性別を確認され、辛い思いをしている」という。
「明日は私の友人の29歳の誕生日です。彼も、私と同じく女性として生まれ、男性として生きるトランスジェンダー男性です。しかし、彼は数年前に20代前半という若さで睡眠薬を多量服薬し、亡くなりました」
亡くなった友人は、10代の頃から性別適合手術のための費用を貯めるため、心身をすり減らしながら夜バイトをしていた。その結果、精神疾患を患ってしまったという。
「戸籍を変更するために何度も手術を繰り返し、やっと男性の戸籍を手に入れた矢先に死にました。もし性別適合手術をせずとも望む戸籍上の性別を得ることができたらと無念でなりません」と語った。
続いて登壇したBさんは、男性として生まれ、現在は女性として生活しているトランスジェンダー女性。しかし、職場では男性として働いているという。
「職場では、(周囲は)私が当事者であることはなんとなくわかっていると思いますが、差別的な反応をしてくる同僚もいます」と話す。
以前、海外の空港でパスポートの性別欄と見た目の性別の違いから、出入国審査で長時間止め置かれてしまった。
「性別欄がない日本の運転免許証を出してなんとか日本に帰ってくることができました」
手術を受けて、戸籍の性別を変えれば解決できると思うかもしれないが、「そう簡単にはかない」とBさんは話す。
「性別適合手術は少なくとも約1ヶ月の休暇、トランスジェンダー女性の場合、基本的な手術だけでも150〜300万円の費用が必要です」
「手術のリスクもあり、仕事を辞めざるを得ない場合もあります。(年齢的にも)今の私は手術に踏み切ることができません。私のような余分な苦労や回り道をしなくて良いように、これからの若いトランスジェンダーの後輩たちには、スムーズに戸籍の性別が変更できるようにしてほしいと切に願っています」
要件見直しの際の「論点」を整理
総会では、衆議院法制局から、性同一性障害特例法の5つの要件が設けられた理由や、見直す場合の論点について示された。
まず、「年齢要件」については、「本人に慎重に判断させる必要があること」や「日本精神神経学会ガイドライン(第2版)」が、性器に関する手術の対象を「20歳以上」としていたことなどからこの要件が設けられたという。なお、2017年にガイドラインは一部改訂(第4版改)され、対象を「成年に達していること」に修正された。見直しについては、「性別変更の意思決定にふさわしい年齢」をどう考えるか、「日本精神神経学会ガイドライン」との整合性が論点になると語った。
つぎに「非婚要件」。これは、すでに婚姻をしている当事者が性別を変更した場合には「同性婚」状態となってしまうために設けられた要件だという。見直しについても、同じく「同性婚」についての議論が必要となると示された。
「子なし要件」は、「親子関係等の家族秩序の混乱」や、「子の福祉に影響を及ぼしかねない」という議論に配慮して設けられたという。見直しの論点としては、親の見た目の性別が変わることによる「当事者の子どもに対して与える影響」などが挙げられた。
また、「手術要件」については、例えば女性として生まれた人が、性別適合手術を受けずに戸籍上の性別を男性に変更し、男性として子を出産した場合、社会的な「混乱」が生じかねない等の理由から設けられたという。
この要件については、平成31年の最高裁判決で「憲法違反ではない」とされるも、2人の裁判官により「憲法13条に違反する疑いが生じていることは否定できない」という補足意見が出されている。
見直しに際しては、法務省の担当者によると「生殖機能を持つトランスジェンダー男性が子どもを出産した場合に、民法上『男性である母』等の表記となるのか、民法その他の法令との整合性の検討が必要」と示された。
最後に「外観要件」については、「例えば公衆浴場などで問題が生じる等、社会生活上混乱を生じる可能性があることが考慮された」ために設けられたという。見直しの論点としては、「外観要件を撤廃しても良いという社会的な認識の変化があるかどうか」ではないかと話す。
「要件緩和」へ動く、諸外国の動き
特に手術要件に関して、LGBT議連の会長である馳浩衆議院議員は、「撤廃できるものかは分からないが、(撤廃した場合に)当事者がわざわざ社会を混乱をさせることを自らするのかというのは疑問に思う」とし、実際に手術要件を撤廃した国で混乱が起きているのかを国会図書館の担当者に質問した。回答としては「混乱を述べた論文や報道は見当たらない」というものだった。
では、諸外国の法律における性別変更の要件はどのようになっているか。
「国会図書館」の担当者の報告によると、「日本の『性同一性障害特例法』ができた2003年時点では、諸外国の法律も日本の特例法と同様の要件を規定しているものが多かった」という。
しかし、2000年代半ばから要件の緩和の動きが進み、例えばTGEU(トランスジェンダーヨーロッパ)が実施した欧州49カ国の調査によると、手術要件がない国は28カ国にのぼったという(2019年5月時点)。スウェーデンやドイツ、オランダでも2011年〜2013年の間に手術要件を撤廃している。
2000年代は同性婚を法制化する国が増えたこともあり、非婚要件の撤廃も増加。「外観要件」も、ドイツは2011年、オランダは2013年に廃止。ニュージーランドやイギリスでは、医学的な「治療」を受けたことと明記しており、「外科的手術」ではなく単に「治療」という言葉を使っていることに注目できるという。
「さらに、2010年代から『診断書』の提出も不要とする『手続きの緩和』も進み始めています」と担当者は話す。
WHOの国際疾病分類で「性別不合」に
そもそも「性同一性障害」という概念自体の捉え方も、国際的には変わってきている。特に今年5月に採択されたWHOの国際疾病分類改訂版「ICD-11」で、以前までは「精神障害」のカテゴリーに含まれていた「性同一性障害」が削除され、新設された「性と健康に関する状態」というカテゴリーに「性別不合」という項目が作られたことに対して、厚生労働省の担当者が国内の規定の調整について報告した。
担当者によると、2018年8月にICD部会を立ち上げ検討をスタート。12月には専門委員会を設立し、ICD-11の和訳方針や国内適用に関する論点を整理してきたという。
今年5月にWHOの総会でICD-11が採択され、厚生労働省内の審議や手続きを進めている。
統計にかかる部分が総務省とも関わるが「2022年をめやすに総務省と調整しながら取り組みを進めていきたい」と話した。
SOGIハラ・アウティング防止指針
今年5月末に成立した「パワハラ関連法」の附帯決議で、性的指向や性自認に関するハラスメントである「SOGIハラ」や、本人の性的指向や性自認について同意なく第三者に暴露する「アウティング」の防止を企業に求める方向が決議。現在審議されている「指針」の内容についても議論が交わされた。
LGBT法連合会の神谷事務局長によると、「この指針のままでは、SOGIハラに関する記載が『例示の中の、そのまた例示』となっており、企業に伝わらない」懸念があるという。
さらにSOGIハラの行為者が「相手」を認識していなければ、この指針の示すハラスメントには該当しないことになってしまう。つまり、飲み会でのホモネタなどについては「相手を認識している発言」ではないため、例えその場にカミングアウトしていない当事者がいたとしても、SOGIハラには当たらないことになってしまうのだ。
「当事者のカミングアウト割合は低い現状があります。例え当事者がカミングアウトしていなくても、侮辱的な発言はダメだということを示す制度にしてほしいと思います」
また、「アウティング」についても、10月半ばに公表された厚労省の指針素案によると、アウティング対策は「重要である」とされている。国会の附帯決議では「講ずること」と義務として規定されているにも関わらず、指針素案では格下げの状態になってしまっているのだ。
「セクハラ指針ではセクハラ防止が『義務』と規定されているにも関わらず、施行10年で実施率はたった10〜30%代です。これが『義務』ではなく『重要』という位置付けになってしまうと、(アウティング防止対策の)実施率はさらに10%以下になってしまうかもしれません」と神谷事務局長は話す。
これに対して、LGBT議連会長の馳衆議院議員は「(LGBTは)カミングアウトしている人はごく少数であることは想像すればすぐわかるでしょう。そのことを想定して(指針の)書き振りや文章を配慮すべき」とし、国会の附帯決議を守るよう「強く求めたい」と語るなど、厚労省の指針素案を鋭く指摘した。
「指針の内容は最終決定ではないと思うので、改めてLGBT議連としても厳しくチェックします」と語気を強めた。
最後に馳衆議院議員は「今後も継続的に、できれば月1回程度、こうした勉強会を行っていきたい」と話した。
(2019年11月19日fairより転載)