「あらゆるハラスメントをなくそう」ハラスメント問題に取り組む16人が提言

2019年5月に成立したパワハラ関連法の「指針」をどれだけ「実効性」のあるものにできるか。
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今年5月、日本で初めてパワーハラスメント対策を企業に求める法律が成立した。さらに6月には、ILO(国際労働機関)で職場の暴力やハラスメントを禁止する条約が採択された。

MeTooムーブメントをはじめ、国際的にもハラスメントをなくす動きが活発化してきているが、残念ながら日本はILO条約を批准するにはまだまだ足りていない要素が多いと言われている。

LGBTに関しては、パワハラ関連法案の国会審議で、性的指向・性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)がパワハラに該当しうるとされ、指針に「SOGIハラ」や「アウティング」の対策も企業に求められる義務として明記される方向だが、具体的な内容は現在厚労省の審議会で議論されている内容次第だ。

指針では、SOGIハラやアウティングの他にも、フリーランスや就活中の学生、教育実習生に対するハラスメントの対策についても議論されている。

しかし、ILO条約を批准できるレベルにするには、本来法律でハラスメントを禁止する規定や、対象者の拡大、被害者救済の拡充、被害者支援などに取り組む必要がある。

その足がかりとして、現在議論されているパワハラ関連法の「指針」がどれだけ「実効性」のあるものになるかに注目が集まっている。

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パワハラやセクハラ、マタハラ、モラハラ、カスタマーハラスメント、障害者や外国人、女性、フリーランスや芸能人、LGBTなど、さまざまなハラスメント問題の解決に取り組む団体や個人が集まり、「真のポジティブアクション法の実現を目指すネットワーク」(ポジネット)の主催で、9月30日、集会「ILO基準のハラスメント指針を!~あらゆるハラスメントを防止できる実効的な指針を目指して」が都内で行われた。

登壇した16人は、少しでもILO条約に近づける「指針」の策定を求めて提言を行なった。

労働組合「たくさんの声があることを共有し、審議会へ届ける」

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井上久美枝さん(「連合」総合男女・雇用平等局長)
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労働組合の中央組織である「連合」の井上久美枝さんは、「指針」を審議する委員の一人でもある。パワハラ関連法に関する省令・指針に対しての連合の考え方をまとめた資料を紹介した。

「パワーハラスメントについて厚労省は6つの行為類型をまとめていますが、これ以外は問題ないわけではありません。指針では、防止措置の具体的な内容や雇用管理上の配慮、望ましい取り組みなどを明記する必要があります。

使用者(経営者)側には『なんでもかんでも書かれたら困る』と言われてしまいますが、衆議院や参議院の厚生労働委員会で付いた附帯決議は、全会一致で決議されたものです。ここは大きく言いたいと思います。たくさんの団体、たくさんの声があるということを共有し、審議会でできる限り頑張っていきたいと思います」

カスタマーハラスメント「働いている人にも大切な人生がある」

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安藤賢太さん(UAゼンセン流通部門執行委員)
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カスタマーハラスメント問題に取り組む産業別労働組合「UAゼンセン」の安藤さんによると、悪質クレームに対するアンケート調査を行ったところ、5万件もの回答が集まったという。そのうち約7割が消費者からのハラスメントに遭ったと回答しており、その約9割はストレスを感じていた。約4割の人はただ謝り続けるしか対応できなかったと回答している。

「1%の人は精神疾患を抱えてしまっていました。おそらく実態はもっと多いでしょう。クレームは本来サービス向上の資源でしたが、消費者であれば労働者に何を言っても良いという風潮になってしまっています。働いている人の裏には、家族がいたり、大切な人生があるということが伝わって欲しい」

こうしたカスタマーハラスメント問題を啓発するために、啓発動画を公開している。

企業が対応するハラスメントの範囲「裁判例を参考にするのはそもそも間違い」

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棗一郎さん(日本労働弁護団幹事長)
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労働者の権利のための弁護士組織である日本労働弁護団の棗さんは、今回のパワハラ関連法の附帯決議で「あらゆるハラスメントに対応できるよう検討」と、対象はパワハラだけでないという点に言及。

「指針を議論する審議会では、厚労省事務局が裁判例を大量に挙げて、その判断基準でハラスメントにあたる/あたらないを決めるという話が出ていましたが、そもそも発想を間違えています。民事裁判は違法性が非常に高い 、相当ひどい行為しか損害賠償の対象にならず、これを基準にしたら企業の予防・対応義務を設定する意味がなくなります」と指摘した。

パワーハラスメントの定義が「優越的な関係を背景とした」とされていることについては「優越的であろうとなかろうとハラスメントです」と説明。定義の二つめの要素の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」については、「限定的に解するべきではなく、業務またはそれに付随する、関連する行為と広くとらえるべき」と話した。

同じく定義には「就業環境が害される」ことと書いてある。ここについては「附帯決議に示されている、パワハラの判断は『労働者の主観にも配慮する』という部分が重要です。人格的な自由、行動・考え方の自由を侵害する幅広い行為は職場環境を害するのでハラスメントだと広い概念としてとっていくべき」

最後に「ILO条約を批准し、それに匹敵する『ハラスメント基本防止法』をつくるべき」と話した。

メンタルヘルス「積極的にパワハラの実態調査を」

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天野理さん(全国安全センターメンタルヘルス・ハラスメント対策局、NPO法人東京労働安全衛生センター事務局)
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メンタルヘルスに関する問題に取り組む天野さんは、「労働安全衛生の観点から見ると、そもそもハラスメントの訴えを会社が待っている状態ではダメです。積極的にパワハラについて実態調査を行い、職場にどういうリスクがあるのか、組織的な問題をあぶり出す必要があります。

問題が発生したときに『これはハラスメントに当たるのか』という議論が起きますが、厚労省にはすでに多様なハラスメント事例が寄せられ100件以上の労災認定された事案がある。判例よりこちらを参考にする方が実態に即しているでしょう」

モラルハラスメント「中立的で実効性のある相談チームを」

職場のモラル・ハラスメントなくす会スタッフの細見香織さんは、モラルハラスメントで会社を訴えた訴訟の原告でもあったという。現在は当時の和解金をもとにモラハラに苦しみながらも泣き寝入りしなければならない人に向けて相談活動をしている。

「相談者はそもそも自分の事例がハラスメントなのかわからない、相談すること自体が怖いと思っています。さらに、会社の中のコンプライアンス委員は実際使えない。中立的で実効性のある相談チームが必要です。

また、本来は『パワーハラスメント』という和製英語ではなく『職場のハラスメント』でよいのではと思います。ハラスメントは構造的な問題で、労働者にとっても企業にとっても良い影響はありません」

就活ハラスメント「就活生守るためのルールを」

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片山玲文さん(株式会社キュカ プロデューサー)
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バッシングが来ないしくみを導入したオンラインの相談コミュニティ「QCCCA(キュカ)」を運営している片山さんは、就活ハラスメントの実態について報告。

「寄せられている事例では、就活中に恋人の有無、結婚や出産の予定、性体験について聞かれるといったものがあります。面接官ではない男性から食事に誘われ、入社後も3年もセクハラに遭い続けるといった事例や、『スカートをはかない女は男と一緒だ』と言われた、目の前で履歴書をまるめて捨てられたといった事例もあります。

こうした就職活動中の人を守るためのルールがありません。現在、Change.orgで『#就活ハラスメントをなくしてください!』と署名キャンペーンを行なっておりすでに11,000を超える署名が集まっています」

就活セクハラ「労働局で相談できると周知を」

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竹下郁子さん(BUSINESS INSIDER JAPAN記者)
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同じく就活セクハラの問題を取材する竹下さんは「私たちが行なったアンケートでは約半数の方が就活セクハラを経験していました」と話す。

シチュエーションとしては、OB訪問が半数近くで、その次に面接中、インターン中と続くという。

「最近は就活セクハラも社会問題として認識されるようになり、企業によってはOB訪問では飲酒禁止、平日の日中に会社の会議室で、などルールを定めたところも出てきています。しかし、アンケートの回答を見ると7割以上が『誰にも相談したことがない』と回答しており、大学にも相談できず、そもそも労働局総合労働相談コーナーで就活生の相談を受け付けていることが全く知られていません。大学からも学生に対して周知すべきです」

フリーランス「ハラスメントの無法地帯。 措置義務の対象化と禁止の明記を」

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杉村和美さん(日本マスコミ文化情報会議フリーランス連絡会)、平田麻莉さん(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事)
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フリーランスへのハラスメント問題に取り組む杉村さんと平田さんは、「最近実施したアンケート調査では、典型的なものとしてパワハラやセクハラが確認され、SOGIハラも含まれていました。被害後に眠れなくなった、仕事を休んだ・辞めたという人もいて、フリーランスにとって仕事をやめるということは収入がなくなることです。ハラスメントの被害内容は、経済的な嫌がらせが上位にきます。

就活セクハラと同じくフリーランスへのハラスメントも無法地帯で相談窓口がありません。フリーランスへのハラスメントも措置義務の対象として加えて欲しいと思いますし、具体的な例をあげて『禁止する』という文言を入れてほしいと思います」

芸能人「契約書がなくハラスメント見えづらい」

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森崎めぐみさん(日本俳優連合国際事業部長)
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芸能関係者へのハラスメント問題に取り組む森崎さんは「日本の俳優や芸能関係者の多くはフリーランスです。一番古くから議論されているのはセクハラですが、例えば海外では、多くの国で『ホテルの部屋に呼んではいけない』という具体的な規定があります。個室がハラスメントの温床になっているからです。

日本の芸能界は契約書がほとんどないこともあり、 外からハラスメントが見えづらく、横の繋がりも薄いので声をあげにくい状況です」

LGBT「SOGIハラ・アウティングの定義と例示を」

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神谷悠一さん(LGBT法連合会事務局長)
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性的指向や性自認によるハラスメント「SOGIハラ」に取り組む神谷さんは、「国会の附帯決議に『SOGIハラ』と『アウティング』が企業のパワハラの対応義務の対象になるということが入ったことは、初の法制化という意味で大きな一歩です。

例えば『あの人オカマなんじゃない』とか『履歴書と性別が違うから強制的にカミングアウトさせる』など様々な事例がありますが、SOGIハラというのは『LGBTへのハラスメント』ではありません。例えば、小学校のいじめでも『ホモ』と言われるのはLGBTの児童生徒だけでなく、典型的に見えない人もセクシュアリティを問わず、そう言われています。つまりSOGIハラは、全ての人が受けうる行為なのです。

また、アウティングは「あそこの支社長ホモなんだって、気持ち悪いよな」というような「悪意」からくるものと、「あの子はトランスだから守ってやってくれ」と人事に伝えるなどする「善意」からくるもの、両方があります。附帯決議には「アウティングを念頭に置いたプライバシー保護を講ずること」と入りましたが、すでにセクハラ指針にあるプライバシー保護とは別に、性的指向や性自認を誰にどこまで共有して良いのか、都度本人に確認が必要である旨など、この課題に対応した措置内容を指針に明記すべきです。

そして指針の策定に当たっては、何が『SOGIハラ』や『アウティング』なのかという定義や例示を入れていただきたいと思います。就業規則への明記など、義務となるそれぞれの措置を講じていると認められる例示に、SOGIハラ、アウティングの例示を、パンフレットではなく、法的根拠のある指針に書き込むべきです。取り組むべきことがはっきりわかった方が、企業も取り組みやすいのではないでしょうか」

障害者「障害と女性という複合的な被害がある」

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佐々木貞子さん(DPI日本会議常任委員、DPI女性障害者ネットワーク副代表)
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障害者の問題に取り組む佐々木さんは、「これまで障害者差別解消法や障害者雇用促進法など差別の解消に向けて進んできましたが、まだまだ障害によるハラスメントは数多く確認されています。

面接で『うちは本当は障害者はいらない、男性で見た目でわからない障害ならまだいいんだけど』と言われたというように、障害者であること、そして女性であることという複合的な作用によって様々な被害を被っている例もあります。

(パワハラの定義の)『優越的な立場』に関しては、『マイノリティである障害のある人に対してマジョリティは常に優越的な立場にある』と明記して欲しい」

パンプス・ヒール強制「性差別やジェンダーハラスメントにあたるため禁止と明記を」

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石川優実さん(#KuToo発信者)
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パンプス・ヒール強制についての問題に取り組む石川さんは「先日、厚生労働大臣宛に要望書を提出しました。

第1希望としては、女性のみにパンプスやヒールの着用を強制するのは、性差別やジェンダーハラスメントにあたるので禁止すると明記してほしいということ。それが難しければ第2希望として、均等法のセクハラの対象に入れて事業主を指導して欲しい。それも難しければ第3として今回のパワーハラスメントに入れて欲しい。第4希望は、安全配慮義務にのっとり、安全でないヒールやパンプスの着用を労働者に命じることは禁止すると通達を出してほしいと伝えました。

例えば、航空会社はおもてなしのひとつとして女性にのみパンプスやヒールを強制しており、女性の安全よりおもてなしの方が優先されています。パンプスやヒールによって就活自体を諦めたり怪我をする人もいる。ハラスメントに当たるとしてしっかり規制してほしいです」

外国人「レイシャルハラスメントは新しくて古いこと」

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鳥井一平さん(NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事)
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外国人労働者に対するハラスメントについて、鳥井さんは「レイシャルハラスメントは『新しくて古いこと』、ずっとこの社会が持っていることです」と指摘。

「職場のちょっとした雑談や居酒屋での会話を聞いて傷ついている当事者がいます。さらに最近は嫌韓報道によってさらに恐怖を与えている。外国人技能実習制度についても、日本人相手であればやらないであろうことが平然と行なわれてしまっています。

例えば肌の色や髪の形状が違うことによる差別や、「名前がめんどくさい」などと言われるハラスメント、妊娠したら帰国しなければならないと契約させられた事例もあります。職場で中国語を話すなと言われ窓口に相談したら二次被害に遭いうつ病になってしまったという例もあります」

他にも、日本人従業員から連日「死ね、国へ帰れ」など暴言を浴びせられたという例や、職場のトイレが日本人用と中国人用に分けられていたという事例もあったという。

「これらは外国人労働者の問題ではなく、日本社会の人権を表している問題です。レイシャルというと『それは人種差別では』と指摘されますが、人種差別”化”しているハラスメントと言ってもいいでしょう。今回の指針の中で具体的に例をあげて対策してほしいと思います」

国際人権NGO「すべてのハラスメント禁止を」

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土井香苗さん(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表)
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国際人権NGOの立場から、Human Rights Watchの土井さんは「日本は人権に関する法整備が根本的に遅れています。女性や障害者などいくつか法律はありますが、他のさまざまなマイノリティに関する差別やハラスメントの禁止法がなく、世界的に見て残念な状況と言わざるを得ません。

10年ほど前の調査ですが、OECD諸国で反人種差別法の有無を調べたものでは、23ヶ国中、労働市場における人種差別禁止法があるのは19ヶ国、ない国が4ヶ国で日本は残念ながら「ない」方です。
SOGIに関しても、世界で雇用領域に関しては73ヶ国も差別を禁止する制度があるのに日本にはありません。

まずは、今回の指針の中に『すべてのハラスメントが禁止』ということを明記できればと期待します」

セクハラ「被害者の迎合的言動があってもセクハラ。指針に明記を」

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佐藤かおりさん(パープル・ユニオン執行委員長)
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セクハラや性暴力に関する問題に取り組む佐藤さんは「セクハラについては行為があったことに争いがなくても、『コミュニケーションのつもりだった』『合意があった』などと言われたりして、セクハラと認めてもらえないケースがたくさんあり、一筋縄ではいきませんでした。また、被害者の多くは退職を余儀なくされています。

今回の指針においてはセクハラ対策を強化するにあたり、前提としてセクハラに対する思い込みや偏見、無理解をなくしていかなければならないと思います。

2011年度に厚労省に設置された『精神障害の労災認定の基準に関する専門調査会』の『セクシュアルハラスメント事案に係る分科会』の報告書では、『被害者は、勤務を継続したいとか、行為者からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、行為者の誘いを受け入れることがある。このため、これらの事実から被害者の同意があったと安易に判断するべきではないこと』と明確に書かれています。そして、この年の年末には、労災の認定基準の通達にもその旨が書き込まれました。

こうしたことを通じて、セクハラによる精神障害の労災認定は増えてきています。これをセクハラ指針にも明記し、セクハラに対する無理解をなくしてほしい。

また、セクハラ被害で精神障害を負うと労災の対象になるということが全然知られていないので、これもしっかり明記する必要があります。被害者の多くは(加害者に対して)セクハラを認めて二度と起こしてほしくないと思っています。セクハラの禁止を明記して、被害者が救済される仕組みをつくるべきです」

マタニティハラスメント「育児や介護それ自体に関するハラスメントも措置義務の対象に」

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圷由美子さん(弁護士) lgbt
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妊娠・出産・育児関連のハラスメント(いわゆるマタニティハラスメント)に取り組む圷さんは、育休取得後に正社員としての復職を会社に拒まれ、非正規社員にされ、そして雇い止めをされたという事件を担当している。

「育児介護休業法に、不利益取扱いの禁止やハラスメントの企業の対応義務は書かれていますが、育児休業等の育児に関する『制度の利用』に関するものでないと、法違反や対象にならないという大きな欠陥があります。これを改正して、『育児そのもの』を理由とする、子を持っていることを理由とする不利益取扱いの禁止やハラスメントの対応義務を立法化すべきだと思います。介護についても同じです。

これまで企業では時間・場所を問わずに働ける男性モデルを標準とし、これを一人前として、子を持つことや介護のために休んだり短時間労働をすることは『半人前』『ずるい』と言われてきました。いわゆるマタハラとは、こうした企業における”典型的でない”働き方に対するハラスメントなのです」

プロフィール
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。政策や法整備を中心としたLGBTに関する情報発信やキャンペーンを行っている。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」発起人。

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

(2019年10月3日fairより転載)