水溜りボンド「YouTubeを文化にしたい。マンガもテレビも最初は『見たらバカになる』だったけど…」

2019年7月、チャンネル登録者数が400万人を突破。自ら「夢の先にいるような感じ」と表現する彼らは、いかにしてその場所にたどり着いたのだろうか。
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UUUM所属のYouTuberコンビ「水溜りボンド」。2019年7月、チャンネル登録者数400万人を突破した。左がカンタ、右がトミー
加藤 康

「山頂まで登らないと見えない景色がある。400万人を達成したから見える景色というのが確かにあって。今は夢の先にいるような感じです。すごく幸せな話なんですけど」(トミー)   

400万人の視聴者数を誇る、弱冠25歳のトップYouTuberの言葉だ。

UUUM所属の大人気YouTuberコンビ「水溜りボンド」のチャンネルが、2019年7月、登録者数400万人を突破した。

「夢の先にいる」令和時代のクリエイターは、何を考え、どのように行動し、その頂上に登りつめたのだろうか。

コンテンツづくりの裏側やメディアとの向き合い方、マーケティング戦略などについて話を聞いた。

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カンタ(左)はチャンネルで主に企画・動画編集を担当、トミー(右)は動画に出演しながらイベントのプロデュースやドッキリ企画を行う
加藤 康

2人組YouTuber「水溜りボンド」は、チャンネルで企画・動画編集を主に担当するカンタと、大掛かりな動画企画やイベントのプロデュースを担当するトミーからなる。

毎日何か変なことを思いつく生粋の企画屋と、GUCCIに身を包んだ一見不良なツッコミマシーン。

そんな2人に実際に会ってみたら、画面を通さず見る二人にあったのは、動画内で見せる子どものような表情やかけあいではなく、クリエイター、マーケッターとしての矜持と、それと同時に共存する謙虚さだった。

人気とともに「できること」も増えるスタンスでここまでこれた(トミー)

━━チャンネル登録者数400万人突破、おめでとうございます。0から400万人までファンを増やしてこられた今、改めて「ご自身で思う」お2人の強みを聞かせてください。

カンタ:毎日投稿を続けてきたのが良かったなと思います。

毎日の投稿は、僕らの日々の記録みたいな要素があるんです。トップYouTuberのみなさんの動画に共通して言えますが、(登録者数が)0だった過去から、400万人になった現在が繋がっていて、そのプロセスをリアルに感じてもらえるのは強みだと思います。

芸能人だと400万人のファンを持つスターが突如現れる、というイメージなのに対して、YouTuberは、あくまで視聴者と同じ一般人からスタートしているイメージ。「みんな、初めは一緒じゃね?」みたいな。だからこそ、その中で結果的に僕らがここまでこれたのは“みんなのおかげ”っていう言葉の重みがあると思います。

トミー:僕らのスタイルの特徴というか、 幸せな部分というのは、これほど多くの方に見ていただけるようになっても、最初と変わることなくコンテンツがつくれていること。むしろいいところや、できることを増やしていけてる実感があります。

YouTubeをはじめネット上で活動する人の多くは、最初に目立とう、再生数を稼ごうと、ちょっと過激なことをしたりします。でも、それをやってしまうと、限界が早くくる。僕らはそういうやり方はしていません。

僕らの場合は、最初から、ドッキリシリーズにしろ、都市伝説シリーズにしろ、(登録者数が)400万人だろうが1000万人になろうが、「できなくなること」がないような性質のものでした。

逆に数字が大きくなって、応援の力が大きくなることで、「できること」が増えるというようなスタンスでここまでこれたので、変化が必要な時にはポジティブな変化を生んでこられたんだと思います。

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人気YouTuber水溜りボンドの企画の要、カンタ
加藤 康

面白いことを思いつく以外に、再生数を増やす方法はない(カンタ)

━━決して過激なネタに走らず、等身大で、やりたいことをやる“身近感”が、水溜りボンド結成当初のコンセプトのように思いますが、それは今も変わりませんか。 

カンタ:コンセプトやスタンスは、ずっと変わらないですね。なんなら観てくださってる人たちの方が成長してて、僕らは同じ感覚のままやり続けている、という感覚です。

トミー:僕らは“身近”というよりは、嘘がつけないんです。芸においてのマーケティングができない。僕らのチャンネルにおいて、そこは素直にやるべき、と考えています。

水溜りボンドの主な視聴者層は、18~24歳、次いで25歳~34歳の層です。小中学生はあえてターゲットにしていません。なぜなら、僕らが小学生を笑わせることってできないと思うんですよね。

僕たちは、こうして取材してくださる方々や、同年代に対して、フラットにウケることしかできない。そこは器用じゃないというか。だから、プレイヤーの自分が不器用な分、一歩引いた時のプロデューサーとしての自分が器用であるべきだと思っています。

━━同年代にウケるために、こだわっているテーマやコンテンツはありますか?

トミー:僕ら自身が小中学校の時に夢見たことを、実現することです。例えば僕ら世代の男の子だったら、みんな一度は「無人島行ってみてえ」と思っているはず。

僕らが過去に無人島企画をやったとき、小学生に刺さっていたかはよくわからないんですけど、同世代の社会人の男の人に通勤電車で観てもらう自信はあります。仕事で無人島行けないあなたの代わりに僕らが行って、それを10分にまとめたら、10分で夢の無人島体験ができる。

YouTuberという“電車で隣に座っていてもおかしくないやつ”がやる無人島企画なので、自分を投影しながら観てもらえる、そこがテレビと違うところだと思います。

 

━━スライムをラケットで打ってみたらどうなるのか? 相方が猿になっていたらどうするか? 水溜りボンドのコンテンツは、「誰も傷つけない笑い」とよく言われます。動画を作るうえで守っている自分たちのルールはありますか? 

カンタ:誰かを傷つけるとか、不快に思われるようなことはしないよう気を付けていますね。そういうコンテンツって、やろうと思えばいくらでもできるじゃないですか。でも、それをやった瞬間にたどり着けなくなる場所がある。「一生、観ない」って思われてしまうとか。まっすぐにずっとやってきたからこそ、行ける場所がある、と思っています。

再生数を稼ぐための過激なことや下ネタって、使えば安心できる“麻薬”みたいなもの。それを使ったら、後でどんどんつけが回ってくると思います。

面白いことを思いつく以外に、再生数を増やす方法はない。

逆に言ったら、きついときこそ挑戦したほうが、面白いじゃないですか。「これで誤魔化しておこう」って数字稼ぎを始めたら、すぐバレちゃうのがYouTube。ここは、観たい人が自主的に集まる場所だから。やっぱり400万人とかになってくると、バレます。

僕らは“真ん中の人”として残っていきたい(トミー)

━━人気が出れば出るほど、ターゲットを分析し、「求められているもの」を軸にコンテンツをつくる人もいます。そうした中で、「自分たちのやりたいこと」を軸にコンテンツをつくり続けているお2人がトップクラスにいることが印象的です。 

カンタ:視聴者が400万人規模になってくると、みんなが求めるものってなんとなくわかるので、毎日100万回再生とろうと思えばとれると思うんです。

一方で、「みんなが求めているからやる」を続けていると、後が辛くなるのも事実で。求められていると思うものをやり続けて、急に「そういうのあんまり観たくない」って言われたら、どこに向けて走ったらいいかわからなくなるじゃないですか。

そういう意味で、「水溜りボンドってこうだよね、だから面白いんだよね」と言われる“水溜りボンドらしい”企画を1つ1つ積み上げていきたいと思っています。

トミー:自分たちが再生数から逆算して企画を作ったとしたら、視聴者数は一時的には増えると思いますが、それぞれの視聴者の方が求めているものの一貫性はなくなってくるでしょうね。結果的に、どこに向けて発信したらいいかわからなくなる。

逆に言うと、自分たちがやりたいことに対して集まった視聴者に対しては、一貫性を持った発信になるから、数字がとれたことを確信した後は、それをやり続けるだけなのかなと。

やりたいことで数字がとれるかって、本当は怖い。ずっと怖いですよ。でも、やりたいことをやり続けて、再生数が下がってそのまま終わるんだったら、そこまでだったな、と思います。視聴数稼ぎをするようであれば、ど真ん中の笑いを正面から届ける人=“真ん中の人”としては残れないので。やっぱり僕らは“真ん中の人”として残っていきたいんです。

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「水溜りボンド」ブランドとイベントをプロデュースするトミー
加藤 康

「僕ら新進気鋭の存在なので」って胡坐をかいたら、一瞬で終わる(トミー)

━━400万人もの視聴者を抱える水溜りボンドは、もはや1つのメディアと言えます。YouTuberの注目度や市場価値がどんどん上がる中、例えば、テレビからレギュラー番組出演の声がかかったら、お2人は受けますか?

トミー:「自分たちがやりたいことができるかどうか」で判断します。

僕たちは、常に「やりたいことをやる」というコンセプトでやってきているので、「自分たちがやりたいこと」、かつ「自分たちのチャンネルでは、なかなか実現できなかったこと」ができるのであれば、受けると思います。

「僕らYouTubeの人なので、テレビには出ません」と断ることはないですし、「テレビが好きだから絶対に出ます」と受けることもないです。

━━ジャンルを問わず、いま気になる人やコンテンツはありますか。

カンタ:いまトップにいらっしゃるYouTuberの方々ですね。

コンテンツに対して「危険すぎるんじゃないか」などと批判をされることがネットの世界ではよくあります。そのとき、次にどういう動画を投稿するか、どう信頼を回復するか。そういう振る舞いって前例がない。

なので、そうした行動にその人なりの誠実さや誠意が表れるし、その考え方や行動に共感が集まっていく。

そういう意味では、YouTubeで活動している人のことは基本的にリスペクトしています。いろんな覚悟が必要で、普通にできることではないと思うので。

トミー:ドラマ『あなたの番です』(日テレ系)が気になっています。タイトルがツイッターのトレンドランキングで、日本で1位、世界で3位に入っていたんですよ(7月中旬時点)。

ハッシュタグを使ってツイートを増やそうとしているわけでもないのに、ただただ、みんながドラマの考察をするだけで盛り上がっていたんです。

テレビをはじめ既存メディアにも攻めてる人はまだまだたくさんいるなと思いました。「僕らYouTuberは新進気鋭の存在なので」って胡坐をかいたら、一瞬で終わるなと感じています。

いまや、テレビや映画といったメディアのコンテンツもネットを駆使するようになってきて、「総合格闘技」みたいな状態になっている。その中で残れるかどうか、本物しか残れないと思うんですよね。「席が空いてたから座ったのか、その席を自分から作ったのか」ではやっぱりぜんぜん違う。

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加藤 康

毎日何か変なことを思いつく生粋の企画屋と、GUCCIの服に身を包んだ一見不良なツッコミマシーン…。

冒頭のこの印象は、2人の話を直接聞くことで、完全にアップデートされた。

コンテンツに妥協しない誠実な天性のクリエイターと、一歩下がったところからマーケットを俯瞰する戦略的なプロデューサーだ。

「今は夢の先にいるような感じ」と語ったが、さらにその先にある、2人で向かいたい場所はどんなところなのか。最後に聞いてみた。

カンタ:YouTubeはまだ“文化”になっていません。

世間的にはまだ軽い存在に見られているけれど、僕は文化になってほしいと思っているし、その可能性を感じています。だから、その手助けをしたい。

何でも、初めはそうじゃないですか。マンガは「子どもは読んじゃダメ」とか、テレビは「観たらバカになる」なんて言われてきた。

そういうところで戦ってきた人ってそれぞれのメディアに絶対にいて、僕たちはそうやって新しいジャンルを切り拓いていく人たちに感動し、共感し、勇気をもらってきました。自分も、そういう存在になれたらと思っています。

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加藤 康

(編集:毛谷村真木 @sou0126