「日本は憧れの国のままでいてほしいから」。ペルー生まれの社長、危機感と挑戦

「one visa(ワンビザ)」の企業理念は、「世界から国境をなくす」こと。岡村アルベルト社長は「外国人が搾取されることなく、日本に来られる仕組みを作っていかなくてはいけない」と話す。
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ペルー生まれの岡村アルベルト社長率いる「one visa(ワンビザ)」の企業理念は、「世界から国境をなくす」こと。日本で働く外国人のビザ申請支援など、海外から働きに来る人のための事業を手掛けている。

6歳で来日し、未来の可能性が広がったという岡村さん。自分のような体験を誰もができるようにと願い、「外国人が搾取されることなく、日本に来られる仕組みを作っていかなくてはいけない」と話している。

 

「子どもの未来は、生まれた環境の延長線上にしか作れない」

岡村さんが「世界から、国境をなくす」を企業の理念に掲げている理由には、幼少期の体験が深く関わっている。

父親が日本人、母親がペルー人の岡村さん。ペルー南部の第二の都市、アレキパで生まれ、家族で日本へ渡った。日本に留学経験のある母親が、子どもに良い教育をと願ったからだ。最初は日本語が分からず、小学校ではいじめにもあった。しかし、ペルーに帰りたいとは思わなかったという。来日は、岡村さんにとって世界を大きく広げる体験だったからだ。

「建物が大きいとか、電気が明るいとか、そういう単純なことさえも、自分にとってはすごく大きいことでした」

 

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幼少期の岡村アルベルトさん
岡村さん提供

大阪で暮らすようになった岡村さんは、母親に、当時ベストセラーになっていた村上龍さんの『13歳のハローワーク』(幻冬舎、2003年)を買ってもらった。日本で就くことができるあらゆる職業を、子ども向けに紹介した本だ。様々な仕事を眺め、自分の未来を想像しながら、岡村さんは、生まれた街との経済格差を痛感していた。

ペルーで暮らしていた子ども時代。漠然と、将来は自分も市場で働くか、タクシーの運転手、警察官、公務員、学校の先生になるのだろうと考えていた。

「僕の未来が広がった瞬間でした。子どもの未来は、生まれた環境の延長線上にしか作れない。だから、人間の可能性を広げる事業をしたいと思いました」

一方、小学生時代には、仲良くしていたペルー人家族が忽然と姿を消した記憶もある。

その時に両親が言った「キョーセーソーカン」という言葉の意味を知ったのは、しばらく後になってからだった。勉強をしていくうちに、強制送還された人々の中には、書類さえきちんと提出していれば、まだ日本に滞在することができた人たちがいるということも知った。

「ビザの知識さえあれば、友達の強制送還は防げたのではないか」 そう思うようになったという。

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小学校時代の岡村さん(右)と帰ってしまったペルー人の友達
岡村さん提供

 

「外国人がきちんと日本で暮らせるように」

日本で大学を卒業した岡村さんは、東京入国管理局の窓口での勤務を経て、今の会社を起業した。

入管の仕事では、日本語が分からず書類が作成できない難民や、記入方法がわからずに長期間足止めをされている外国人も大勢、見てきた。

「日本語は難しいし、役所のサイトも非常に複雑。そこを平らにしていきたい」

同社の事業は2017年、企業向けに、高度専門職として働く外国人のビザ取得を支援するサービスを提供することから始まった。利用者は、名前や住所などの情報を日本語か英語でオンライン上のシステムに打ち込むだけで、自動的に形式を整え、詳しい知識がなくても入管などに提出する書類が出来上がる仕組み。

申請の手間を削減できることから、外国人のエンジニアなどを採用する500以上の企業が既にこのシステムを導入し、管理にも使用しているという。

一方で、ビザを取得しても、日本で外国人が暮らすには、まだハードルがある。「外国人お断り」の企業が多いからだ。

岡村さん自身も、16歳で日本国籍を取得したが、それでも「名前がカタカナだから」という理由だけで、不動産が借りられないことは今でもあるという。

そこで、同社では、家賃保証や銀行・クレジットカード会社など各種の生活インフラに関わる企業との提携も進めている。同社が持っているビザや勤務状況などの情報を元に、外国人が「信用」を獲得し、日本での暮らしがスムーズに送れるようサポートする事業だ。

「現実には『外国人はいつ国に帰ってしまうかわからない』とリスクに感じている事業者も多いです。そのリスクを減らすような情報、サービスを提供して、定住の支援をしています」

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岡村アルベルトさん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

 

技能実習の悪しき制度を引き継がないために

一方、会社は2019年から始まった新しい在留資格「特定技能」を取得し、働く外国人を対象にしたサービスも開始した。カンボジアでの日本語教育から企業への紹介、ビザ取得、暮らしのサポートまでを一気に行う事業だという。

「特定技能」は、多くの外国人が劣悪な環境で働かされてきた「技能実習」制度を温存するつもりなのかと、批判の集まる中で成立した制度だ。

しかし、岡村さんは「新しい制度だからこそ、従来の組織ではなく、新規参入者が正しい方向に導かなければ」と、この分野を手掛けることに踏み切った狙いを話す。

これまで技能実習生は、現地の仲介業者に高額の手数料を支払い、来日前に借金として背負わされることが多かった。それが、どんなに劣悪な環境でも技能実習生が帰国できない理由の一つだ。また、職場を移る自由も与えられていないため、悪質な企業から逃げ出すこともできないのが技能実習の制度だった。

ワンビザは、関西大学と連携して、現在カンボジアに日本語学校を2校開校。これまでに250人が受講した。

同社では、来日希望者の受講料、ビザ取得、渡航費用などを負担。そして雇用した企業から紹介料を受け取る仕組みとした。来日した人から報酬は一切受け取らない。

そして、企業が外国人の給与から天引きしないように、支払いを監視し、悪質な場合は他の企業への転職を斡旋するという。

「BBCが技能実習を特集するなど、日本が外国人にひどい扱いをしているという噂は、既に海外で広まり始めています。制度だけ作っても、このままでは10年後、日本に誰も来なくなってしまう」

政府はこの先5年間、「特定技能」制度で外国人が働ける飲食や介護などの14業種で、146万人の人手が不足すると試算している。そのうち約26〜35万人を外国人に担ってもらいたいという目論見だ。一方で受け入れ側が今のような取り扱いのままでは、絵に描いた餅になってしまう。岡村さんはそんな危機感を吐露した。 

「僕の心の中には、日本国籍の自分と、かつてペルー国籍だった自分の2人がいるんです。来日した頃のように、日本が憧れの国であり続けて欲しい。10年後、日本を目指す選択肢が残っているように、持続可能なビジネスとして、僕たちは道筋をつけたいと思っています」

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岡村アルベルトさん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan