韓国は「反日」ばかりなの?ネットから離れて、実際に現地に行って確かめてみた。

日を追うごとに悪化していく日韓関係。政治について話すことは、ボタンひとつで出来るリツイートと違って、とても緊張するものだった。
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韓国・ソウル
HIROKO YUASA

つい数日前、3泊4日で韓国・ソウルに取材に行ってきた。

メイン取材は、とある人物へのインタビュー取材だったが、今の韓国を少しだけでも自分の目で見て感じようと、時間が許す限りソウルの街中を歩いてみた。 

日本と韓国の関係はかなり悪い。到着の前日には、ソウル市内で旅行中の日本人女性が、韓国人の男性から暴行を受ける事件があった。

ジャーナリストの青木理氏が韓国について発言をするとすぐ「反日だ」と言われるように、誰かが何かを口にするだけで、「反日」「左派」「ネトウヨ」「右翼」などとSNSでレッテルを貼られる。

実際のところ、韓国国内の雰囲気はどうなのだろう?

現地で暮らす普通の韓国人は、どう考えているのだろう?

スマホを閉じて、“オフラインで”会話をして、考えや思いを聞いてみたかった。そこで改めて気づかされたのは、リツイートのような気軽さでは出来ない、政治的な会話につきまとう、あの「緊張感」だった——。

今、韓国で売れている意外な本とは

まず、ソウル中心部・光化門にある韓国国内最大規模の書店、教保文庫を訪れてみた。ありとあらゆるジャンルの書籍が置いてあり、一日居ても飽きないほど充実している。

メインの入り口を入ると、目の前にあったのは、それぞれのジャンルごとに人気の書籍を並べた棚。

その「政治・社会コーナー」で、第1位となっていたのが『反日種族主義』という過激なタイトルの書籍だった。

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「政治・社会コーナー」に並ぶ人気本。1位が『反日種族主義』、2位が『日本会議の正体』。
HIROKO YUASA

 『反日種族主義』は、李栄薫(イ・ヨンフン)ソウル大学名誉教授ら、6人の学者による共著で、簡単に言ってしまえば「韓国国内における反日に対する批判の本」だという。つまり日本の批判ばかりをする韓国社会を自ら批評しているのだ。

第2位として並んでいたのは、『日本会議の正体』(著:青木理氏)の韓国版だった。

『反日種族主義』について、当然のことながら内容については賛否両論あるだろう。ただ、この書店のサイトを見てみると、2019年8月20日~27日の週間ランキングでは、総合のカテゴリーで第2位となっている。このことからも、韓国国内で人気を博していることが、うかがい知れる。すでに実売部数が10万部を突破したという報道もある。知り合いの韓国人記者に聞いたところ、今後は、日本語の翻訳版を出す動きがあるという。

本を買った人に話を聞いてみた

書店で様子を見ていると、『反日種族主義』の表紙をスマホで撮影している女性がいたので、話を聞いてみた。20代後半だという。私は緊張して、声が少し震えていた。

「この本の存在についてはネットで知りました。こうした本が1位として並んでいるのはおかしいと思って、写真を撮ってました」と話す。読んだことはないが、ネットの情報から、この本に対して批判的な見方をしているという。

「本を読んでみたいと思うか?」と質問してみたところ、「自分たちの周りでは、日本に関連する物は買わないという風潮があるから買わないです。でも、不買運動がなかったとしても(この本は)買わないかな。自分の中では買ってまで読むほど優先順位の高いトピックではないです」と答えた。ちなみに、この女性は書店で撮った画像はこの後、SNSに投稿すると言っていた。

ソウルの60代男性「ものすごく衝撃を受けた」

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『反日種族主義』を購入した男性に話を聞いてみた。
ATSUSHI HOSOYA

続いて、実際にこの書籍を購入した男性にも話を聞いてみた。ソウル市内で旅行業を営む60代前半の男性だという。

「もともと著者についてはネットで発言を見ていたので知っていました。彼の言うことはどれも、これまで自分が信じてきた、教えられてきた内容とは正反対の内容です。ものすごく衝撃を受けました。だから、この本も読んでみたいと思って買いに来ました」と話す。

手に取り中身をパラパラと見て棚に戻す人もいれば、表紙の画像だけを撮って立ち去る人、実際に購入する人など様々だった。私が見ている限りでは、手に取って内容に目を通す人たちは、ほとんどが50代以上の年齢層で、あまり若い人はみかけなかった。

第二次世界大戦後、反日教育を受けたと言われている世代や、その子どもにあたる世代にこそ、衝撃的な内容として響いているところがあるのかもしれないと思った。

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日本書籍コーナーの案内板
HIROKO YUASA

書店内には、「日本書籍コーナー」として、日本のあらゆる書籍が取りそろえてあった。ファッション雑誌など目で見て楽しめるものについては、翻訳されることなく、そのまま日本語のものが置かれていた。「小説コーナー」では、ランキング上位15冊のうち5冊がミステリー作家、東野圭吾氏の著書だった。

少女像を守る女性

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少女像を守る女性に話を聞いてみた。
ATSUSHI HOSOYA

続いて、慰安婦問題を象徴する少女像を訪れた。日本のテレビクルーが取材に来ていたが、デモなどは行われていなく、静かだった。

少女像の隣には小さいテントがあった。「反安倍反日青年学生共同行動」のメンバーたちが寝泊りして像を守っているのだという。そのメンバーのひとり、大学で歴史を学んでいるというキム・ジソンさん(22)。

2015年の日韓合意について、慰安婦女性たちへの謝罪と賠償が不十分であるとの問題意識を持ち、2016年からこの活動に参加するようになったという。だが、日韓合意は慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的な解決」をうたっていたのでは?率直に日韓問題についてどう考えているか話を聞かせてもらった。

「安倍首相は、日韓問題について未来志向で行こうと話しているけれど、そのためにはやっぱり植民地時代の誤ちについての謝罪をして、反省をして、というのを前提にしないと日韓についての未来志向というのは難しいんじゃないかと思っています。こういうことを通じて、人間が暮らしやすい社会になればいいなと思って活動しています」

同世代の友人と、政治に関する話をするかについても聞いてみた。

「友達とは様々な話題についての話はするけど、その中でも自分は政治に関する話をすることが多い方だと思います。私は、歴史や政治、そして社会に関心を持ってこそ、良い社会になると考えています。周りの大人たちの中には、政治に過度な関心を持たずに中道を守れ、という人たちも少なくないです。でも、それだと結局これまでの状況のままで何も変らないと思っています。既得権者だけが得をするような社会ではなく、韓国の国民みんながが安心して暮らせる社会を作るためにも、若い人たちが政治に積極的に関心を持たないとだめだと思っています」

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少女像を守るキム・ジソンさん(22)
ATSUSHI HOSOYA

日本風居酒屋の人気と影響

ところで、ソウルに住む人いわく、韓国ではここ数年、日本の居酒屋をイメージした店が急増中だという。実際に店舗にも足を運んでみた。

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日本風居酒屋
HIROKO YUASA

韓国なのに、日本語で書かれた看板が並び、一見すれば日本国内にいるような錯覚を覚える。店内に入り、メニューを見てみると、刺身、お好み焼きなどがある。だが、全てが日本食というわけではない。

ソウル在住の記者によると、もともと韓国では、「ハラミのお店」「ホルモンのお店」など、飲食店は何かに特化した専門店として営業するのが一般的だという。だからこそ、色々な食べ物を食べることができる、日本の居酒屋タイプのお店が人気となったらしい。

居酒屋で飲んでいた若者に話しかける

この店を訪れていた3人組の客に話を聞いてみた。大学で貿易について教えている講師と、その教え子である19歳の大学生2人だった。学生のうちのひとりが、ネットで美味しい飲食店を調べていたところ、この店舗の存在を知り来店したという。

突然声をかけたにもかかわらず、一様に好意的に応対をしてくれたので、政治について興味があるかという質問を投げかけてみた。すると、一人の学生は「興味がない」との回答。その理由として、大学内で所属している組織の都合上、中道(政治に深入りせず、どちらにも偏らない)というスタンスを取っていると説明してくれた。

一方でもうひとりの学生は「興味がある」と答えた上で、今の日韓関係について次のように語ってくれた。

「自分の周りでも日本製品の不買運動という風潮はあります。でも、日本からは本当にたくさんの物が入ってきているから、本当に不買運動をしようと思ったら、携帯の中にも日本の部品があるし、何も手に入らなくなってしまいます。もう少し考えて行動しても良いと思います。韓国が、自分たちで自立してやっていくことは必要かもしれないけれど、それよりももっと国際間の交流を増やしていく方が良いんじゃないでしょうか

同席してた大学の講師にも話を聞いてみたところ…。

「私は彼らよりも世代が上で、学生たちと考えが違うので、この場では意見を主張することは差し控えておきます。でも、これからの韓国の将来を担う20代の人たちの意見の方が大事だと思うので、私たちの世代があえて話す必要はないと思っています」

「日韓問題については、ここでは話さない方が良いよ」

韓国滞在中、今の日韓関係を象徴するような出来事に遭遇した。

取材3日目の昼前、ホテルのロビーで、取材に同行してくれている韓国人ジャーナリストと日本語で打合せをしている時だった。

たまたまその日に発行された韓国の新聞に、例のベストセラー『反日種族主義』の著者がYouTubeに投稿した動画が取り上げられていたので、そのことについて話をしていた。

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『反日種族主義』の著者・李栄薫(イ・ヨンフン)について取り上げている新聞
HIROKO YUASA

すると、隣に座っていた40代前半のビジネスマンとおぼしき男性が、突然日本語で話しかけてきたのだ。

「そういう話は、こういう公の場で話さない方が良いですよ。韓国には日本語がわかる人もたくさんいるので。あなたたちのことを心配して言っています」

あまりに突然のことで、私はとても驚いた。話しかけてきた男性は韓国人で、現在は日本で家族と生活をしており、一時帰国中だという。

私たちが話していた内容は、日本を批判する内容でも、韓国を批判する内容でもなかった。『反日種族主義』という本についても、否定も肯定もせず、著者についての説明を聞いていたに過ぎなかった。

よくよくこの男性の話しを聞いてみると、男性はこの書籍について批判的な考えを持っていたことから、たまらなくなり口を挟んできたということだった。

もちろん、この男性が、たまたま見ず知らずの人に干渉をしてくるタイプの人間だったのかもしれない。それでも、政治に関する話をしているだけなのに、見ず知らずの人に対して「そういう話はしない方がよい」と意見をする人がいる、という事実に、私はただただ驚いた。

なぜ見ず知らずの私に話しかけてきたのだろう

ホテルを出た後も、相当な時間、このシーンが私の頭、そして心の中で反芻を続けることとなった。

見ず知らずの人に意見することは、ネット上ではよくあることだ。Twitterでは毎日のように行われている。しかし、リアルな社会では、このような経験がほとんどないだけに強い衝撃を受けた。

お互いの意見がどうであれ、相手が何者かもわからない中で話かけてきた男性の胸中には、見ず知らずの人に意見するだけの強い思いや考えがあり、それなりの覚悟があったと思う。

それに対し私も、誠心誠意、男性の話に耳を傾けた。その時間、お互いに少なからず、それなりの緊張感があったと思う。

Twitterのリツイートボタンが私たちに与えたもの

このシーンを後から反芻する中で、私はとある言葉を思い出した。開発者としてTwitterのリツイートボタンを作ったクリス・ウェザレル氏の言葉だ

要約すると、リツイート機能が実装される前までは、ユーザーは自分がシェアする内容について少なくともひと呼吸おいて考える間があったが、リツイートボタンができると、「衝動が先立つようになった」という内容だ。

見ず知らずの人の考えや主張に意見するということは、SNSで衝動的に、反射的に言葉を送るよりも、緊張感のいることなんだと改めて感じさせられた。こうしたシーンは、実際に現地に行ってみないと体験することができない、貴重な経験だったと思う。特に政治的な話をするとなればなおさらだ。

今回は、限られた時間の中で私が見て、聞いて感じたことを、紹介した。その中には、当然ながら、日本に対して批判的な意見を持つ人もいたが、一方でそれ以上に親日的な意見を持つ人も多くいることを、改めて認識させられた。

私がソウルに滞在している間に目撃することはなかったが、現地の韓国人ジャーナリストによると、韓国国内では反政府デモも度々行われており、多くの市民が参加しているという。

韓国の人々に話を聞いて感じたことは、多く人が、年齢問わず、政治について自分なりの考えをしっかり持っているということだ。質問すれば、しっかりと答えが返ってきたことが印象的だった。

日本では、SNSなどのネット上では政治に関する意見が交わされていても、“オフライン”では身近な人たちと対話をするシーンはあまりないと、少なくとも私は感じている。

客観的な事実に基づき、きちんと自分の考えとして正々堂々と、もっと政治的な話をしても良いのではないかと思った。そうした政治的な会話に付きまとう「緊張感」も忘れずに。