「CFO募集、ただし18歳以下」──。
8月9日、朝日新聞の朝刊の紙面に衝撃的な文言が掲載された。
ミドリムシなどの微細藻類に関する研究開発や商品販売など、様々な事業を展開する株式会社ユーグレナが打ち出した全面広告だ。
日本企業の社長の平均年齢は、59.7歳。
社長の平均年齢が年々上昇している中、同社は思いがけない挑戦に打って出た。
広告内の説明文では、若者たちに向けたメッセージが、このように綴られている。
“地球のこれからについて子どもたちと語り合う中で、現在の経営陣だけでは「不十分」と気付かされました。未来のことを決めるときに、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい、と。”
“そこで、新たにCFO(Chief Future Officer=最高未来責任者)を募集します。条件は、18歳以下。”
“業務は、「史上最年少の東証一部上場企業CFO」として、会社と未来を変えるためのすべて、です。”
概して『CFO』といえば、最高財務責任者のことを指すが、ユーグレナが募集するそれは、“最高未来責任者”。すなわち、未来の経営に関する意思決定の担い手だ。
「人と地球を健康にする」とのスローガンのもと、ミドリムシの培養技術を駆使し、健康食品や化粧品を開発・販売してきた同社。
近年ではバイオ燃料事業を新たな産業にすることを目指すなど、SDGs(持続可能な開発目標)にも積極的に取り組んでいる。
子どもが参加する“イベント”にはしたくない
なぜ、会社経営に関わる重要なポジションに18歳以下の人材を迎えようとするのか?その理由を、永田暁彦副社長に聞いた。
──CFO(最高未来責任者)を18歳以下から募集しようと考えた経緯は?
7月に公開した、地球温暖化をテーマに子どもたちについて意見を聞くインタビュー動画で気付きを得たことがきっかけです。
そこで、今の我々には未来について考える視点が圧倒的に足りていないと感じたんです。
これまでは、「若い人というのは不十分な能力で、思考ができてないだろう」と、勝手に大人たちが思ってきた部分があると思うんです。
だからこそ、例えば選挙権は18歳以下には無いんだろうと。
ただ、ツイッターなどを見ていると、「私にも選挙権をください」という若者は結構いるんですよね。だから、根本的に年齢で何かしらの制限を掛けてしまうのってどうなんだろう、とずっと思っていました。
ユーグレナは、「未来の子どもたちのための会社」でありたいと思っています。
これからの30年後、さらには50年後を担う主役は今の子どもたちなのだから、彼らの考えと真剣に向き合いたいと。
そのような考えの中で、「子どもが参加しています」というイベントを単純に実施しようという話ではなく、18歳以下の子どもであっても、会社の1つの重要な機能とか、経済・社会活動の一部に入ってもらうことが良いと考えました。
例えば、10歳の子どもに「意見を聞いてみましょう」と言っても、「かわいいね。いいね、いいね」というやりとりで終わってしまう可能性があるし、これまでは実際にそうだったかもしれないけれど、我々は「本気」でやろうと。
だからこそ、CFOとして正式に認定して、CEO、COOに加えて第3の会社の顔としての人材を18歳以下から迎えようという考えに至りました。
広告を通して伝えたかった、ある“気付き”
──思い切った試みだと思うのですが、会社の中で、反対や懸念の声などは無かったのでしょうか?
無かったですね。経営会議の中でも誰一人反対は無かったです。むしろ「そうなるべきよね」と、全会一致でした。
例えば、社会で女性の活躍がこれだけ進んでいる世の中において、女性が経営陣の中にいないというのはおかしい、というのと視点は同じです。
未来について考えるのに、その未来を生きる若者が経営陣にいないのはおかしいよね、と。
社長と、副社長である私自身は、今は共に30代で一部上場企業の経営陣としてはかなり若い方です。
ですが、30年後の2050年には、60代後半や70代前半になる。その頃まで我々が最前線で活躍することが正しいとは必ずしも言えないと思っています。
だからこそ、その頃社会で活躍する世代には、若いうちから積極的に未来を考えて欲しいという思いがあります。
──広告の文言の中には、「今の経営陣だけでは不十分」というかなり辛辣な文言がありましたが...その意図は?
それについては、決して我々の会社の経営陣のことだけをさしている訳ではありません。
むしろ、日本社会全体というか、企業経営に関わる大勢の先輩方に伝えたかったんです。
今、日本企業の経営を担う者たちの年齢の多くは60代です。
ですが、我々のように30代中心の経営陣でビジネスを動かす会社でも、「未来を考える視点が足りていない」という危機感を感じているんだ、というメッセージを広告を通じて伝える事で、間接的でもいいから“気付き”をもたらしたいという意図がありました。
──“18歳以下のCFO”に具体的に期待することは、どんな事ですか?
まず一番は、“都合を考えないこと”ですね。
例えば、僕は人事の責任者でもありますけれど、もっと社員みんなの生活を豊かにしたいと思ったら給料を2倍にすればいいじゃないですか。
でも給与を2倍にすると言えば、今度は会社の財務を圧迫することになる。
これって、完全に双方の都合を考えていることなんですよね。
でも、CFOは未来について考えるので、未来の自分たちの人生とか地球のことを考えたら「こうしてくれよ」っていうメッセージを無邪気に言って欲しいんですよね。
今この瞬間の会社の都合だけを考えないって事は、これからのビジネスにおいてはすごく重要なことで、未来のことだけに責任を持って発言できる人の存在ってとても貴重だと思っています。
仮に私がそれを提案すると、都合を絡めない発言になるか、もしくは絡め過ぎた、逆に未来を考えないプランになるかもしれない。
なので、CFOには未来のことだけを純粋に考えてもらって、それを従来の経営陣のビジョンと組み合わせることで、何か新たな“化学反応”をもたらしてくれることを期待したいですね...。
――
話を聞いていて筆者が感じたのは、経験のない若者を経営の重要なポジションに据える事に対して、迷いなく「そうして当然」と考える、ためらいの無いスタンスだった。
単なる利益の追及だけでなく、より良い未来にするために一企業として何ができるか?
これが一層問われるであろうこれからの時代、本当に経営に必要な人材とは何か。
“18歳以下のCFO”の募集は、その1つの答えだ。