家族像コンプレックスを吹き飛ばしたパートナーなしの出産を選ぶ主人公の物語
川上未映子『夏物語』(文藝春秋)
私が紹介するのは、川上未映子さんの『夏物語』です。
子どもを産む選択肢を持たなかった私のコンプレックスは、「パパ、ママ、子どが2人、のファミリー像」です。
子どもがいて初めてわかることがある、とか、親にならないと一人前ではない、というようなことばが後ろめたさを感じさせるのです。
『夏物語』は夏子の日常を、その姉である巻子、巻子の娘・緑子との関わりから描き、紆余曲折の中、夏子は男性と関わることなく、人工授精によって子どもを産む選択をします。
そもそも個人の自由で子どもを産んでいいのか、女性だけで育てる方がうまくいくのではないか、人工授精によって生まれた子どもはどのような思いを持つのかなど、小説でありながら虐待や女性の貧困問題も含め、いろいろなことを自然に考えさせられ、コンプレックスが吹き飛びました。
余談ですが、サイン会のために来店してくださった川上未映子先生は、キレイな方で、同じ沿線の書店でアルバイト経験があり、関西人のノリで「センセイと言わないで、みえこと呼んで!」と言われる魅力的な方でした。
お会いして、先生の太陽のようなパワーにふれたこともコンプレックス解消になったのは間違いありません。
(たかつきさん/水嶋書房)
名作絵本もコンプレックス目線で読めば…
加古里子『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)
だるまちゃんはてんぐちゃんのうちわやぼうしがとってもうらやましくて、いいなあいいなあといいながら、いいことをおもいついて、すてきなうちわやぼうしをみつけます。
てんぐちゃんが「それ、とってもいいねえ」といってくれると、だるまちゃんはとってもうれしくなります。
きっとこのおはなしも、みようによっては、こんぷれっくすのかたまりなだるまちゃんのおはなしにおもえてきます。
ないものねだりしちゃう、すなおなだるまちゃん。そしてごういんにみつけてくるそのこんじょう。あなたのまるみのあるあかいぼでぃもみりょくてきなのに。でもそんなだるまちゃんをやさしくつつんでくれるてんぐちゃんみたいに、たっかんしたきょうちになってみたいものです。
(小熊基郎さん/リブロ新大阪店)
つげ義春先生に学ぶ、ダメな自分を許す方法
つげ義春『大場電気鍍金工業所/やもり』(ちくま文庫)
僕は妻から「何もできない人」だと思われ、また言われます。
どんくさいやつだと、言われます。
そのどんくささに妻はイライラするのです。
実際、車の運転が得意でもなければ(生粋のペーパードライバー)、日曜大工的なことも得意でもない。またコミュニケーションもそんなに得意ではありません。しゃべることがないからしゃべらないのです。
『ねじ式』は、つげ義春の代表作です。
つげ義春の妄想空想夢が詰めこまれた「ねじ式」とはちがい、『大場電気鍍金工業所/やもり』は著者の自伝的な短編9編が収録されています。
それは貧乏でキリキリと痛く切実な日常です。主人公の男はだいたい仕事もない、よって金もない、だが煙草吸う、暇なんで考える、うじうじ考える、ダークサイドに落ちる、ふわっと復活するの無限ループが繰り返されます。
妻が連れてきた古い知り合いのイケメンに嫉妬したりもします。自殺も考えます。痛々しい生活がユーモアたっぷりに描かれています。
共感するというよりは、そこで描かれる生活は、僕の一部分のような気がするのです。
なんか自分ダメだなぁと思う時、 「あ、なんかそういうダメっぷりもいいんじじゃないか、死ぬわけでなし」と、自分を許せそうです。
向上心がないとかではなく、自分のできることをきちんとやろうと思うのです。
つげ義春先生のように。
(桑野禎己さん/ブックスキヨスク チーフバイヤー)
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100人いれば、100通りのコンプレックスがある━━。
多種多様なコンプレックスについて、向き合い方のヒントになる本を教えてください。ご紹介いただく本は、小説、マンガ、絵本など、ジャンルは問いません。
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