「ディープインパクトは奇跡そのものだった」競馬場に行かない60代女性は夢を託した。

「どんなに辛くても絶対に諦めずに前だけ向いていたら、自分にも奇跡は起きるのかもしれない、と思わせてくれた」。ディープインパクトの大ファンだった女性は、涙ぐみながらこう語りました。
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ディープインパクトの写真との2ショット。2017年、東京競馬場で行われたイベントで撮影
本人提供

「走るというより飛んでいる」

コンビを組んだ武豊騎手にこう言わしめた名馬が天国に旅立った。

競馬ファンに衝撃を与えたディープインパクトの死。小柄な体で後ろからぐんぐんと抜き去り、次々と勝利を重ねていく姿に、夢や希望を見たファンは少なくない。

東京都内に住む女性(61)も、ディープインパクトにこうした夢を見た一人だ。

急逝を聞いて「うそ…」と絶句した後、「ディープは奇跡そのものだった。私のすべてだった」と涙ながらに語った。ディープインパクトが遺したものとはなんだったのか。

 

「自分にも奇跡は起きるのかもしれない、と思えた」

学生時代から競走馬の走りをテレビで観るのが大好きだった。嫌なことや辛いことがあっても、ただ一心不乱に走る馬を見ているだけで救われた。

だが、還暦近くになるまで、一度も競馬場でレースを観たことはなかった。「競馬に行く、という行為に抵抗があった。競馬が好き、ということも言えなかった」。女性は、すごく悔やんだ様子でこう振り返る。

ディープインパクトの現役時代も、競馬場でその勇姿を観たことは一度もない。それでもディープインパクトのレースの日には外出もせず、時間が近づくとテレビの前でそわそわと落ち着かなかった。

そんな様子を観て、夫がディープインパクトのDVDをプレゼントしてくれた。テレビやDVDで観るディープインパクトの走りに心を奪われた。

「絶望するくらい後方にいるのに、最後にどんどん後ろから差していく走りを見ていると、それだけで心が踊った。どんなに辛くても絶対に諦めずに前だけ向いていたら、自分にも奇跡は起きるのかもしれない、と思わせてくれた」

「ディープのレースを見ると、奇跡を信じられた。私にとって、ディープは奇跡そのもの。唯一の存在でした」

“史上最強” “無敗の三冠馬” として、その名を轟かせたディープインパクトは、現役引退後、故郷の北海道で種牡馬として育てられた。女性は、繋養先の社台スタリオンステーションに毎年足を運んでいた。 

「10分でも会えるだけで元気が出た。小柄だけど、本当に綺麗な馬でした。(ディープの)体調が悪くて会えない時もあったけれど、近くに行けるだけで、来年また会えるまで頑張ろうと思えたのに」

女性は涙で言葉を詰まらせながら、「今年は来週行く予定ですごく楽しみにしていた矢先だったので、まさか……。お墓があったらお参りしたい」と語った。

女性は今では、競馬場にも時折足を運ぶ。「ディープのような馬にもう一度めぐり会えたら…」との思いからだ。

「やりたいことはできるうちにやった方がいい、ということを教えてくれたのもディープインパクトでした」