家事・育児をする男性としない男性は、一体何が違うのか?
こうした疑問のヒントとなる研究成果を、笹川平和財団「新しい男性の役割に関する研究会」が7月26日に発表した。その結果は意外なものだった。
研究会では、東アジアの9000人を対象にしたアンケート調査(2018年実施)の結果を元に分析した。対象者9000人のうち、5000人が日本国内(東京・東北・北陸・九州・沖縄)で、他にソウル・台北・上海・香港で1000人ずつ実施している。
その結果、日本国内では、既婚で子供のいる男性と独身男性の場合、仕事での競争意識が高く、女性観が差別的な男性のほうが家事をする頻度が高いという結果になった。
また、育児参加については、性別役割分業観が平等的であること、末子年齢が高いこと、配偶者の収入が高いほうが、育児頻度が高かった。
(なお、これらの結果は、いずれも因果関係があると確認されたわけではない)
競争意識高い・女性観が差別的な男性の方が家事をする
育児参加の規定要因にあったような、分業観や配偶者の収入については予測されていた。一方で、家事の規定要因にあった競争や差別意識との関わりについては、意外な結論が得られたと研究会のメンバーは話す。
調査前の想定で研究会では、競争や女性に対する差別意識という「伝統的な男らしさ」に取って代わり、「新しい男性性」を身につけた男性が、より多く家事・育児に参加しているという仮説を立てていたという。
しかし、調査結果はその逆だった。「伝統的な男らしさ」を持っている男性の方が、家事をする頻度が高いという結論になったのだ。
この結果について、座長で関西大学文学部の多賀太教授は、研究会で議論した結果、「男性の適応戦略」であるという仮説にたどり着いたという。 それは以下のようなものだった。
現代では、仕事のみならず家事なども「男がすべきこと」とみなされている。そうした社会の中で、「競争に勝って『男らしく』ありたい」と考える男性は、仕事・家事の両方の競争に勝ちたいと考えている。そのため、仕事に限らない競争意識のようなものが、職場での女性観と家事頻度の両方に影響を与えているのではないか。
また、そこから浮かび上がったのは、現代のこのような男性の姿だった。
「仕事での役割だけでなく自分は家事もこなしている」という自負があるがゆえに、女性に対してはなおさら家庭責任を果たすことを求めたり、職場での女性の仕事ぶりをより厳しい目で評価したりしてしまう。
職場での女性観は確かに差別的といえるが、女性を「自分たちより劣った存在」ではなく、「自分の立場を脅かしうる対等な競争相手」と認識しつつ、しかし優越していると感じたいという屈折した意識を持っている。
分析から、研究会では「男性たちに変化を促すうえで『ケア』を新しい男性性の一要素としてアピールする戦略はジェンダー平等を進めるうえで一定の有効性を備えている」としつつ、伝統的な男性性が必ずしも弱まっていないことから、「男性のケア役割の遂行が増えること自体は望ましいが、手放しで喜ばず、他の領域でのジェンダー平等に与える影響にも注意すべき」と結論付けている。
同財団アジア事業グループの植田晃博研究員は、今回の研究について「男性がジェンダーに無関心なままでは、平等な社会は実現できないという問題意識があったことから、男らしさへのこだわりに注目して研究を始めた」と説明。
今回の研究成果は今後、政策提言としてまとめ、2020年末にも策定が予定されている「第5次男女共同参画基本計画」などに反映されることを目指しているという。