5年越しのビキニが、コンプレックスを克服させてくれた

コンプレックスを抱く一方で、わたしは20代でビキニを着ることができなければ、この先一生着ることなく死んでゆくのだろうと思っていた。
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xmocb via Getty Images
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御年27歳、物心ついてから初めて海に入った。5年前に買って眠っていたビキニを着て。

わたしは陰キャラでもないし、地味な方ではない。どちらかというと目立つグループに属していたし、知らない人とでもすぐに話せるタイプだ。

でもわたしは27歳になるまで、自分の意思でビキニを着て海に入ることが一度もなかった。機会がなかった訳ではない。はっきりとは覚えていないが、彼氏とか友達とか、海に入るような流れになったことは何度かあったような気がする。

そして5年前、当時付き合っていた彼氏とプールに行く約束をして初めてビキニを購入したのだけれど、ケンカをしてしまい、すぐに秋が来てしまった。

 わたしは海を、いや、ビキニというほとんど下着と変わらないそれを、自分から遠ざけていた。理由は単純で、高校の頃に摂食障害だったわたしの体には傷がたくさん残っているからだ。

摂食障害になってしまった理由も単純で、中学生の時にわたしのことを好いてくれていた男の子が、3年生になってから別の女の子を好きなったのだけれど、「細くてかわいい」と言っていたからだ。

わたしは特別太っていたわけではないけれど、「細くてかわいい」という価値観に何の疑問を抱く余地もなく納得したのだ。そして、すぐダイエットを始めると、自分が思っていたよりもストイック過ぎたわたしはあっという間に拒食症になってしまった。それから過食症になり、内ももにたくさんの肉割れができてしまった。それが傷だ。

ほんの小さなコンプレックスだったはずなのに、体は病気になって傷跡が残り、心は長らく傷ついたままだった。

 そんなコンプレックスを抱く一方で、わたしは20代でビキニを着ることができなければ、この先一生着ることなく死んでゆくのだろうと思っていた。

なんとなくそれがずっと引っかかっていたのだ。簡単に言うと、若者らしくビキニを着て海に入ってみたかったのだと思う。

でも、すごく怖かった。どれだけ他人はわたしのことなんて気にしていないと言われたって、それを理解していたって、わざわざ人前でオープンにするという行為はいわば自爆と同等で、そんなことを敢えてする意味なんて微塵もなかった。

 それでもわたしは今日、ハワイで初めてビキニで海に入ることができた。
体の傷は治っていないけれど、心の傷はほとんど癒えきっていたのだ。10年以上の時間がかかった。

 今日海に入ることができたのは、今に至るまで、わたしのことを大切にしてくれた人たちのお陰です。

こんな傷だらけの女を好きになってくれる人なんていないかもしれないと日々増えていく傷を眺めながら涙が抑えられなかった日もあったけれど、そんな時、母は初めてわたしのことを強く抱きしめてくれたのをよく覚えている。ものすごく、温かかった。

傷の理由を不安そうに聞く彼に正直に答えると、「自傷行為じゃなくて安心した」と優しい笑顔を向けてくれたこともあった。びっくりしたけど、すごくすごく嬉しかった。

この傷のせいで気を使わせてしまった人たちがたくさんいたと思うけれど、それでも優しく傷をえぐらないようにかかわってくれて、本当に素敵な人たちに恵まれていたなと思います。みんな、本当にわたしを受け入れて優しくしてくれた。ありがとう。

 ハワイには日本人は多いけれど、海外だったからできたことかもしれない。それでもわたしは、ビキニで海に入るというなんでもない単純なことだけれど、ひとつコンプレックスを克服できたような、そんな清々しい気分なんです。

しかも海から上がると、痒くて眠れない夜があるほどのわたしの肌が、すごく潤っていた。この肌になったのも摂食障害の影響で、わたしのような肌には海水がいいと勧められたこともあったけれど、水着になりたくないし、痛そうだからって入っていなかったのだけど、わたしには海水がすごく合っていたのかもしれない。効果があるのはハワイの綺麗な海水だけかもしれないけど…。

 ストレートにしか言いようがないのだけれど、本当に、今日は海に入ってよかったな。

 

(本記事は、のんにゃんnote「5年越しのビキニが、コンプレックスを克服させてくれた」より転載しました)