SNSをのぞくと、今日もヘイトスピーチ、格差、左右の対立など、様々な分断が起きている。
多様性のある世の中を本当に目指すならば、「違う者同士」がどうすれば一緒に生きていけるのか、今いちど、真剣に考えなくてはならいのではないか。
ネット番組「NewsX~8bitnews」6月10日の放送のテーマは、「異文化とコミュニケーションする」。司会でジャーナリストの堀潤さんと、コミュニケーション論が専門である慶応義塾大学特任准教授の若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)さんが語り合った。
そもそも、「違い」というものについての認識を若新さんはこう話す。
「僕らは、違うもの同士が生きている、ということをもっと自覚する必要があると思うんです。もともとアメリカでダイバーシティが生まれたのは、人種も宗教も違う人たちが国を作ったから。“ダイバーシティ”は、違う人たちがわかりあって一つになろうというものではない。違いをなくすのではなくて、違いを認め合おうというもの。日本では男女共同参画のように、一緒にしていこう、という方向になる。共通する部分を見るほうが物事が進みやすいから、違いはない、差はないんだって思おうとする」
これまで、就職サービス「ゆるい就職」や、「就活アウトロー採用」など企業・自治体などと実験的事業を多数企画・実施してきた若新さん。なかでも有名なのは鯖江市役所のJK課だ。
若新さんの地元でもある福井県の鯖江市で実施している市民協働プロジェクトで、地元の女子高生(JK)たちが自由にアイデアを出しあい、地元企業などと連携・協力しながら、自分たちのまちを楽しむ企画や活動を行うものだ。
例えばお菓子屋さんと女子高生がコラボしてオリジナルスイーツの商品開発をするプロジェクトからは、ヒット商品も生まれた。地元で仕事をしているいわゆる「おじさん」たちと、生まれてきた年代も、立場も、性別も違う女子高生が、どうコラボレーションしたのか。そこには、若新さんが考える、「違い」と共存していくための秘訣が詰まっている。
「こういったインターンシップで今まであったのは、“高校生たちが3ヵ月間のインターンを通して大人顔負けに成長した”とか、“入って来た頃はこうだったのに、卒業するときには挨拶もできてこんな資料もビシッと作れるようになりました”とか。それって異文化のコミュニケーションではないと僕は思っています。僕がやったのは、どちらかに合わせる、ということではありません」
女子高生たちが好きにおしゃべりしながら、偶然生まれたアイデアだけを扱った。スイーツの商品開発でも、女子高生たちが食べたいと思うものを提案してもらい、職人さんたちに作ってもらったという。
「職人さんも、最初は、こんなの作れるかなって言うんだけど、無理矢理にでもサンプルを作ってもらう。そうすると今度はJKが感動するんです。まじで?どうやってやったの?と」
そうして少しずつお互いが歩み寄り、コミュニケーションが生まれていく。
しかしながら、このJK課のスタンス、最初は批判も多かったという。
「高校生に対してちゃんと教育をしていないとか、最低限のマナー研修もしていないとか言われました。でもね、“最低限のマナー研修”という時点で、違いを埋めようとしているじゃないですか。マナー研修から始めていたら、彼女たちは、大人が喜ぶものを考えていたと思う。そうじゃなくて本当に自分が食べたいものを考えてもらいました」
このプロジェクトが成功した理由は、もう一つある。それは、短期間で成果を求めないことだ。
「いつまでにどうするっていうのを決めないことが、僕のプロデュース業においては、すごく大事なんです。こういうことをやるプロジェクトマネージャーは、すぐに成果を求められがちですが、僕は特に目標は決めません。JK課でも、到達しなければいけない目標や、あらかじめ大人が組んだプランは何もありませんでした」
対話が成立するまでにはある程度時間がかかるからだ、と若新さんはいう。人格と切り離し、違いを現象として取り出し、「違いのぶつかり合いが面白い」と捉えられるようになるまで、あえて“いい加減にしておく”期間として、少なくとも2、3ヶ月は必要だと語る。
「でも普通こういうプロジェクトをやろうとすると、2、3ヵ月も待てないんです。3ヵ月、何の成果なかったら焦るし、1回1回の話し合いで細かく成果を出そうとすると、どこかで合意を取ろうと急いでしまう。JK課は、破綻する日があってもいいし、結果が出ない日があってもいい、と決めたことで、違いをそのまま露呈した状態でじわじわ歩み寄ることができた」
違いを「なくす」とか「受け入れる」こと以上に、違いを「楽しむ」ことが大事だと語る若新さんと堀さんは、現在、オンラインサロン「堀潤と若新のオトナの社会科ゼミ」を開催している。
「ここでは“論破禁止”がルールです。どちらが正しいか決めるんじゃなくて、自分も違いの一部ということを認めながら、その先のコラボレーションを見つけていきたい」と二人は語った。
【文:高橋 有紀/ 編集:南 麻理江 @scmariesc】