「子どもがひきこもったら怖い」親や周囲がひきこもる人に打てる3つの手立て

「どんな手が打てるのか」の前に「なぜひきこもるのか」を知らないと、いかなる対応も空回りに終わる。
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ひきこもり当事者によるメディア『ひきポス』編集長の石崎森人さん(筆者撮影)

ふたつの事件によって「ひきこもり」が再注目されています。

ひとつは児童を含む17人を殺傷した川崎殺傷事件。事件翌日の5月29日、川崎市が容疑者(51歳)は「長期間のひきこもり傾向にあった」と発表。その数日後、6月1日に元官僚の父親(76歳)がひきこもる長男(44歳)を殺害する事件が起きました(以下、練馬事件)。

ふたつの事件は「ひきこもり」というワードが共通しており、ひきこもりに関する報道が、連日されています。そうした影響も受け、ひきこもりの当事者や親には波紋が広がっています。

「うちの子は中学生だが、学校へ行かずひきこもっているのは正直、怖い」(40代・主婦)

「やっぱり自分も最後は親に殺されるのではないかと思った」(20代・ひきこもり男性)

そんな声も聞かれました。川崎殺傷事件と練馬事件が「ひきこもりだから起きた」という短絡的な見方には疑問がありますが、今日は、ひきこもりの人に周囲はどんな手が打てるのかを書きたいと思います。以下は、私がひきこもりや不登校の当事者、親、支援者を取材するなかで見えてきたことです。

ひきこもるメカニズム

「どんな手が打てるのか」の前に、そもそも「なぜひきこもるのか」を知ってもらわなければ、いかなる対応も空回りに終わってしまいます。「ひきこもるメカニズム」を最初に書きます。

ひきこもりは、体が緊急停止した状態だと言われています。多くの場合、ひきこもる要因は、ひとつではありません。いじめ、パワハラ、就職活動や受験の失敗、親からの期待が重圧に感じていたなどの理由が相まって、心にストレスが溜まり、限界を超えたときに体が緊急停止します。

緊急停止と言っても指や目が動かすなどの単純な行動ができないわけではありません。学校へ行こうと思っても頭痛や腹痛が起きる。朝起きようと思っても起きあがれない。働こうと思っても強烈な不安感などに襲われるなど、いままでと同じ生活ができなくなる、という状況が「緊急停止」の状況です。

つまり、心に負担をかけすぎて体が「もうムリはできない」とストップをかける。それが「ひきこもるメカニズム」なのです。

ひきこもりはなぜ長期化するのか

ひきこもりが長期化するのは、緊急停止の状態が解除されないことが多いからです。ひきこもった後でも心の傷が深まるのが、その要因です。

ひきこもった後、本人は「働けない自分はおかしい」「学校へ行けない自分は怠けている」「こんなの甘えだ」と罪悪感や自責の念、そして早くなんと解決しなければという焦燥感を感じ、自分を否定します。この際には、周囲による「がんばろう」という励ましの言葉も、本人からすれば責められたような気持になってしまいます。

このように、ひきこもったあとでも自責の念が絶えず、心の傷が深まるのが長期化の要因の一つになっています。たとえば練馬事件で殺害された英一郎さんは、ツイッターなどで攻撃的なツイッターもされていました。ネットのなかでは、よく見られる書き込みとも言えますが、ひきこもりに理解の深い人であれば、自責の念が強いあまりに他者に対して攻撃的な言葉を吐いて自分を落ち着かせている、と考えるのが自然です。

病気として噴出するケースも

また、傷が深まっていくとその苦しさは「病気」として噴出することもあります。躁うつ病、強迫神経症、摂食障害、パニック発作など。なかには自傷行為や家庭内暴力が出ることもあります。すべて心のSOSだと言っていいでしょう。

家庭内暴力は、家族からも孤立感を感じ、自己否定感が高い状態が長く続くときに起きるものです。自己否定の末に、まずは「物」に当たる期間が長く続き、それでも改善されない場合は人に当たります。報道によれば、練馬事件の英一郎さんも中学生のころから母親への家庭内暴力が出ていたそうです。この場合は、中学生になる以前から苦しい思いを抱えていたと考えざるを得ません。本来なら「人」に当たる前の期間は長いはずですから、その期間に本人が苦しんでいる背景を掴む必要がありました。

周囲にできること1「相談」

ここから先はひきこもりの当事者らに聞いた「必要だと感じたサポート」について書いていきます。

まず周囲からの適切なサポートは、ひきこもり当事者にとって大きな力になります。本人は「どうにかしたい」と思っていても、うまく体が動かなかったりするからです。

周囲は、まず緊急性の高いものから手を打ってください。つまり自分と他人の健康を害する症状(状況)の場合は、早めに精神科医やメンタルクリニックなどにご相談ください。

この際、本人が病院へは行かず、親や祖父母だけが相談に行っても大丈夫です。

医師も千差万別です。たくさんの病院を転々とするのは、お勧めできませんが、相性の悪い医師にかかっているのもよくありません。当事者たちからの経験則をもとにすると「よい医師」は、決まって当事者の苦しさに共感できる人でした。世間体や常識よりも当事者の立場に立って物を言える人、こういう人に相談を続けられるのがよいかと思います。

相談がうまくいかないのは

しかし、相談してもうまくいかないケースもあります。練馬事件などでも「相談してもうまくいかなかった」と報じられています。一般論として相談してもうまくいかないケースは、ふたつに大別されます。ひとつは相談先に専門的な知識がなかった場合。もうひとつは「周囲が解決策を決めつけている」場合です。

いじめによって不登校になった子の親から一番多い相談が「なんとか学校へ行けるようにしたい」です。学校へ行くことのみを解決策として決めつけられても、子ども本人は、すぐに登校できる状態にないことがあります。相談者の親や先生がゴールを決めつけていると、相談機関としては打つ手がありません。ふつうの相談機関ならば、子どもの困りごとを掘り出し、本人が安心できる環境を整備し、その先に子どもが求めているゴールを探る、という手はずをとります。ゴールのなかには学校復帰もありますし、家で学ぶこともあります。状況次第でゴールは揺れ動きます。誤解が多い言い方ですが、親や先生の「思い通りの結果」を求めて相談されてもうまくいかないケースが多いです。

周囲にできること2「安全基地」

本人にとっての安全基地をつくることは有効な支援です。安全基地とは、衣食住が保障されていこと。親や周囲が干渉されすぎないこと。そして本人を快く受け入れられている場のことです。

そんな安全基地があると「ますます外に出られなくなる」「一生ひきこもる」と不安に思われる方がいます。

それは誤解です。「ダメになったら戻れる場所がある」と思えることが、チャレンジを支えます。登山といっしょでベースキャンプ(基地)がなければ、トライできません。自然と自暴自棄な選択肢が生まれてしまいます。

私が取材した当事者も、みなさん安全基地(家)と外の世界(会社や学校)を行ったり来たりしながら、社会との距離の取り方を学んでいました。

周囲にできること3「話し相手」

自分の気持ちを整理するためには話し相手が必要です。ひきこもりの人も、病院の先生、カウンセラー、当事者グループの集まり、親などに「気持ちを聞いてほしい」という場合があります。話し相手になった方は、本人の気持ちを否定せずにじっくり話しをきいてほしいと思います。

ということで周囲が打てる対応は3つです。

  • 自分と他人の健康を害する場合は医師に相談
  • 本人の安心基地をつくる
  • 本人から選ばれたら話し相手になること

 サポートをする際は、自分のサポートやケアを忘れないでいただけたらと思います。サポートをする人もしんどいのは事実です。

ひきこもれたから生きられた

最後になりましたが「ひきこもることでやっと自分らしく生きられた」、「本当の自分になれた」という人もいます。なので「ひきこもり=悪」だと決めつけないでもらいたいとは思っています。

ひきこもり経験者の石崎森人さんがその例です。石崎さんは就職活動と就労に疲れ果て、自殺未遂を経てひきこもり始めました。ひきこもった直後から「この状況から抜け出したい」とアルバイトを始めるも吐いてしまうなどまともに働けませんでした。石崎さんは、ひきこもりながら自分と向き合い、将来のプランニングを始めました。その後、石崎さんは、ひきこもり当事者から担がれるようなかたちで「ひきポス」というひきこもり専門メディアの編集長をしています。

石崎さんは、ひきこもりを経て「以前の僕よりはるかに真剣に生きている気がする」と感じたそうです。

ひきこもりには、自分と向き合う作用もあります。また、もし親や周囲の方が、ひきこもりについて心配になったら、本人に直接アプローチをする前に当事者や親の経験談を聞いたり、ネットで読んだりしてください。

体験談などは『ひきポス』や『不登校新聞』にはもちろん、たくさんネットで読めます。できれば「浴びる」ように読んでもらえると、本人の気持ちが少しずつ見えてきます。気持ちが見えてくること、それが最初の手掛かりになるはずです。

(2019年6月7日ヤフー個人より転載)