アフリカ出身の学生比率が日本で最も高い「国際大学」(新潟県南魚沼市・伊丹敬之学長)で今年3月11日、「アフリカ出身の学生の体臭がひどい」という差別的な内容を含んだ学生からの投書を、大学職員が学内の提示版に貼り付けていたことがわかった。さらに、その職員が貼り付けた投書の下に「彼らの名前を教えてくれたら、私が彼らと話をさせてもらいます」と差別を容認するとも受け取れる返答をしていた。
国際大学はすべて英語で授業が行われる日本初の大学院大学で、1982年に開学し、現在、60ヶ国から339人の学生が通う。安倍晋三首相は2013年、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」(ABEイニシアティブ)を立ち上げ、アフリカ諸国から5年間で1000人の留学生を招き入れると発表した。国際大学はABEイニシアティブの研修生の最大の受け入れ先となっており、現在、31ヶ国から59人のアフリカ出身の学生が、生活費から学費まですべて日本政府から援助を受けて経営学や国際関係学を専攻している。
3月初旬、大学事務局前に設置された意見箱に、特定の地域の出身の学生たちの体臭について対処してほしいと匿名の投書があった。意見箱に投書されたものを提示版に貼るかどうかは大学事務局内の「学生センター事務室」が決めることができ、この投書に対し、学生センター事務室の女性室長は「それがどの学生かどの地域の人か教えてほしい」という内容の返答をし、提示版に貼り付けた。
3月11日、室長は、投書をした学生からの返答と、それに対する室長の返答を同時に掲示板に貼った。学生からの投書には英語で「これはタバコや口臭ではなく、ひどい体臭だ。具体的には、アフリカ出身の人たちだ。何かしらの対処をしてください」と書かれていた。これに対し、室長は「彼らの名前を教えてくれたら、私が個別に話します」と返答した。
差別的表現を含んだ投書を提示版に載せ、さらには大学の幹部職員がその発言を容認するかのような返答をしたことに、アフリカ出身の学生たちは、伊丹学長宛てに「今後、このようなことが起こらないよう、何らかの対策を講じてほしい」と面会を要請した。4月2日、学生の代表者数人と伊丹学長が面会。出席した学生によると、伊丹学長は「学内に差別行為に関しての規則がないため、大学の事務局と話し合いをし、どんな対策ができるか検討したい」と返答したという。大学はこの面会で伊丹学長が口頭で謝罪をしたと主張するが、出席した学生は謝罪の言葉はなかったと言う。
出席した学生によると、伊丹学長は、学生たちに、投書を提示版に貼った室長との直接対話を提案したという。それを聞いた学生の1人は、「なぜ被害者である私たちが加害者と会わなければいけないのか?私たちは内輪の揉め事について不満を言っているのではなく、大学が犯した人種差別行為に声を上げているのに」と首を傾げた。
女性室長はメールでアフリカ出身の学生グループ宛てに謝罪をし、掲示板にも謝罪文を貼った。また、再発防止策として、大学は学生向けに30分間の多文化主義についての特別ワークショップを開いたが、ワークショップの開催理由について大学は学生に説明はしていない。アフリカ出身の男子学生は「投書をした学生にも問題はあるが、その投書を提示版に貼った職員にも問題があるのに、なぜ職員向けのワークショップはしないのか?」と首を傾げる。
アフリカ出身の別の女子学生は「大学から学生全員に向けて正式な経過説明と謝罪がないのはおかしいし、誰も責任を取らないのもおかしい。こういう行為が容認されると受け取られれば、さらなる差別が増長されてしまう」と話す。別のアフリカ出身の女子学生は「アフリカの国の中には、少し前までアパルトヘイトという人種差別制度があった国もあり、こういう差別的発言に対して敏感だ。校内の誰かが、私たちアフリカ人全員を臭いと思っていると思うと、キャンパスで生活することが嫌になる」と話した。
この女性室長はアメリカ出身の白人女性で国際大学の卒業生。すでに20年以上大学に勤務しており、学生寮には、室長の顔写真付きで「寮内では静かにするように」と書かれたポスターが貼られている。室長の日本人夫も国際大の卒業生で、現在は国際大の教授で、副学長を務めていたこともある。学生の1人は「夫が元副学長で、室長自身、大学職員の中でもかなり古株だから、大学は室長を守ることしか考えてないのでは」と言う。
ABEイニチアチブは日本とアフリカの関係強化が目的で、今年8月には3年に1度の「アフリカ開発会議」が横浜で開かれる予定だ。日本とアフリカ諸国が親密の関係をアピールする特別な年だが、学生の1人は「すでに、今回の件はABEイニチアチブで来ている研修生全員に知れ渡っている。この件で、日本のアフリカ外交に傷がつかなければいいが」と危惧する。
また、国際大学は日本政府が発展途上国支援の一環として実施する人材育成プログラムの研修生の主要受け入れ先となっており、アフリカだけでなくアジアや太平洋の島国など、合計で200人以上が日本政府の支援を受けて、国際大で学んでいる。学生の1人は「国際大は日本政府にとって途上国外交の拠点施設。そんな場所で人種差別行為があれば、国際社会での日本のイメージはがた落ちだ」と話す。
大学は取材に対し、「国際大学には人種的偏見、差別はない。関わった職員には学長が注意をし、職員は深く反省している」。とコメントした。