就職活動中のハラスメントをなくそうと、企業と支援団体が手を携えて動き始めている。
5月24日、エッセイストの小島慶子さんらが厚労省で「『#就活ハラスメント』ゼロ!プロジェクト」の発足会見を行った。「#WeTooJapan」と相談コミュニティサイト「QCCCA(キュカ)」の共同プロジェクト。
ドワンゴの夏野剛社長も出席し、「正々堂々、就活ハラスメントゼロ宣言をします」と発表した。
ハラスメントを「ゼロ」にはできない。でも…
ドワンゴの夏野剛社長は「正直、ハラスメントはどこの会社でもある。あった時にどう対応するか、どんな措置をするかが、社員に対してものすごく大きなメッセージになる。だから経営者は(ハラスメント)ゼロ宣言をするべきだし、今日はそのために来ました」と語り、「就活ハラスメントゼロ」宣言企業の第1号に名乗り出た。
一方で、「潜在的に一定の割合でそういう(ハラスメント体質の)人はいる。そこは認めないといけない」として、ハラスメントを実際に『ゼロ』にするのは難しいとの見方も示した。
セクハラ研究の第一人者、イリノイ州立大学のジョン・プライヤー教授によると、セクハラをする人には3つの共通した特徴があるという。
3つとは、「共感力の欠如」「伝統的な性別の役割分担を信じていること」「優越感・権威主義」。
会見に出席した相模女子大客員教授の白河桃子さんは、「この3つの特徴を持った人が、実際にハラスメントをするかどうかは、それが許される環境かどうかがそれを許すかどうかにかかっている」と指摘する。
ドワンゴの夏野社長も、次のように強調した。
「だからこそ、システムとしてどう防ぐか。経営の強いコミットメントと、ハラスメントをしたらこういう対応をするよ、と社員にメッセージを発信しなくてはいけない。ゼロ宣言は、社外に対してだけでなく、社員へのメッセージになると思っています」
「ゼロ宣言」をしてもゼロにすることは難しい。この矛盾について、小島慶子さんは「就活セクハラがなぜ起きたのか、どう対応したのか、何が課題なのかをシェアするための善意の力を貸して欲しい」と企業に対して呼びかける。
ゼロにすることができなくても、共有された課題を他山の石として、ハラスメントを減らしていくことはできるはずだ。さらに、メディアに対してもこう訴える。
「(ハラスメントが起きた時に)けしからん、と叩くのではなく、知見をシェアして、よりハラスメントが起きにくい環境を作るためにメディアの皆さんの力を貸してください」
夏野さんも「何かが起きた時に叩かれれば、ゼロ宣言なんてしない方が無難だと言われてしまう。そうなれば問題は解決しない」と語った。
悩みを投稿 → 誰かが代わりに声を上げてくれる 相談サイト「キュカ」はなぜ生まれた?
被害者をサポートする仕組みも新たに登場している。
ハラスメントや差別に関する相談サイト「QCCCA(キュカ)」を立ち上げた片山玲文(れもん)さんも会見に出席し、「安心して声を上げることができる場所をオンラインで作る。勇気を出して声を上げ、悩みをシェアすることで、世の中が良くなっていくという成功のサイクルを回していきたい」と話した。
「キュカ」のを運営する株式会社キュカの社長のウ・ナリさんとプロデューサーの片山さんは、元ヤフーの社員で、「Yahoo!知恵袋」の立ち上げメンバーでもある。
「Yahoo!知恵袋」では、他人をバッシングしたり侮辱するコメントが投稿されることも少なくない。法律に違反していなければ、表現の自由の点から企業が勝手にコメントを削除することはできない。2人はこの点に葛藤を感じていたという。
さらに、ウさん自身が管理職になると、ハラスメントの相談を受ける機会も多くなった。
「別の企業に勤める友人たちに聞いても、ハラスメントなんて普通によくあるよ、と言うんです。よくあるけど、みんな言わないんだよ、と。私自身も管理職として相談を受けていて、声を上げにくい仕組みがあることが分かりました」
「職場のハラスメントでは、解決しようと思ったら相談したことが相手にバレてしまう。同僚たちの反応に傷付くこともあります。『不利益になるかもしれない』という恐怖と、『どうせ何も変わらない』という無力感が声を上げづらくしているんです。安心して声を上げられる仕組みが必要だと感じました」
キュカの特徴は、ユーザーとサイトの間に「キュカッチ」と呼ばれる10人弱のボランティアスタッフが存在することだ。
ユーザーが悩みを投稿しても、すぐにはサイトに反映されない。キュカッチだけが見ることができるタイムラインに表示され、「この悩みに寄り添いたい」と共感したキュカッチが、代理でサイトに悩みを投稿する、というスタイルになっている。
投稿された悩みに対してコメントする場合も同様だ。
ユーザーがコメントを投稿した時点ではサイトに反映されず、キュカッチが承認したコメントのみがサイトに表示される。匿名性が担保されるうえ、相談してもバッシングされることがない仕組みになっている。
さらに、集まった悩み相談をビッグデータとして活用する展望もある。
悩みの投稿者には、いつ、どこでハラスメントを受けたのか。どんな対応をされ、本当にどんな対応を望んでいたのか。大学名や企業名とともに聞き取り調査も行う。集まったデータを分析し、フィードバックすることで、企業や大学に改善を促すことができる。
キュカは2月下旬にサイトがオープンし、これまでに約300件の相談が寄せられている。
就活ハラスメントをめぐっては、大林組や住友商事の社員がOB訪問の女子大学生にわいせつ行為をしたとして逮捕されるなど、被害の深刻さが可視化されてきた。だが、キュカに寄せられた相談内容は、実被害がなくても「不快に感じた」というものが多い。
小島さんは「キュカは、告発サイトではなく、相談サイト。『こんなことを聞かれたら脅威を感じる人もいるんだ』『こういうのは侮辱されたと感じるんだ』ということを、具体的なケースから学べる場でもあります。相談内容が可視化されることで、必ずその声が次の世代の被害を生まないことにつながります」と期待を込めた。