優しい性格の息子の突然の変化、その影にインフルエンサーあり
我が家には4歳になる男の子がいて、保育園に通わせています。園への送り迎えはボクの担当。そのため園児たちの生態を日々見ているのですが、その小さなコミュニティはまるで大人社会と同じだなあと驚くことがあります。
例えばウチの4歳児くんの性格はとてもやさしく、お友だちとの争いごととは縁遠いものでした。『おさるのジョージ』や『きかんしゃトーマス』を愛し、「これ、かわいい~」とミッフィーのぬいぐるみをおねだりしてくるほどです。
そんな彼が3歳になった時、保育園を転園することになりました。
すると、やさしかった息子が、突然「ぱんち!」「きっく!」と、戦いごっこを始めるようになったのです。よくよく本人に聞いてみると「ひろくんが、『かめんらいだーがかっこいい』っていうの」「ぱぱ、ひろくんがゆってたんだけど、『○○れんじゃー』ってしってる?」と言います。転園先で知り合ったヒロくんに大きな影響を受けているようでした。
いってみれば、ウチの息子にとってヒロくんは、フォロワー100万を超えるインスタグラマーのような存在。つまり〝インフルエンサー〟だったのです。
そのためか、大好きだった「トーマス」や「ジョージ」のTシャツを「もう、はずかしい」と言って、着なくなってしまったのでした。そんな姿を見て、トーマスやジョージを「赤ちゃん向け」、ヒーローものを「お兄さん向け」と理解していることに驚きました。しかしそれ以上に、「じょーじ、かわいい」と言いながら着ていたTシャツ姿が見れなくなることに、やはり寂しさを感じたものです。
さらに「ぱぱ、ひろくんはこーらがのめるんだって」と言った翌日には、飲めない炭酸飲料を口にするまでになりました。「さいこう!」と言いながらも、その喉ごしにしかめっ面をしてはいましたが…。そんなムリをしてまでヒロくんと同じことをしようとする息子を見て、「こいつ、本当にヒロくんが好きなんだな」と痛感しました。イチローに憧れて、そのバッティングフォームを真似る。その最初の体験を、彼は今しているのです。今ドキな感じでいえば、似合おうが似合うまいが、インスタグラマーと同じスカートを買い求める女子と同じ心理状態なのでしょう。
保育園で“バズ”ったら、何が起きる?
子どもが突然、「うんこ」「ちんちん」と言い初めて、びっくりした経験がある人もいると思います。これもきっと、保育園で誰かが言い出したものを、「その発想はなかった!」「面白い!」とまわりの園児たちに広まっていき、大人の世界で言うところの“バズる”と言う現象が起きているのです。近い将来、「こんどのえんそくのばしょ、ろーんちされたよ」なんてことを言い出す園児が出てくる日も遠くないでしょう。
「うんこ」「ちんちん」で笑わない子どもはいません。我が家の場合、僕が率先してそういった言葉を言って、息子を笑わせることもあります。「何て教育によくない……」と思われる方もいるでしょう。しかし言葉は生き物ですし、それを子どもが「面白い」と思うなら、しゃーない。息子はまだ4歳ですから、言葉遊びに制限をかけるのはまだ早い。しかし息子が差別的だったり、人の心身を揶揄するような物言いをしたら、僕は叱りつけます。子どもが何でもおもしろがるのは仕方がないとしても、その線引きは親が教える必要があると思います。
さて先日、園のお迎えに行ったときのことです。うちの息子は、お友だちのチカちゃんに「あたしのおてふき、もってきてー」と言われていました。すると彼は「はーい!」と答え、嬉々として、チカちゃんのお手拭きを持ってきてあげていたのです。自分のお手拭きやタオルは自分でカバンにしまうのが、保育園でのルール。それなのに息子は「お手伝い」とカン違いしてるのか、うれしそうに語尾を上げながら「はーい!」と言っている…。やさしい性格なのはいいことなのですが、コキ使われてる姿に親として忸怩たる思いを抱いてしまいました。ですが、そこでハッ! と気づいたのです。もしかしたら、息子はボクのマネをしているだけかもしれないと。
息子にとって保育園のクラスは、家族にも似た仲間
というのも、ボクは結婚して以来14年間、ほぼほぼの家事と育児をこなす兼業主夫にしてワンオペパパをしています。洗濯ものを畳むのも、夕ご飯を作って食卓に並べるのもパパの役目です。
そんなボクの姿を見てきた息子は「性差による役割」という意識が芽生えなかったのでしょう。家庭内における男女の役割分担にとらわれない、とてもフラットなモノの考え方がいつの間にか身についていたのかもしれません。
ですから、お友だちのチカちゃんに言われるがままになっているかのように見えても、息子にとって保育園のクラスという「小さなコミュニティ」は、家族にも似た仲間たち。息子は園で決められた「お手拭きやタオルはそれぞれ個人で片づける」というルールがよくわかっていないため、「家族・仲間が困っていたら、率先して助けている」だけなのかもしれない。
保育園での息子を日々見ながら、そんなふうに思ったのです。
なにせ、ある日の朝には女の子のお友だちが髪を結わいているリボンを直してあげている姿を見かけたほどですから。
そのせいかウチの息子は、よくモテます。先日も「今日は園でどんな遊びをしたの?」と聞くと、「おひめさまごっこ」と息子。どんな遊びかさらに聞いてみたところ、「ふたりのお姫様が、王子様に扮した息子を取り合う遊び」だと言います。羨ましい(笑)。
とにもかくにも、保育園や子どもの小さなコミュニティは大人社会の映し鏡。だからこそ、全ての大人は、こう誓うしかありません。「下手なことは、できねえぞ」と。
■村橋ゴローの育児連載