岩波書店は5月13日、深井智朗氏の著書『ヴァイマールの聖なる政治的精神──ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』を絶版にして、可能な限り回収すると公式サイトで発表した。
この本の第4章で神学者カール・レーフラーという人物や、レーフラーが著したとされる論文が紹介されていた。しかし、東洋英和女学院の調査委員会が調べた結果、いずれもその存在を確認できず、深井氏の捏造であると認定された。その他にも他の著作物の盗用なども認められたという。
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この本は2012年に刊行されたが、捏造疑惑が浮上していた2018年10月に出品停止にしていた。岩波書店は今回の調査結果を重く受けとめ、著者に連絡した上で絶版にしたという。
岩波書店が掲載した「謹告」の全文は以下の通り。
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謹告(深井智朗氏『ヴァイマールの聖なる政治的精神』ほかについて)
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小社が2012年5月に刊行いたしました深井智朗氏の著書『ヴァイマールの聖なる政治的精神──ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』(以下、本書)を、絶版とし、可能な限り回収することを、本日、社として決定いたしましたので、謹告いたします。
2019年5月10日に公表されました東洋英和女学院大学調査委員会の報告書(以下、報告書)によりますと、本書には、研究上の不正行為にもとづく記述が含まれていること、具体的には、本書の第4章で紹介されている神学者カール・レーフラーなる人物、およびその人物が著したとされる論文は、いずれもその存在を確認できず、深井氏による捏造であると認定されました。
また、本書の197頁から198頁にかけての記述は、他の著作物の一部と似通ったものであることが指摘され、当該箇所は、深井氏による盗用と認定されました。
さらに、同報告書によりますと、『図書』2015年8月号に掲載しました、同氏による論考「エルンスト・トレルチの家計簿」には、存在を確認できない資料に依拠した記述が含まれていることが、認定されています。
小社は、すでに昨年10月、本書を出品停止にしておりますが、同報告書の判断を重く受けとめ、著者深井氏に連絡のうえで、本書を絶版とすることといたしました。
本書につきましては、送料小社負担にて回収させていただきます。既にご購入いただいた方は、誠にお手数ですが、下記の小社読者係まで、本書を小社着払いでお送りくださいますようお願いいたします。ご返品を受領し次第、現金書留にてご返金させていただきます。
この度は、読者のみなさまのご信頼を著しく損なうこととなり、また多大なご迷惑をおかけいたしましたことを、衷心よりお詫び申し上げます。
2019年5月13日
岩波書店
(ご返品送付・連絡先)
〒101-8002 東京都千代田区一ツ橋2-5-5 岩波書店営業部「読者係」 電話03-5210-4111