“性暴力”で相次ぐ無罪判決に被害者団体がNO 刑法の見直しを求め法務大臣へ要望

「同意がない」と認定されながら、無罪となる性被害の判決が3月、立て続けに起きていた

性被害をめぐる公判で、3月に無罪判決が相次いだ。

これらの判決はいずれも被害の実態を踏まえずに、刑法の要件によって無罪と判断されているとして、性暴力の被害者や支援者らでつくる一般社団法人「Spring」が5月13日、刑法の見直しなどを求め法務省と最高裁判所に要望書を出した。 Springが同日の会見で明らかにした。

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性暴力の刑法見直しについて法務省などに出した要望の内容を説明するSpringの山本潤・代表理事(中央)=2019年5月13日、東京・霞が関の司法記者クラブ
Huffpost japan/Shino Tanaka

 法務省に対しては、被害者が抵抗できたように思えるような状況でも、抵抗できない場合があることは心理学的、精神医学的に証明されているとし、強制性交では「暴行または脅迫」などが証明できないと罪に問えないとしている刑法の見直しを要望した。

対応した山下貴司法務相は「レイプは魂の殺人。今後も実態について調査研究を進めていく必要がある」と答えたという。

また、最高裁には裁判官などへの研修を求め、虐待を受ける子どもが裁判に出向かなくても、司法面接を実施し、ビデオ証言が証拠として認められるよう求めた。

最高裁の担当課は研修をすでに実施しているとして「持ち帰って関係部局と検討する」と返答したという。

強制性交等致傷罪や父親からの性的虐待、準強姦罪公判の無罪判決が続いている 

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イメージ写真
Michał Chodyra via Getty Images

 3月12日、福岡地裁久留米支部では、女性が飲食店で深酔いして抵抗できない状況にあるなか、性的暴行をしたとして準強姦罪に問われた会社役員の男性に無罪を言い渡した。

判決文によると、裁判所は女性が「抵抗できない状態だった」と認めながら女性が目を開いたり、声を発するなどしたため「女性が許容していると被告が誤認してしまうような状況」と判断。「女性が拒否できない状態であったことは認められるが、被告がそのことを認識していたと認められない」とした。

続く19日には、静岡地裁浜松支部で、被害者が「頭が真っ白になった」などと供述したことから、女性が抵抗できなかったのは精神的な理由だとして「被告から見て明らかにそれとわかる形での抵抗はなかった」と認定。

強制性交等致傷罪に問われたメキシコ人男性は無罪を言い渡された。

名古屋地裁岡崎支部の判断も、疑問の声が多く沸き起こっている。

3月26日、中学2年生のころから父親によって性的虐待を受けていた女性(19)の被害をめぐって、判決公判があった。

2017年8、9月の性交に対し、長女が「性交に同意していなかった」と裁判所は認めたものの、拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を招くようなものではなく、従わざるを得ないような強い支配、従属関係だったとまでは言えないとして、父親は無罪となった。

これらの判決に対し、Springの山本潤・代表理事は記者会見で「とても被害当事者として納得できない、苦しい気持ちを抱えている」と憤りを見せた。

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山本潤さん
Huffpost japan/Shino Tanaka

 2017年の刑法改正では盛り込まれず。2020年の「見直し」へ期待

2017年6月、性犯罪に関する改正刑法が国会で可決・成立した。

実に110年ぶりの改正だった。性暴力の被害者について男性も含まれるようになり、強姦罪の法定刑の下限は3年だったが、5年に変わった。

被害者の告訴がなくても起訴できる非親告罪となり、18歳未満の人に対し、親などの監督・保護する立場の人がわいせつな行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰されることになった。

だが、名古屋地裁岡崎支部の事件では、父親から性交をさせられた女性が19歳だったことから、「18歳未満」に限定されていた性的虐待の処罰の対象にはならず、法の網目から抜け落ちてしまった。

山本さんは「父親からそういうことをされること自体が、すごい驚きでもあるし、育ててくれている人であって拒めない。抵抗できないほどの状況であったことが認定されなかったということ自体がありえない」と話す。

そしてこの判決について「これまでの判例に引きずられていると思った。完全に支配されていないから抵抗できただろうとなると、同意がなくて被害を受けていても罪とならない」と説明したうえで、被害者のおかれる立場をこう説明した。

「性暴力被害者の半分がPTSDになり3割がうつ病になるという統計がある。長い期間、心身の回復に時間を要するにもかかわらず、法律の条件によって罪としても認められず起訴もされない」

そして、現在の刑法の状況を「非常に社会的な問題ではないかと思う」と訴え、2020年に実施される可能性のある刑法の見直しを強く求めた。

一般市民からも判決に疑問の声、「見直し」要望に3万筆以上の署名

立て続く無罪判決には、被害当事者だけでなく一般市民からの疑問の声もあがっている。

判決を伝える報道が出てから、Twitter上では「放置しておけない問題」「性犯罪を軽視しないでほしい」といった、司法と一般社会との感覚のずれを指摘するツイートが多くみられた。

また「被害者だって殺されるかもしれない状況じゃ大人しくしてるしか選択肢は無いと思う、なのにそれが同意と捉えられるとか。脅迫だと罪になるのにおかしい。ぜひ法改正をしてほしい」といった「暴行・脅迫」要件に対するコメントも相次いだ。

一方で、判決への疑問の声に対し弁護士などの司法関係者から「一部ではなく判決文を見て判断すべきだ」「証拠を見ないと分からない」という冷静な判断を促す意見もあった。

こうした声を受け、4月26日からは同意のない性行為の犯罪化など、刑法の見直しを求めるネット署名も始まった。

5月14日午前の時点で、3万筆を超える署名が集まっている。