2月14日に全国で一斉に提訴された「結婚の自由をすべての人に」訴訟。各地で第一回の口頭弁論が行われ、いよいよ次回からは国の反論が出てくるフェーズに入る。
訴訟に並行して、弁護士を中心に同性婚法制化の実現に向けて設立された団体「一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」が、5月3日にイベント「しゃべろう同性婚第1弾~世の中の不安や疑問の声と対話しよう」を開催した。
同性婚を認めるか認めないかというアンケートに「複雑な気持ち」
前半は「結婚の自由をすべての人に」訴訟弁護団の弁護士や原告から、東京訴訟の第1回口頭弁論について報告があった。続いて「しゃべろう同性婚 ミニトーク」と題して、同性婚について異なる3者の視点から同性婚について議論が行われた。
タレントの一ノ瀬さんはレズビアンであることを公表し、2015年に同性パートナーと挙式した(その後2017年に解消)
「行政書士に相談して公正証書を作ろうとしたら、婚姻届に比べて保障される割合がかなり低いものしか作成できないことが分かりました。しかも(婚姻届はお金がかからないのに、公正証書には)だいぶお金がかかります。時間もお金もかけて行き届かない証書を作成することに疑問を持ち、そもそも同性同士で婚姻できないのはおかしいと思い、挙式にあわせて婚姻届を提出しました。そして不受理と言われ、理由を知るために証明書を発行してもらいました」
最近「同性婚を認めるか認めないか」というアンケートを見かけることが増えてきて「複雑に感じている」という一ノ瀬さん。
「そもそもなぜ自分の婚姻に対して他人が認める、認めないという話になるんだろうと思うんです。周囲の人たちは好意的に私たちのことを見てくれますが、ネット上の人たちから『同性婚は認められない!』などと言われて複雑な気持ちです」
寺原さんも「同性婚に賛成か反対かという聞き方をすると、まるで個人の結婚の自由を奪う権利を社会が持っているかのような誤解を生む可能性があります。アンケートを取るのであれば、『同性婚を認めることであなたは何か具体的な不利益を被りますか?』という形にした方が良いと憲法学者の木村草太さんは以前に仰っていましたね」
同性婚ができないことは企業にとっても損失
AlliesConnect代表の東由紀さんは、もともと大手投資銀行のリーマン・ブラザーズに勤めていたが、2008年の経営破綻により会社が野村證券に買収され、同社に移ることになった。
「移って1年くらい経った頃に、突然人事から『LGBT社員ネットワークのリーダーになって』と言われたんです」
理由は、LGBTの社員グループがあるリーマン・ブラザーズから移ってきたからだという。
「経営破綻後に当事者の社員がどんどん会社を辞めてしまい、グループのリーダーが不在の状態でした。私はLGBTの当事者ではなかったし、関心があったわけでもなかったので、私にできることがあるのかと疑問でした」
しかし、東さんは人事から声がかかった際、LGBTを取り巻く会社の状況について「ある疑問を覚えた」と語る。
「当時、日本には社員が10,000人以上いたのに、誰もカミングアウトしている人はいないと人事から聞きました。私は高校と大学をアメリカで過ごしましたが、もちろん知り合いに当事者の人がいたし、会社でもカミングアウトして働いている人はいました。
問題は周りにいる人たちや環境のせいではないかと思って。また別の外資系企業の人から『ALLY』という概念を教えてもらえたのもあり、じゃあ私がやる意味があるなと思いリーダーを引き受けることにしました」
現在は別の外資系企業で人材開発の仕事を担当しながら、LGBTについて当事者や実務家、研究者をつなげる橋渡しをしたい、とAlliesConnectを立ち上げた。
「企業で人事の仕事をしている身として同性婚について考える時、一番大きな問題は、海外で同性婚をした社員が日本で勤務する際に配偶者ビザが下りないことです。
例えば、アメリカに駐在することになった日本人が現地で出会った人と同性婚をして、その後日本に帰国することになった場合、日本では配偶者ビザは出ません。
実際にいくつかの企業では同様の問題が起きていて、配偶者を連れて日本に帰る場合に(短期滞在である)観光ビザで行き来する費用を企業が負担することもありますし、帰国を拒んだり、退職したりするケースもあります。日本が同性婚を法制化しないことで、企業には人材活用やコストの面でかなりのロスが生じている認識が必要です」
ただ一緒に住めば結婚ではなく、それより深い意味がある
声優でマルチクリエイターの三ツ矢さんは「今は65歳の独り身ですが、(もしパートナーができて)その人が結婚を望んでいれば私が65歳でも70歳でも結婚したいと思います。そんなことよりもはやく相手が欲しいですが(笑)」と話す。
一方で、身近な友人を通じて同性婚の必要性を感じる機会も経験したという。
「あるレズビアンの友達は、パートナーが不治の病にかかってしまい、友人の方がずっと介護をしていました。パートナーの親戚には、彼女が30年前にレズビアンであることをカミングアウトしていたそうなんですが、その時に家族も親戚もどこかにいなくなってしまい、一度もお見舞いに来ませんでした。
でも、そのパートナーはとてもお金を持っていたから、亡くなってしまったあと遺産目当てに親類が集まってきて、介護していた私の友人は蚊帳の外だったそうです。
彼女は私に『手術の時も病室には入れなかったし、許可をとるのも親戚じゃないとダメと言われて、頭を下げないと何もできなかったことが辛かった』と話しました。たかが紙切れ一枚、されど紙切れ一枚。ただ一緒に住めばそれが結婚ではなく、それより深い意味があるんですよね」
2月14日に提訴された「結婚の自由をすべての人に」訴訟について、一ノ瀬さんは「そもそも性別関係なく結婚ができれば訴訟を起こす必要はないですよね」と話す。
「原告のカップルは大変だと思います。お金を請求しないと訴訟を起こせないのに、ネットでは『金儲けが目的だろ』と心無い言葉を投げかけられたり、そんな中よくやってくださっています。訴訟が途中で終わってもかまわないでしょうから(同性婚が)早く立法化されて欲しいですね」
同性婚に対する懸念や不安をどう乗り越えるか
イベントの後半は、参加者どうしで同性婚に対する懸念や不安をどう乗り越えるかについての議論をワークショップ形式で行った。
まず、同性婚についての不安や周りの人たちから聞いたネガティブな意見があげられた。例えば「同性カップルの子どもが学校でいじめにあってしまうのではないか」といったものや、「そっとしておいて欲しいという当事者の意見」「やっぱり同性婚って『ふつう』じゃない」などだ。
それらに対して、どう乗り越えるかを各グループでディスカッションし、さまざまなアイデアが発表された。
「そっとしておいてほしい」という当事者の意見について、同性のパートナーと生活をしているというあるグループの参加者は「私は10年前にゲイの方と友情結婚をしていました。
自己肯定感も低かったので、パレードをやっている人がまぶしかったし、LGBTの話題を世の中で広めないで欲しいと思っていました。親や同僚が見ているかもしれないから、(LGBTがテーマの)ドラマも増えて欲しくないし、今でも(同性婚の)訴訟の原告の人たちがキラキラしているように見えていたかもしれないし、訴訟自体やって欲しくないと思っていたのではないかと思います」
しかし、今は訴訟を応援しているというその参加者は「やっぱり否定的な人との対話を増やすことが大事だと思います。インターネット上ではなくリアルで話せばあまり否定はしないのではないかと思います」
そのためのアクションとして、例えば「ひとり三人に話そう」というアイデアが出された。
これは、インターネット上では相手の顔が見えない状態で、否定的な言葉を投げあってしまうことが多いことから、「人と直接会話すれば、いきなり否定はしづらいと思うんです。だから肯定的な意見も否定的な意見も交えて議論するために、『ひとり三人に話そう』というアイデアはどうかと思いました」
当事者であることをオープンにして、周りの人たちと議論をすることは、セクシュアリティがバレてしまうという懸念もある。
別の参加者からは「(セクシュアリティをオープンにしていない当事者で)なかなか表立ってLGBTイシューについて話せないと思ったときは、ALLYのフリをして『この前LGBTのパレードやってたみたいですね』と『ALLYのフリ』アクションをするのはどうかなと思いました」というアイデアも出された。
特別な教育としてプラスするのではなく、今の教育の中に取り入れていく
同性婚や、そもそもLGBTの存在自体を「ふつうじゃない」と言われてしまうことはまだまだ多い。
例えば、あるグループでは、子育てをする同性カップルに対して「同性カップルの子どもが学校でいじめられてしまうのではないかという不安がある」という意見がでた。
「『知らない』ことからくる偏見に対しては、学校教育の中で自然と同性カップルについて触れてもらうのが良いのではないかと思います。
例えば道徳の授業で同性カップルについて取り上げるのではなく、英語や国語などの単元の中で、同性カップルが出てくるものを題材として取り上げるなど、特別に今の教育にプラスするのではなく、今の教育の中に取り入れていくのが良いのではないかと思います」
他にも、絵本やアニメ、漫画、映画、CMなどに出てくる登場人物の中に、例えばとなりの家に住む親として自然とレズビアンカップルが描かれるといったコンテンツが増えることを期待したいという意見もあった。
別のグループでは、九州で実際に同性カップルで子育てをしている当事者の方が自身の経験を共有した。
「私は子どもができてから周りには(セクシュアリティや私たちの関係について)オープンにしています。学校で別の子どもに『お父さんは?』と聞かれて、『お父さんはいなくて、お母さんふたりで育ててるんだよ』というと『はじめて知ったー!』と言われたり。学校の担任の先生にも伝えたところ『うちのクラスの子たちは幸せです、多様な見方ができる子が育ちますから』と言われたのが嬉しかったです」
対話のアプローチを全国へ
他にも、同性婚に対するネガティブな意見について、さまざまな議論が行われた。ある参加者は「原告として前に立たれている方々は、特別な人たちではなく、その背後にもたくさんの当事者がいて必ずしも同性婚について賛同していわけでありません。
そもそも今の結婚制度を同性に適用させるよう求めるのではなく、例えば同性婚ができてから、フランスのPACSなどのような、結婚とは違うパッケージとして作っていくということも進めていってもらえたらと思います。
結婚が全て正しいかというと全然違うし、結婚はしなきゃいけないものではなく、してもしなくても良いもの。同性婚訴訟というと『結婚しなきゃいけない』という印象を与えるかもしれませんが、大事なことは『お互いの選択を尊重しよう』ということだと思います」
最後に、司会を担当した弁護士の中川重徳さんは「ツイッターなどを見ていると『同性婚なんて認められない』という声もあり、壁を感じてしまうこともあります。でも、今日参加してくれたみなさんの議論を聞くと、つながるためにできることがもっとあるんだなと感じました。
今日いっぱい話せてよかったねで終わらせず、今日出たアイデアの中から、ぜひ自分にあうものを実践して欲しいと思います。そうすれば、訴訟の判決を待たずに同性婚を実現できるかもしれません」
「一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」(略称:マリフォー)代表理事の寺原さんは「私はマリフォーの代表としてキャンペーンに注力していますが、普段は弁護士として「闘う」ということに慣れているので、当初は、正しいことであれば訴訟で闘って最高裁で勝てば足りるという気持ちもない訳ではありませんでした。でも、今日の皆さんの柔軟な議論を拝見して、対話というアプローチはやはりとても重要だということが再確認できました。
法律上同性同士の結婚が認められないことによる苦悩を抱えている人々は日本各地にいます。今後、今日のような対話型イベントを全国キャラバンの形でやっていきたいと思っていますので、ぜひ一緒に盛り上げていっていただけたら幸いです」
「一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」では、同性婚について気軽に話す場として、広く同性婚への関心を集める「しゃべろう同性婚」キャンペーンを全国で展開する予定だという。
そのための費用を集めるため、クラウドファンディングを通じて5月15日の23時まで支援を募っている。
(2019年5月8日fairより転載)