『プリキュア』が国際女性会議で取り上げられた。「自立した女の子」像を描いて15年

初代プロデューサー・鷲尾天さん「15年前に掲げたメッセージを、今こうして話し合えることが嬉しい」
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人気アニメ「プリキュア」の初代プロデューサー・鷲尾天さん(東映アニメーション執行役員)が、3月23日に都内で開かれた「第5回国際女性会議WAW!」にパネリストとして登壇した。報道、広告・PR、アニメなどのコンテンツでは近年、ジェンダーや価値観の多様性への配慮が求められるようになっている。約15年前の放送開始以来、一貫して「自立した女の子」像を発信してきたプリキュア。人々の固定観念に挑むコンテンツの一例として、国際会議で紹介されることとなった。

鷲尾さんが登壇したのは、「多様性を育てるメディアとコンテンツ」と題したパネルディスカッション。グアテマラのサンドラ・エリカ・ホベル・ポランコ外相、クロアチアのマリヤ・ペイチノビッチ・ブリッチ副首相兼外務・欧州問題相らも名前を連ねた。

 

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© 2019映画プリキュアミラクルユニバース製作委員会

 「プリキュア」は2004年に放送が始まった女の子向けのアニメ。女の子が「プリキュア」という戦士に変身して敵と戦う基本設定は踏襲しながら、シリーズごとに登場人物や物語の設定が「代替わり」するスタイルで、15年間にわたり親しまれてきた。2019年2月からは、第16作目として「スター☆トゥインクルプリキュア」が放送中だ。

鷲尾さんは「15年前に立てたテーマは、女性の主人公が自分の足でりりしく立つことでした。そして今、このテーマについて皆さんと話し合えるのが嬉しい」とあいさつした。

プリキュアが打ち出し続けてきたメッセージの一例として、09年公開の劇場版「映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!」の一部も上映された。

「自分たちが好きなものや、自分たちが大切に思っていることを伝え合うのが、とっても楽しいの!」「なぜだか分かる? それは、みんなそれぞれ、違うから!」「違うみんなが、それぞれの力を持ち寄ったら、もっと大きな力になれる!」――。巨大なモンスターに、そう叫びながら立ち向かうプリキュアたち。鷲尾さんによると、このモンスターは当時、グローバル化によって「何でも画一的に一つにしようとする力」をモチーフに着想されたという。それに対して、プリキュアたちは一人ひとり異なる個性を持ち、その「違い」を互いに認め合いながら力を合わせる。

鷲尾さんは、現在のように多様性というテーマが注目される時代になるとは「全く意識していなかった」と振り返った。「監督やスタッフと話をする中で、『きっと正しいはずだ』と思うメッセージを掲げた。子どもが分からなくても、10~20年後に『こういうことだったんだな』と思ってもらえたらそれでいい、という気持ちだった」。

また、当時の女の子向けアニメについて「女の子らしくあることがテーマの作品が多かった」と言及。「それは違うんじゃないか。女の子たちが自分で物事を解決していくべきだ」と初代の西尾大介監督と話し合ったことが、シリーズ制作の原点になったと明かした。

 

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「国際女性会議WAW!」提供

 

「女の子らしさ」などジェンダーをめぐる固定観念は、世界的に今なお問われ続けている課題だ。ディスカッションでは海外の事例として、パネリストの一人であるP&G韓国代表のバラカ・ニヤジーさんから、企業が主体となって発信した広告キャンペーンも紹介された。

そのうちの一つ、「#ShareTheLoad(シェア・ザ・ロード)」は、女性の社会進出が進むインドで、P&Gの洗濯洗剤ブランド「アリエール」が実施したキャンペーン。

 

 

この動画は、息子の身の回りの世話に手を焼く母親のもとに、娘から「仕事を辞めることにした」という電話がかかってくるという内容だ。退職理由は、夫が家事をしないこと。母親は「私たちは息子にも、娘に教えたことを教えているだろうか」と問い掛ける。メッセージ性の高いこうした動画をきっかけに、SNS上でも「家事は男女で分担しよう」という議論が盛り上がったという。

性差別など世の中の固定観念を打ち破る手法として、メディアやコンテンツの作り手がまずメッセージを発信し、人々を巻き込んで「会話」を生み出していくことは有効だ。バラカさんは「キャンペーンに対してネガティブな反応も生まれるのは予想していた。それでも発信したものに信念を持っていれば、ポジティブな流れに変えていける」と力を込めた。

「プリキュア」は、前シリーズ「HUGっと!プリキュア」で男の子のプリキュアを誕生させて話題を呼ぶなど、固定観念に立ち向かう姿勢を持ち続けている。もちろん賛否両論はあったが、「女の子らしさ」や「男の子らしさ」について、みんなが考えるきっかけになった。多様であることが当たり前になったこの社会で、誰もが納得する「正解」を見つけることはとても難しい。それでも、発信する側が「きっと正しいと思うこと」を投げ掛ける信念と勇気を失わなければ、社会をもっと自由にしていけるのではないか――。国や立場の違いを超えて、それを確かめ合うセッションとなった。

(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:泉谷由梨子@IzutaniYuriko