「最高裁まで上がってこいというメッセージだ」青野慶久氏が控訴へ 夫婦別姓訴訟

「私が裁判官だったら、こんな一生に一回のチャンス、自分で考えて論理的に判決文を書くと思うんですけどね」サイボウズの青野慶久社長が痛烈な皮肉
|
Open Image Modal
判決後、記者会見する青野慶久社長
kasane nakamura

「原告らの請求をいずれも棄却する」━━。

主文の読み上げだけで終わった、サイボウズの青野慶久社長らの夫婦別姓訴訟。法廷に入る直前までは「期待している」とにこやかだった青野社長は、口を真一文字に結んだまま席を立った。

判決後に開かれた記者会見で、青野社長は「司法にロジックが通じないとは…」と残念がった。作花知志弁護士も「我々の証拠は何も採用されず、何の根拠も示さずに主張だけしている国側の言い分が採用された。論理的におかしい」と語り、控訴する姿勢を示した。

「私が裁判官だったら…」

わずか1分足らずで終わった判決時の気持ちについて、記者から尋ねられた瞬間だった。

隣室に立てかけられていたパイプ椅子がガラガラと音を立てて崩れた。青野さんは少し笑って「こういう気持ちです」と答え、痛烈な皮肉を繰り出した。

「こうガラガラと崩れるような気持ち。論理的に考えれば違憲なのに、そこのロジックがスルーされてしまった。司法の場では、感情的ではなくて論理的に判断されると信じていたが、残念ながら判決文を読む限りではそれがなされていなかった」

「私が裁判官だったら、こんな一生に一回のチャンス、自分で考えて論理的に判決文を書くと思うんですけどね」

「時代のニーズに合った判決が欲しかった」

今回の裁判では、日本人同士の結婚だけ夫婦別姓を選べる制度がないのは「法の下の平等」を求める憲法に違反すると主張して戸籍法に着目した。

夫婦別姓を認めない民法の規定が違憲かどうかを問うた2015年の夫婦別姓訴訟とは視点を変えて臨んだ裁判だった。だが判決文では、外国人との結婚で2つの氏が選べるのは特例であり、「法律上の氏は一つ」と繰り返し、青野社長側の主張を全面的に却下した。

青野社長は「(判決文にある)マイナンバーに旧姓を併記できるように認められる、というのは、実際に氏が二つ使えるということで矛盾している」と反論。

作花弁護士も「裁判所も今では旧姓で行政文書を書くことが認められている。法律上の根拠のない判決文は無効だと言われたら、どう反論するのか。時代のニーズに合った思い切った判決が欲しかったし、それに耐えうる主張をしたのに、答えていただけなかったのは残念だ」と無念さをにじませた。

「司法が国会に意見できないのは残念」

2015年の最高裁判決では、15人の裁判官のうち女性全3人を含む5人が「違憲」とし、国会での議論をうながしていた。だが、具体的な議論はないまま、司法は今回も「国の立法裁量に委ねられた問題」として国にボールを投げた。

これに対し、青野さんは「司法の立場から国会に意見できないという事実は残念だ」と述べ、「選択的夫婦別姓は家族観やイデオロギーの議論になってしまって残念だった。本来は日常的な困りごとを解決しようというシンプルな問題だ」と語った。

一方で、前向きな受け止め方もしている。

内閣府が2017年に行った世論調査では、「夫婦が希望した場合には別の姓を名乗れるよう法律を改正しても構わない」と答えた人は42.5%に上った。

東京都文京区は3月14日に「選択的夫婦別姓制度について国会審議を求める意見書」を国会に提出。青野社長は「訴訟を通じて世論が動いたという手応えを感じている」と自信を見せる。

「地方から国会に陳情や意見を出していく動きがあちこちで起こっている。。国会を動かせるんじゃないか」と期待をにじませた青野さん。「違憲判決は司法にとっても大きな意思決定だから、最高裁まで上がってこいというメッセージだと、ポジティブに受け取っていきたい」と、最後は期待をにじませた。

会見後には公式twitterを更新し、控訴する姿勢を表明。今年4月に行われる統一地方選や夏の参院選で「民意を示していきましょう!」と呼びかけた。