「自由に着られるのが嬉しい」18歳のトランスジェンダーが有楽町マルイにハマった理由

「売る場所という意識ない」百貨店が見出した新しい存在意義
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「居場所を見つけた!って思ったんです」

都内に住む18歳の唯さん(仮名)は、男性の体に生まれながらも女性の心を持つトランスジェンダーだ。

度々足を運ぶのは、東京千代田区にある百貨店「有楽町マルイ」のイベントスペース。性別や体型に関係なく着られる服や靴などを販売しているからだ。

「他の専門店と比べると品数は少ないけど、自由に着られるのが嬉しい」と話す唯さん。イベントが始まって数日だが、来店するのはすでに3度目。ここで購入したオレンジ色のパーカーをすっかり着こなしている。

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パーカーを手に取る唯さん
HuffPost Japan

 唯さんは、自分が女性の心を持つことを母親にしか話していない。普段は男性として日常を送っている。

一般的なアパレルショップでは「ぎり(男性が着ても)ありかな」と思えるレディースを購入して着ていたが、周りの目を気にせず、鏡の前でスカートを腰に合わせる女性たちが羨ましく見えたという。

イベントのことはTwitterで知った。初めて会場に来た時は、足を踏み入れることがそのままカミングアウトになりそうで「(頭が)訳わからなくなった」と戸惑った。しかし一度中に入れば「思った通りの場所だった」。

店員とも意気投合し、気づけば6時間以上居座ってしまった。記者が取材に訪れた日は、ようやくスカートに手が伸びた。人生初の試着。気になるデザインを2着試した。「楽しいなんてもんじゃないです」白い歯を覗かせた。

 

■ごちゃ混ぜの靴「売る場所という意識はない」

「有楽町マルイ」では約260平方メートルほどのスペースを丸ごと使用し、性別や体型に関係なく楽しめるスーツや靴、それにカジュアルウェアなどを揃えた。2月16日から3月3日までの期間限定の催しだ。

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ジェンダーフリーハウスの売り場
Fumiya Takahashi

男女の垣根に縛られず、誰でも着たいものを自由に着てもらうのがコンセプト。
パターンオーダーのスーツは身長145センチから190センチまで対応する。

靴も本来の男女用を区別せず、敢えてごちゃ混ぜにして壁に貼り付け、選んでもらうようにした。

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ごちゃ混ぜになった靴
Fumiya Takahashi

プロジェクトの責任者を務めるマルイの井上道博さんは「ネット通販に押され、リアルな店舗の存在意義が問われている時代。売る場所という意識はなく、いろいろな人が集まれる場所を作り出したかった」と狙いを話す。

マルイは、百貨店の力だけでは、性別にとらわれないファッションやライフスタイルを提供するのに限界があると考えている。

そこで、化粧品メーカーと提携し、会場の一角にどんな人でも自分にあったメイクを相談できるコーナーを設置。「化粧をしたことがないが、一から学びたかった」という人が多く訪れているという。

さらに、LGBTQの就職や転職を支援する会社の星賢人代表によるイベントも開催。

会場に集まった人たちに、他人の反応に怯えることなく自分をさらけ出せる環境を見つけることの大事さなどを説いた。

マルイにとっても初となるこの試みは、3月3日をもって一度終了する。トランスジェンダーの唯さんは「期間限定なので、来られるなら毎日来たいです」と意気込む。

責任者の井上さんは「今回のイベントにも賛否両論あったので、より進化したものを今後も打ち出したい。全然終わりでは無いですよ」と次回以降の計画があると明かした。