図書館と病院に何億円も遺贈したガソリンスタンド店員と父と株式投資

子供のころ、両親はよく株の話をしていた。父は安月給をコツコツと貯めそれを株や外貨に投資していた。母は家で着物の縫製の仕事をして僕と妹のために貯金をして、そのうちのいくらかを株に回していた。父は毎日、日経新聞とにらめっこして、証券会社に売りや買いの指示を出していた。母のほうはどうやら直感で勝負していたようだ。

子供のころ、両親はよく株の話をしていた。

父は安月給をコツコツと貯めそれを株や外貨に投資していた。

母は家で着物の縫製の仕事をして僕と妹のために貯金をして、そのうちのいくらかを株に回していた。

父は毎日、日経新聞とにらめっこして、証券会社に売りや買いの指示を出していた。母のほうはどうやら直感で勝負していたようだ。

一時、父の銘柄選びはうまくいったようで、証券会社の担当者が父にそのコツを訊ねに来たと、父が自慢していた。

バブルがはじける前までは、かなり良かったのだろう。

生涯安月給だったにもかかわらず、一戸建てをローンなしで買った。

僕も大学に行かせてもらえた。

会社員としてはずっと日陰にいた父が、無駄遣いを避けてお金を貯め、それを運用してそれなりの生活ができたのは、幸せなことだった。

質素な生活は子供の僕らも強いられ、たとえばほとんど外食したことはなかった。

どこまでもケチというわけでもなく、当初、国公立の大学以外には行かせる金はないと言っていたのに、一浪したあとには最悪の場合私立の大学でも良いと言ってくれた。

しかし、50年以上、そうやって節約して、質素な生活を送り、株式欄ばかり見て生きてきたので、父の頭のなかで「お金の量を示す数字」のもつ重みが、バランスを逸するほど重くなってしまったことは否めない。

それのことに認知症の傾向が拍車をかけているので、僕と妹が困り果てることがおきるようになった。

会社員としては恵まれなかった父を救ったお金、投資、株。

長い間、それは仕事では与えてくれない幸せと自信を父にもたらした。

しかし、その多くをリーマン・ショックで失ってしまった。

その時、精神的にも大きなダメージを受けた。

そして、いま手元に残っているものが、年老いた父をがんじがらめにし、1円減るたびに身を切るように父の幸せを切り刻む。

海外でこんな記事が話題になっている。 

Vermont Ex-Janitor Bequeaths Secret Millions to Library, Hospital (バーモントの管理人が億単位のお金を図書館と病院に遺贈)

記事によれば、2014年6月に亡くなったリードさんという年配の男性が、約1億3千万円を図書館に、約5億円を病院に遺贈したらしい。*1

彼は高卒で仕事はガソリンスタンドの案内や管理人をやっていたという。

慎ましい生活を送っており、中古のTOYOTAのYarisに乗り、暇があれば自宅の薪ストーブに使う枝を拾い集めたり、コインパーキングに使うお金がもったいないので遠くに停めて知人を驚かせたりするような人だった。

唯一の贅沢は近所のコーヒーショップでの朝食。それも、彼がお金を払えないのではと心配した誰かが彼の分まで払ってくれたこともあるという。

記事によれば、彼はそうやって節約したお金で株を買っていた。

毎日ウォールストリートジャーナルを読んでいた。

彼がそんな莫大なポートフォリオを運用しているとは、近所の誰も夢にも思わかなったという。

素晴らしい美談ではあるけれど、僕にはリードさんと父の姿がだぶって見えて仕方がない。

恵まれないキャリア。

節約と投資。毎日、チャートとにらめっこ。それを何十年。

同じように長期投資していても、日本はバブル崩壊で横ばい、アメリカはデコボコはあっても一貫して右肩上がり。

ふたりの明暗をわけたものは、銘柄の選択眼なのか、市場の長期傾向なのか。

先日、弱気と強気の波を繰り返す父から電話がかかってきた。

「株がもうだめだ、なんにもわからなくなった、全部、ひきとってくれ」と泣かんばかりである。

実家に帰って父が運用を書き留めているノートを見せてもらった。

たしかに、父のいうことは少し混乱しているが、メモや書き留められたことを総合すると、ちゃんと辻褄は合っている。

現物の売買だけなので、過剰なリスクもない。

残額は・・・・わずかなものだった。

僕はノートを押し返して、

「大丈夫だよ。ちゃんと辻褄あってるし、売りたい株はちゃんと売れて、お金は銀行にいってるみたいだよ。預かってもいいけど、頭の体操に、自分でやりなよ。ぜんぜん大丈夫、心配しなくても、いままでみたいにやれてるって」

もし父がリードさんのような資産をつくることに成功していたら、父はそのお金をどうしただろう。

より自分の財産を守ることに意固地になっただろうか。

それを僕や妹に残そうとしただろうか、それとも、リードさんのように公的機関に遺贈しようと思うのだろうか。

わからない。

ほんとうに、わからない。

お金はつくることも難しいけれど、使うこと、誰かにあげることは、それに輪をかけて難しいのだということだけは、身に沁みてわかった。

リードさんには複数の継子*2がいるそうだが、まだ彼らからのコメントは出ていない。

photo by markus spiske

*1:記事の上の方には8百万ドルー約9億円とあるが・・

*2:配偶者の子で、自分の実子でないもの

(2015年2月6日「ICHIROYAのブログ」より転載)